終点へむけて2
サン・アラミノス大聖堂の地下には六十三人の枢機卿達がサラの到着を今か今かと待っていた。その中には時の教皇ラダーレンも加わっていた。
地下は巨大な墓地があり、歴代の教皇や聖人たちが祀られている、神聖な場所。
今からここで肉の饗宴が行われる。
「只今、サラ司祭が到着したとの報告が入りました」
そう話すのはヨッカ枢機卿だ。
どよどよとした歓声が上がり、召し連れられた使徒(少年少女)は不安な表情をのぞかせている。
「諸君!我々主のしもべは今日欲望を開放する。欲望は主が我らに与えた自然であり、自然を冒涜することはすなわち罪である。我々主のしもべは、日々罪を犯している、だが今日罪は贖われる。彼らの肉によってだ!喜ぼう兄弟たちよ!禁忌を犯せ!いやそうしなければならない、宴の時は来た!」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
満場の雄たけびが上がり興奮が高まる。
この時、使徒の容姿端麗な使徒の子供達は、これから自分たちの身に起こる事態を想像し、震え上がり、顔色を青ざめさせた。
地下墓地の中はあの特有の甘酸っぱい匂いで満ちて、傍観するサラはくらくら、目眩を覚えた。
今回は少年少女だけでなく、枢機卿らも一緒になってマクを喫煙していた。
ほどなくマクが決まり、興奮に包まれる地下墓地。
少年少女は、乱暴されるもの、押さえつけられながら飲尿糞食を強要されるもの、鶏口好きの枢機卿からいたぶられ、嬲られ、歓喜の表情で救済を求めるもの、未だ平たい乳房をナイフで薄く刻まれながら恍惚の表情のもの、白いモノを出しているそれを自分にねじ込もうとする枢機卿、少年少女を行為に及ばせながらムチ打ちにする枢機卿、四股を切り取られ止血され、ダルマの様な美少女を愛撫する枢機卿、……
さすがのサラも途中で気分が悪くなり地下墓地を上がってしまった。
「普段は信徒に優しく接してる坊さんってよっぽどストレスがたまってるのねえ、それにしても凄まじい肉の饗宴ね、何人のコが死んじゃうのかしら、あーやだやだ」
宴はマクを喫り続けながら、一昼夜行われ続けた。だが次の日の朝に事件が起きた。
ラダーレン教皇が少年との時、腹上死してしまったのだ。そのせいで宴は即中止となってしまう。
「あら、おじいちゃん死んじゃったわ、まあ具合悪いって言ってたしね、年甲斐もなくハッスルしてたら当然か……まっこれで教皇選挙がはじまるわけねえ、あはんっ、わたしって最近ツイてるわねぇ」
十日後に開かれた教皇選挙は枢機卿のみで開かれる、バーデン聖教の信徒から推挙されるシステムだ。実際には枢機卿から選ばれることがほとんどだ。
今回の選挙では悪い趣味を共有し、愉しんだ者達による出来レースとなり、全くの一方的な結果となった。
あの快感を一度でも知ったものは虜とする、恐るべき薬マク。
ヨッカが枢機卿の中から選抜されることになった。
そして同時に、すぐその場で薬マクの元締めであるサラが空席となっていた枢機卿のポストに選抜されたのだった。
栄光を手に入れた二人は目くばせし合い、お互いにうなずき合うのだ。
戴冠式は3日後に開かれた。
式はサン・アラミノス大聖堂で執り行われその式典には皇帝フティング三世も列席される。
バーデン聖教会一千年の歴史上、初の女性枢機卿となったサラも式典に列席し、そこで皇帝と、その儀仗兵の姿を初めて目にした。
異様だったのはその兵が袈裟懸けに背負った鉄の筒のようなもの、サラからしても初めて見るものだ。
その筒には無骨で禍々しいものをサラは見、言葉では言い表せない不安が心によぎった。。
サラが枢機卿になる五日前、クララは十字軍を率いて魔王城前のダンジョンに到着した。
そこに待ち構えるは勇者エミだ。
「久しぶりですクララ、このダンジョンは私とあなたにとって思い出深いところ」
「わからない、何故勇者エミがここにいるんだ?」
「それはこちらも一緒ね、何故クララが魔界に宣教しにくるわけ?まあいいわ、あなたの質問に答えましょう。私はね、フティング三世の勇者はやめたの、魔王の勇者になったのよ。当然でしょ、私たちは裏切られたんだから」
