第12話『夏休みの予定』
「たっ、ただいまぁ~…」
あまりにも元気の無い声で神社に帰って来たのは学校帰りの美紀。いつもなら元気良く帰って来るので、美紀の明確な変化に小夜は少し心配になって美紀の許へ駆け寄った。
「おかえり美紀。今日は一体どうしたの? 朝学校に行く時は元気だったのに…」
美紀は涙目で小夜を見つめ、震える手で小夜の肩を掴んだ。
「この夏休みの宿題が… 多過ぎるんだよ!!」
宿題のプリントを小夜に手渡して、小夜は一通り読んだ。
そしてプリントを美紀へ丁寧に返して、
「…この量だと、十日程で終わるね」
美紀のLPが0になった。
「それに、ヒントもついてるから分かり易いし」
小夜のオーバーキル。
「英語だってほら、単語を読む問題がメインだし」
小夜のオーバーキル。
「勉強を普段からしっかりしていれば、特別難しいって程じゃないよ?」
小夜のオーバーキル。
「これだとまだブライト戦の方が難しいわね!」
小夜のオーバーキル。
「ぶぇぶぉっ!! やっ、やめてぇ~小夜ちゃん… わっ、私のライフは… 『0』だから…」
ばたんきゅー。
小夜が用意してくれた緑茶を飲みながら、美紀は宿題を解き始める事にした。
「早く終わらせないと、間に合わないよね…」
美紀の隣で解答を見ながら小夜は、美紀の先生役として手伝う事にした。
「そうよ。一ヶ月程ある夏期休暇に勉強を適度にはさめば、美紀の苦手な英語だって少しは克服出来るから」
英単語を一問づつ解いて頭に入れたいが、色んなスペルの角が引っ掛かり、正しい表記にならなくなってしまった。
「小夜ちゃん、これの意味ってさ…」
「さりげなく答えを聞いたら、私が口を滑らせるとでも?」
「えへへ… ですよねぇ~」
しばらく黙って英語と戦っていたが、美紀の体力がレッドゾーンに近付いてきた。
「うわぁ~ん! 難しいよ~!」
美紀は白旗を掲げてとうとう机に突っ伏してしまった。
そんな美紀を見て、小夜はほんの少し勉強の進め方を変えてみる事にした。
「ねぇ美紀、この中に読める英単語って何問在るかな? 順番通りに解くんじゃなくて、まず読める英単語を先に解けば少しだけ楽になるよ」
「私が読める英単語…?」
美紀でも読める英単語その壹。
「ベッド」
美紀でも読める英単語その貮。
「キス」
美紀でも読める英単語その參。
「保健室」
英語のスペルは順に、
Bed. Kiss. Health room.
「うん… 三問とも合ってるよ…」
何か引っ掛かるけど、そこは気にしないでおこう。
何故なら美紀の目がキラキラしてるからだ。しかもハートつき。
「じゃあ次は読めない単語だね。美紀、部屋から英和辞典を持って来て」
「分かった!」
美紀はテーッ!と走って英和辞典を取りに行った。
「辞典を使えば、少しは楽になるんだけどねぇ…」
少し待つと、美紀が英和辞典を持って来た。その辞典を机に置いてページを開き、検索を始めた。
「あ、この単語はこう読むんだね!」
探していた単語のスペルを見つけ、よく見ながらノートに書き写した。
「うん、うん… よーし! 長文問題もこれでバッチリだね! さぁ、次の問題へ行こう!」
美紀の勉強が進むにつれ、小夜は美紀の隣でただ座ってるだけの立場になってしまった…
「よーし! 今日はこんなに頑張れたよ!」
十数ページにも及ぶ美紀の解答が書かれたノートを小夜がチェックして、多少の間違いを確認してからノートを閉じた。
「お疲れ様。今日は沢山頑張ったわね」
小夜は美紀の頭をナデナデして褒めると、美紀がノートを持ったまま少しはにかんだ。
「こっ、これ位私も出来るから…」
「あら、ツンデレ?」
「違うってー! 小夜ちゃんが私をいきなり子供みたいな扱いをしたからだよー!」
「え~? でも、私はそんな美紀も好きだよ?」
美紀は即座に固まった。それはもう一歩も。一ミリも。
「…好きって?」
「それはもう、聞いたまんまの純粋な意味だよ」
小夜が美紀の事をを好き?
