永遠の幻想と僕
ご機嫌いかがかな
実に滑稽な殺人者だっただろう。
誰にでも初めての瞬間というものは存在する。
ただ、彼女にとってその一歩目が最悪だったというだけだ。
これを運が悪かったと言うべきかどうかは、判断が分かれる所だろうね。
キミはどう思うだろうか?
おやおや、そんなに怖い顔をしないでくれ。
善悪の判断など、所詮は人によって違うものだろう?
理解出来たかい?それは結構な事だ。
それでは次は君の好きそうな話をしようじゃないか
君は恋愛にというものについてどう思うだろうか
この物語の主人公は『永遠を望んだ恋人達』
彼女が何を想い、そして彼が何を想ったのか
そもそも永遠とはどの様なものなのか
篤、ご覧あれ
降り続く雨の音にギターの音が調和する
広場の噴水に腰掛け、彼女はどしゃ降りの雨の中で歌う
『時に思い出す。あの時ああしていればと』
1人2人と彼女の周りに人が集まり出す。
世界を憂う訳でもなく、世界を否定する訳でもなく、
彼女はただ思い出を憂う。
『目を閉じてなお、あの日の光景が頭から離れない』
10人20人と彼女の周りに人が集まる。
楽器はギターだけで、彼女の声は1つなのに、それでも雨は容赦なく降り続く。
何故だろうか、この胸に広がる漠然とした不安は
何故だろうか、その場所にまるで彼女が居ないかの様に感じるのは
僕は衝動的に彼女のもとに走る。
雨が邪魔で前がよく見えない。雨が邪魔をしてうまく走れない。
傘を捨てても、靴を脱ぎ捨てても、体は軽くならない。
『君を微笑わせたいと想ったんだ』
歌は今でもしっかりとこの耳に聴こえている。いくら走っても近づいてる気がしないのはなんでだ。
『怖れないで。私が傍にいるから』
怖くなんてないんだ。彼女の周りに群がる人が邪魔だ。
どけよ、お前たち。僕は行かなきゃいけないんだ。
『君を微笑せたいと想ったんだ。こんな事は初めてだよ、おかしいだろう』
100人200人と彼女の周りに人が集まる。
誰か彼女を止めてくれ。どうしてお前たちは気付かないんだ。
どうしてそんな傍にいるのに気付かないんだ。
『怖れないで、キミの帰る場所はココにあるのだから』
何度も言ってるだろう、もう怖くなんてないんだ。僕は君に救われたんだ。
どけよ、お前達。ぼさっと突っ立ってんじゃねえよ!見せモンじゃねぇぞ!
『愚かな人は君を悪く言うよね。でもそれでもいいじゃない。わたしは否定しないよ』
頼む、どいてくれお前達。もう時間が無いんだ。今しか無いんだ。
人を掻き分けて、ぶっ飛ばして、何度も転んで、泥だらけのまま、それでも足は止めない。
『星空を見上げて、風を感じて、手を繋いでくれたキミの事、覚えてるよ』
忘れるわけないだろう。2人ならどこまでも行けるような気がするって言ったじゃないか。
なんで、なんで、なんで邪魔するんだよ。近くに居るのに、お前達が邪魔で前に進めない。
言ってくれたじゃないか、この歌は僕達が忘れない様にする為のものなんだって。
『忘れないでね。私はずっと君を見ていたけど、君はそうじゃなかったんだね。
見え方は同じなのに、見ているものが違った』
うるさい、うるさい、うるさい。もう止めてくれ。誰かあのギターを叩き壊してくれ。
『もうこんな事言う権利はないけど、今の君の姿を見る事が出来て安心したよ』
そんなこと言うなよ。やっとここまで来たんだ。やっとここまで来れたんだ。
『それでもこんな雨の日には想い出してしまうの。自分の弱さも、君の弱さも。
どうしてあの時こんな風に想えなかったんだろう』
最後の一人を突き飛ばして、やっと僕は君にたどり着く。
でも、その場所には誰もいなくて。雨だけが耳鳴りのように僕の耳に響く。
振り返ってみても、あれだけいた観衆も誰ひとりとしていなくなってた。
ようやく理解できた。
でも、もうどうなる訳でもない。