「それはボクもいっしょさ、でもボクは教会のヨッカ枢機卿猊下に見初められ、主の愛に目覚めた、神の預言者になったんだ!」
「預言者?あなたいつからそんなものになったのよ、頭おかしいじゃないの。クラベリア娼館で病気にでもかかったの?」
「そうか……かわいそうにエミ、あなたはあんな地獄に送られていたのか、だけど大丈夫、ボクがとりなしてあげる、皇帝に、教会に戻っておいで、サラにも頼んで君にも素晴らしい神秘を見せてあげる」
「サラが神秘を見せるですって?それってまさか……」
「そうだよ、エリも一度体験してごらん、極彩色のお花畑に飛ぶ瞬間を、色とりどりの蝶が舞い、美しいニンフたちが泉で戯れ、愛し愛される人との歓喜のひと時、地上の楽園を……」
「クララ、これではっきりした。あなたと話して、もしかしたら私の剣が鈍るんじゃないかと思っていたけど、そんなことなかったわ」
「サラ、神の愛は無限だよ……」
クララが言い終わる前にエリはレイピアを抜刀しクララの心臓を一突きにした。
「エ、リ、も許さ、れ、る、大丈」
エリは聞き終わる前にレイピアを引抜き、間欠泉のように噴き出す血を浴びた。
血塗られた勇者エリの前に、クララがしゃがみ込むように静かに崩れ落ちた。
一瞬の静寂のあと、少女が髪を掻き乱し甲高い悲鳴を上げた。また隣の少年は口をおさえ過呼吸を起こした、それらの症状は次々に伝播しダンジョンは少年少女の集団ヒステリーの渦に飲み込まれていく。
「スラリー、予定通りやっちゃって、うっさいから」
「待ってたっぺ!全員皆殺しにしてやるっぺ!」
巨大なスラリーは波のように少年少女を飲み込み溶解し、更に更に巨大化していき、洪水のごとく、城壁のように少年少女を取り囲む。
追い詰められた子供たちの中心部は余りの人の多さに圧死する子さえ出た。
「初めて、陣形が役立つっぺ!それにしても無抵抗なじゃりだっぺ」
「フッフランマ!」
震える少年が一人、炎の魔法をかけてくる、しかし沼にマッチを一本落としたような火力ではスラリーには蚊ほども感じられない。
「オラにそんな手品もう通用しねえっぺ!」
スラリーはとっさにその少年めがけて体を槍のごとく刺突させ、その少年を貫いた。
「ゴフッ」
少年は体を硬直させ、口から血を吐き出した。それを合図にスラリーは少年を内部から体液を吸い上げる!スラリーの新たな必殺技。瞬く間に少年は干からびたように果て、そのままスラリーに取り込まれてしまう。
スラリーの体は沼のように大きく、城壁のごとく高い、その中には死ぬほどの激痛を訴える少年少女が生きながらに溶かされて、ダンジョンは阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
「ママ、ママ、怖いよ怖いよ、助けてー!」
「何で私が死ななきゃいけないの!」
「夢だ……これはきっと悪い夢なんだ……」
「うそよ、こんなのうそよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「こんな事、あっていいはずがな……」い
「僕が、とけちゃう……?」
少年少女の絶叫や恐怖、呪いの言葉すらもスラリーの供物となっていく。
少年少女を早くも半分ほど飲み込んだスラリーの体は血の色に染まり、その中には未消化の骸骨が無数に漂って、血の海を泳ぐスケルトンの塊のようだ。
いまその塊が生存者に襲い掛からんとしていた。
その地獄絵図を仰ぎ少年少女達は絶叫をあげ、あるものは神に祈りを捧げ、あるものは十字を切り、あるものは自らスラリーの中に飛び込んだ。
絶体絶命の子供たち!
スラリーは情け容赦なく、津波のごとく襲い掛かる!
すべての子供の皮膚を、脂肪を、筋肉を、内臓を、骨を、血を、すべて溶解し捕食した。
十字軍は今、全滅した。誰一人として生き残るものはなかった。五千を超える少年少女はスラリーの餌となった。
スラリーは山のごとく巨大になる。
巨大なドラゴンなど比較にもならず、今や世界最強の存在!
大量破壊兵器スラリー降臨!
やっとスラリーの完成です。長かった。