あの小夜が…
美紀を…
女子と女子のイチャイチャ…
それすなわち、百合。
「やっ、ゆぁ… す、きゃぁ…!!」
「ちょっ… ちょっと美紀、一回落ち着いて…」
「ゆりゆららららゆるゆりだーー!!!」
「噛み過ぎよ!!」
水をしっかり飲んで落ち着いた美紀は、宿題を片付け始めた。
「ねぇ小夜ちゃん。私ね、昼過ぎから文音の家で女子だけで夏休みの予定を話し合うんだ。小夜ちゃんは私がいない間に何処か行く予定とかないの?」
小夜は一瞬だけ考え、
「そうねぇ… 私は新築のお祓い位しか無いわね… 美紀は文音の家の他に何処か行きたい所があるの?」
「いや、特に行きたいトコはないけど… もしあるとしたら、私が見よう見まねで作ったフェイリスのコスプレをアキバでする位かなぁ~…」
「フェイリスって、美紀がよく観てるあの空想科学アニメに出てくるキャラだっけ? 私、美紀と一緒に観ている内にあの子の外見と声を完全に覚えちゃったんだけど…」
秋葉原に行けば、コスプレをした美紀に会えるかもしれない。
私行っちゃうかも? 勇気出して。
「でも、その日が猛暑日だったら地獄になるわね。そのメイド服は通気性は良いんでしょ?」
「もっちろん! ちゃーんと速乾性に優れてますので!」
それを聞いて小夜はひと安心した。
「ところでそのキャラの衣装は、店とかで売ってないの? そしたら、買ってすぐに着て楽しめるのに…」
「そうしたいのは山々なんだけど、ここから近くにお店が全く無いんだよねぇ~…」
ここから最寄りのコスプレ商品の販売店には、歩いて軽く一時間はする距離。そして今日の外はちょっとした地獄絵図。
たとえ着る服が通気性抜群で、汗だくにならないからという理由で水を頻繁に飲まないでいると、熱中症になってしまう。この暑い夏だからこそ、熱中症になってはいけない。
我々はこうしてる間にも水を飲むべきだと思います。
「それでも私は時々自分で作って完成させたからね! 早くコレを着てアキバに行きたいニャン!」
「何か変な語尾が付いてるんだけと!?」
「忘れ物は無い?」
「忘れ物は無いよ。これから文音の家に行くけど、何も持ち物はいらないから」
玄関を出た美紀は、
「行って来まーす!」
「行ってらっしゃい、美紀」
小夜は元気良く外へ飛び出して行った美紀を、立ったまましばらく見送った…
文音の家の前に来た美紀は、インターホンを押してすぐに文音を呼び出した。
「あるっひさーやはよるをゆくー♪ とっこやーみーのろうかをあーるきー♪ あたまなかわーれひとまえでー♪ かおをのぞいておどかしたー♪ おばっけがーでたーとさわいでもー♪ みんなあったまがへんときめー♪ いつもまいにちたのしげにー♪ いつのひかのよるにであったひとは さやのみててをにぎりだし あしたもきてくれーとお・ね・が・い♪ つぎーにきたーひもまっていたー――――」
「ねぇ美紀… いつも歌ってるその即興的な歌は一体…」
「あ、文音ー! 私が来たよー!」
「う〜ん… やっぱり、歌に関してはスルーなんだね…」
文音の部屋に入ると、既に明が床にチョコンと座っていて、文音から手渡されたバニラアイスを食べていた。
「明ー! こんにちはー!」
「こんにちはー!」
美紀の声が聞こえた明は、美紀のセリフを真似して返事した。すぐそばでその様子を見ていた文音は、溜め息を吐いた。
「あまり大きい声を出さないでね。明は今アイスを食べてるんだから…」
「そーそー! ボクは今、文音にアイスを食べさせる途中だったんだからね!」
「そういう事。カップルみたいな事してる人を凝視してたって、何も面白くないから… って!」
文音に向かって明がアーンをしていた。文音は明からアイスを一口食べ、喉に通した。
「私は明の彼氏じゃないから!!」
文音のツインテールが真っ直ぐ突き立った。そのツインテに丁度日光が当たり、眩いばかり金髪は黄金の髪の様に光り輝いた。
「よし、この位で良いっか!」
「私は今日、どんな立場なのよ…」
「青天の霹靂、天地鳴動… 世に縛られし我らに今、解放と救いの手を差し伸べよ!!」
そんな凄いセリフが聞こえたかと思った次の瞬間、文音の部屋の天井裏がアクション映画の様に破壊され、誰か落ちてきた。
