黒き少年と君が望んだ終わり
大切な言葉があった。
大切な誓いがあった。
でも、信じる事で壊れてしまうものもある
姉さんの願いを、今叶えよう。
目を背けずに、目を逸らさぬように
この奇跡を焼きつけよう。
この場所には何も無い。
彼女の世界は闇に支配されていた。
「これが貴方の心の中だとでも言うのか?」
語り部たる彼女はオレの声に耳を貸すことも無く天を仰ぐ。
「私は知っている。君が現れたこの物語を知っている。何故だろうか、描いた覚えも無く読んだ覚えもない。何故だろうか?意味もわからず高揚するんだ。今なら何だって出来そうだよ。あえて繰り返し問おう。君は何を望みこの場に顕現した?」
貴方はまだその役柄を放棄できないのか。
いや、そうでもしないと耐えきれないという事か。
「この物語は貴方が夢見た世界だよ。自分の願いまで見えなくなっちまったのか。これは叶わなった未来に貴方が望んだ偶像の世界だ。そしてオレは貴方を救う為にこの場所まで来た」
貴方は願い続けていた。その願いが何なのかさえも思い出せなくなってしまったようだけれど。
「私の夢見た世界?なるほど、なかなか叙情に溢れた言葉だ。弔いに涙を、誕生に賛美を。力ある言葉は幻想を砕き、真実までも塗り替える。君はこの場所に存在する私を仮初の存在だと仮定した。ならばこの現実は喜劇だとでも云うのだろか?君が顕現した理由は私を救う為だと?それは実に痛快な答えではなかろうか?私は助けを求めてもいなければ、助けて貰わなけれならないほど弱い存在でも無い。忘れてはいけないよ、この物語の描き手が私であることを。それでも君が望むならそれも由、叶えてみよ、その願い」
そこまでを一息で語り、彼女は天に指を向け振り下ろす。
頭上に輝く星空から選定された星が俺に向かって降り注いで来る。
その光景に不覚にも目を奪われた。
まさか、この目がもう一度焼かれる事があるなんて思いもしなかった。
闇の世界に巨大な白が生まれる。
塵一つ残らないほどの衝撃を受けてなお、世界は形を変える事無く存在する。
彼女の生んだ力ではこの世界は絶対に壊れない。
そして彼女の望んだオレが傷一つ負う訳も無い。
「アハッハハハハ!!とんだ化け物じゃないか!!私の物語の中で私の影響を受けないとうのかい?そんな筈、或る訳が無いだろぉぉぉぉ!!!」
繰り返し星を降らす彼女を眺めながら、もうたくさんだと思った。
いつまで貴方は自分でさえ思い出したくも無い光景を繰り返し再生するのだろう。
一歩ずつ、彼女の元に歩み寄る。
彼女は狂ったように星を降らす。
千の流星を受けようと、億の流星を受けようと歩みは止まらない。
「何なんだオマエ!!こんな事は有り得ない!!こんな物語は有り得ない!!星に撃たれて無事でいる訳がない。星の力を受けて、無傷でいられる訳がない!!有り得ない!有り得ない!有り得ない!有り得ない!有り得ない!有り得ない!」
---じゃあ僕は誰にも傷付けられない人になる。
かつて果たす事の出来なかった約束を胸に
---そしたら姉さんは誰も殺さなくて済むし、世界も守る事が出来る。
オレはやっと彼女に手が届く。
彼女の体を優しく抱き締める。
オレより頭一つ小さくなった人。
「姉さん。ごめん、オレは約束を守れなかった。オレがあんな事にならなかったら、こんな世界は生まれなかったのに」
自分の情けなさに涙が出る。
この世界は俺の罪そのものだ。オレが約束を違えなければ、オレが誓いを果たせていたら、こんな事にはならなかった。
それなのに、未だに姉さんの温もりに甘えてしまう自分が情けなくて、涙が止まらない
その瞬間、語り部たる彼女の焦点がブレる。
自分で閉じた宝箱の鍵を見つけた様に
捨てる事の出来なかったものを思い出したかの様に。
ゆっくりと目を覚ます。
「ああ、そんな、、本物だというの?本物の君だというの?まさかこんな奇跡が起こるなんて、こんな結末があるなんて。
こんな姿でまた会う事が叶うなんて。君のせいじゃない。こんな事になってしまったのは私の弱さのせい。君が謝る必要なんて何もないのよ
こんな世界を創ってまで、それでも願った夢が叶うなんて」
そう言って俺を抱きしめ返してくれる。
あぁ、この人はやっぱりオレの愛した姉さんだ。
全部思い出してくれた。
「さぁ姉さん。随分時間がたってしまったよ。そろそろ帰る時間だ。オレはもういないけれど、オレはもう何もしてやれないけれど、、、もう大丈夫だろう?」
姉さんが強く抱き締めていた手をそっと解いてそう告げる。
姉さんは二度三度と首を横に振り、それでも言葉を紡ぐ。
「・・・そうね。これ以上は君の姉として情けない姿を見せられない」
そう言って、彼女は星空を仰ぎ見る。
---姉さん、僕は今日から正義の味方になるよ
「ありがとう、私の正義の味方」
姉さんの体が粒子状になり、星空に吸い込まれていく。
これで本当のお別れだ。
姉さんには本当に笑顔がよく似合う。
姉さんは俺の居なくなった現実に耐えきれなかった。
だから自分の世界に深く深く入り込んだ。
深く入り込みすぎたせいで、自分を亡くした。
逃げた事も、望んだ夢も
そして一人、物語を描き始めた。
いつまで時を重ねようと、救われる事のない物語
それを読み手と呼ばれる人達に読み聞かせた。
そうする事で感情が集まった。
この物語を救おうとする感情がいくつも集まった。
姉さんが本来望んだ救いの感情と、読み手の感情が重なり合って
本来イレギュラーな存在が誕生する事が出来た。
「あんた達にも例を言う。ありがとう、この物語を読んでくれて。あんた達が救いたいと思ってくれたおかげでこの物語は終わる事が出来た」
忘れないで欲しい。この物語は読み手である君達に救われた。