といった彼女のイメージで、普通の家より数十センチ高い天井に張り付いていた来宮がキメ顔で落ちてきた。
スカート姿なのに、何故そんな事をしようと思ったのかは考えない方が良い。
来宮 めぐみ、生粋の厨二病。
カッコ良ければ、服装は二の次なんだからさ。
「え!? だ、誰!?」
文音の第一声はあからさまに狙ったセリフを吐いた。
文音もとうとう美紀の影響が出始めてしまったかぁ…
しかし来宮は、そんなセリフが聞こえてなかったのか、
「私が来た!!」
歯を見せない笑顔で決めセリフっぽい事を言っていた。
「我が名は来宮! 何者にも縛られぬ魔法使いであり、充実した人生を送る者!!」
今、さらっとリア充宣言した様な…
「来宮…?」
文音はふと、美紀が最近親しくなった人の苗字を思い出した。
「あ、あの… 来宮さん? えっと、来宮 めぐみ先輩でしょうか?」
来宮はムッとした表情で文音の目の前に近付き、顔を近付けた。文音は急な接近に少しビクッとなった。
「私は先輩ではない… 『~さん』なら許すが」
文音との距離を全く変えずにまじまじ見ていると、文音のその綺麗過ぎる金髪が最初に目に入った。来宮は少し驚きながら固まったかと思いきや、すぐに我に返り、また文音の目を見た。
「私は人間としての名があってな。そこでは『来宮 めぐみ』。魔法世界では『来宮 めぐみ』だ。ではお前はどっちの住人だ?」
文音の頭の中で厨二病キャラの接し方を一瞬で考えた結果は、
「初めまして、来宮 めぐみさん。私は人間の音無 文音と言います。来宮さんは魔法が使えると分かりましたが、私は魔法が使えない代わりに魔法の知識を少しだけ持っています。どうぞよろしくお願いします」
文音は丁寧にお辞儀して自己紹介を終わらせた。来宮はあごに手を当てていたが、その手を離してフッと笑った。
「とても良い名だな。音無 文音」
「来宮さん… 確かに『音無』という苗字には『音無』という読みがありますよ… つい先程自己紹介した様に、私の名前は音無 文音ですよ…」
来宮は文音を少し変な角度で見ながら、
「失礼、噛みました」
文音の金髪ツインテが真っ直ぐ下にぶら下がり、文音は来宮の言動の意図を理解した。その意図に沿って苦笑いしながら、
「わざとですね…」
美紀から一方的に教わったアニメを思い出しながら、文音はある不安を抱える事になった。
“まさか、来宮さんに会う度にこの下りを…?”
「よーし! 皆集まったね?」
皆が美紀を見ている事を確認してから、本題に入った。
「今日は皆で夏休みの予定を発表しよう!」
「おー!」
明だけがパチパチと拍手してくれた。それが逆に美紀のテンションの空回りを強調してしまう。
「明、拍手ありがとう…」
流石の美紀もこの空気が分かった様だ。それでも無理矢理立ち直り、話を続けた。
「もうすぐ八月! 一ヶ月もある夏休みを皆はどう過ごすのかをこの場で発表しようよ!」
すると明がすぐに手を挙げた。まだ指名してないのに立ち上がり、発表を始めた。
「ボクね、廣明君の家に泊まるんだー!」
「廣明?」
来宮がピンと来てない中、美紀はギュピーンと反応した。
「今、泊まるって言ったよね…? まさか一泊…?」
「うん。一泊だよ」
すると美紀の目が輝き出した。文音はその後ろで頭を抱えていたが、当然美紀は気付かなかった。
「それでそれで!? どんな事するの!?」
「ん~っと… 一緒に暮らすんだよ」
「じゃ、じゃあ… その人と明との関係は!?」
「そうだねぇ~… 一緒にご飯を食べたり~、一緒にお風呂に入ったり~、一緒に寝たりする関係だよ!」
明が顔を赤くしながら答えてくれた。明の言動を見る限り、これは一途な恋愛感情を持っている事が分かった。
「良いねぇ~… 明はお泊まりデートかぁ… どうする文音? 明が廣明にもっとベタベタする様になったら」
しかし、文音は深く頭を下げていた。そして一言、
「ごめん美紀… 明はもう、とっくの昔から石黒君にベタベタしてるんだよ… 私達と石黒君とは小さい頃から遊んでたから、いつの間にか明が石黒君の事を気に入っちゃって…」
一途どころではなかった。
もしかしたら両想いの可能性が非常に強い。
「良いねぇ~! その二人きりの時間を大切にしてね!」
「はーい!」
その裏で、
“お の れ リ ア 充!!”
リア充爆発四散を心から願った。
「じゃあ次は誰が発表する?」
文音が手を挙げて、立ち上がった。
「私が発表しても良いかな?」
「では文音、どうぞ!」
文音は一度咳払いをして呼吸を整えた。そして、息を少し吸って発表を始めた。
「私の夏休みの予定は、まだ決まってません。ですが近い内に予定が決まり次第発表しますので、今しばらくお待ちください」
文音は頭を下げて発表を終えた。美紀達はとても丁寧な発表を聞き、思わず拍手していた。
文音の発表に敬語が混じってて、少し改まって聞いてた美紀は、いつの間にか正座して聞いていた。
「流石文音だね。とても丁寧な発表だよね!」
「そうだった? フフ… ありがとう」
「では! そんな予定が決まってない文音に、美紀から予定を与えたいんだけど、良いかな?」
美紀が少しだけキラキラし始めた。文音は何かを察しながら、
「それは、どんな予定かな…?」
「ズバリ、コスプレだよ!」
文音の頭の中で、ありとあらゆる服装と美紀の姿が写った。文音は視線を横に移しながら、
「なっ、何を着せようと…?」
「学校の制服だよ」
「意外と王道ね…」
「そして、店で買ったこの銃を文音が持って、私は忍者のポーズを…」
「もう一人は誰がやるのよ…」
「明がやるよ。文音にボコボコにされる女子高生の役!」
「美紀はやっぱり忍者の役なんだね…」
美紀は文音に対して笑顔でいるが、心の中では手で胸を抑えながら必死に理性を抑えていた。
“今すぐにでも文音に沢山のコスプレをさせてあげたいのだが、今はガマンガマン…”
「よし!」
美紀はフフンと鼻を鳴らして、直後に文音の鞄を持って演技を突然始めた。
「二ーハオ! 私、伊藤 美――――」
文音は美紀の首に腕を通し、美紀をやっつけた。
入れ、オープニング…
…あれ? 入んない?
あ、これアニメじゃないのか…
「よし、次は来宮だね」
来宮の方へ振り向くと、来宮はドヤ顔で立っていた。まだ指名もしてないし、呼んでもないのに。
「私は夏休み初日から、秀とマミの三人で山あいの村に部活動の一環として行く事になった。そこで映画の撮影をして、いずれはそれを世界中の人間達に公開する予定だ…」
軽いドヤ顔で来宮の発表は終わった。皆が拍手をする途中で来宮はゆっくり座り、左手を頭の近くに当てた。
女の子座りのまま。
「これで、最後に美紀が発表だね」
文音が美紀に視線を向けると、美紀はプイッと視線を逸らして誰の目も合わない様にし始めた。
「あっ、いや~… 私はもう発表したと思うんだけどなぁ~…」
後退りしながら部屋の壁にぶつかると、美紀は涙目で皆を見始めた。明には当然通じなかったが、文音にもわずかに効果が現れてきた。
「まぁ、予定がありすぎて全部言えないのよ。きっと」
文音が頷くと、明も何となく頷いた。
「そうだよっ! 私は夏休みはちゃんと勉強でズルせずやって、街中を徘徊する予定があるんだから!!」
「学生が夜の街中を歩いたら、警察に捕まるよ」
「大丈夫! ちゃんとホテルで夜を過ごすから!」
「それは、どんなホテルかな?」
「うっ…」
美紀の口が止まった。文音が口論に勝利したが、そこへ乱入者が現れた。
「音無、「どんなホテル」とはどういう事ですか? ホテルはホテルですよね? それとも、ホテルにはいくつもの種類が在るんですか?」
文音は驚いた表情で来宮を見た。来宮は既に軽く首を傾げていて、その瞳には穢れを見つけられなかった。
文音は確認で一言聞いてみた。
「来宮さん、愛人同士で泊まるホテルの名前は…」
すると来宮が目を見開いて、
「愛人としか泊まれないホテルが在るんですか?」
顔を赤くせずに答えた来宮を見て文音は、来宮をじっと見た。
“この人もしかしたら、明よりも純粋かもしれない…”
「それでは、私がそのホテルについて――――」
その時、美紀が文音の口を押さえて口止め料の算数ドリルを渡した。文音はとりあえずそれを貰ってから周りに聞かれない様にヒソヒソ話で話始めた。
『どうしたの? いつもの美紀なら、こんな時こそ、この類の情報に詳しいあなたの出番なのに…』
『来宮にラブホを教えちゃ駄目っ! もしこの日をキッカケに援助交際なんてし始めたらどうするのよ!?』
『ちょっと待って… どうしてこのタイミングで援助交際が出てくるのよ…』
『これは私の予想だけど、来宮の家は貧乏かもしれないの。高校の入学金できっと財産が危ういかもしれないし、もしかしたら家を売るかもしれない…! そして、一人途方に暮れた来宮が夜の街を歩いていたらナンパされて、行くあても無かった来宮がその男について行く先で犯罪に巻き込まれたらどうするの!? そんな未来の根っこは文音がラブホを教えたこの瞬間になるんだよ!? さぁ文音!! 一度深呼吸して! ラブホを本当に教えるの? 教えないの?』
美紀は話してる間ずっと文音を揺らした為、少しだけ酔ったが、まだ何とかなった。文音は普通じゃない美紀が気になった。
『…分かったわ。じゃあ美紀に説明を任せるから、美紀は上手な説明を頼むわよ』
『うん、任せて!』
美紀と文音はサッと振り向き、来宮を見てから会話の続きを始めた。
「例えば、来宮には好きな人がいたとする。その人とホテルに行く事になったら、ホテルの予約を取るでしょ?」
「えぇ、取りますね」
「そしたら、そのホテルは愛人同士で泊まるホテルになるよね? それは分かるかな?」
来宮は少しだけ考え、
「何だか少しだけ話に違和感がありますが… まぁ良いでしょう。つまり、男と一緒に泊まるホテルが愛人同士で泊まるホテルと言う事になるんですね」
「そ、そう…! そう言う事だよ…」
美紀も文音も、笑ってごまかした。
「…?」
来宮が首を傾げた。
ちょっと流石に無理があるか…
「じゃあそろそろ夕方のチャイムが鳴るから私は帰るけど… 誰か話し忘れた事とかは無いかな?」
「私は無いよ。けど、もし私に予定が出来たら、その日の内に美紀に連絡するね」
「よし分かった。じゃあ明は?」
明は何か言っている様だが、文音に口をしっかり押さえ付けられていたので、セリフを聞き取れなかった。
美紀が無言で来宮を見てみると、来宮は顔を赤くしたまま上の空になっていた。美紀は顔を一気に近付けて、
「来宮?」
「うわぁっ!?」
来宮はビクッと驚いて後退りした途端、背後に在った勉強机の角に頭をぶつけて後頭部を押さえて悶えた。
「もう帰るよ?」
「あ、あぁ… 分かった」
家の前で美紀と来宮は家の外で文音と明と別れ、途中まで美紀は来宮と一緒に歩く事になった。
「今日は楽しかったね! 皆の予定が聞けて!」
「確かに、皆の予定を事前に知っておけば、どんな時に電話をかければ良いのか分かりますからね…」
「そうそう! たまにあるでしよ? 相手が電話に出ないから、つい何度もかけちゃう事って」
「ふむ… ありますね。普段なら応答する時間なのに繋がらなかったら、普通おかしいと思いますよね」
「でしょ!? 電話に出なかったら、つい何度もかけ直しちゃうよね~!」
美紀は数歩だけ黙って、もう一度口を開いた。
「ねぇ! もっとお話しようよ! 私と歩く道が一緒の間まで!!」
「ふっ… 我の事がそんなに知りたいか… 良いぞ。良かろう。そなたに我の事を一つ教えてやろう!」
「やったー!」
美紀は子供っぽい仕草で喜んだ。
「それで!? まずはどんな事を教えてくれるの!?」
来宮はフッと笑い、
「私はこっちの方に家が在る。ではまた会おう、伊藤 美紀」
来宮はとてもカッコ良く振り返り、美紀に自分の背中を見せながら去って行った…
「えっ!? もう歩く道別々なの!?」
来宮は右手を上げて左右に振りながら、帰って行った…
そんな来宮を見て美紀は、周りを見回してから一言言い放った。
「それはないよーーー!!」
次回掲載日 2019年8月4日 午前0時




