第2話
「んんっ・・・朝、ではないか・・」
セイジはまだ朝と言うには早すぎる、空が白み始めてすらいない時間に目覚める。
ほろ酔い亭を継いでからはこれがが習慣になっていた。
「今日は北の方に行ってた漁師さんが帰ってくるし、いい魚が上がってないか見てくるか」
彼の朝が早いのは、店で使う食材を仕入れる為だ。
今日は、このシャーロット島…島と国の名前は女神シャーロットの名をそのまま頂き、名付けられたらしい…の北側まで漁に出掛けた船が帰ってくる。
島の南側にある港周辺で取れる魚介類はよく使うが、北側で取れる魚は珍しいものが多いので楽しみだ。
そしてセイジはベッドから起き上がり、隣の部屋で寝ている家族を起こし向かった。
「おーい、港に仕入れにいくぞ~」
「すぅ、すぅ・・・う~ん、もう食べられないよ~」
・・なんともテンプレな寝言を宣ったのはティナだ。
セイジがこの世界に来た時に家族として受け入れてくれた親父、今は故人となった彼の一人娘がティナで、それ以来彼女とはほろ酔い亭の裏にある家に一緒に暮らしている。
幸せそうな寝顔を見せるティナ、普通に健康な男なら色々いけない事を考えてしまいそうだが、セイジの感想は・・・
「だらしねぇ・・」
だった・・・
外ではいかにもな完璧美人のイメージをもたれているティナだが、自宅では・・・
ダボダボでよれよれな肌着の隙間からは色々見えてはいけない物が見えているし、寝癖でボサボサの髪、ひどい寝相でベッドから放り出された毛布、その周りにはごちゃごちゃしたガラクタが足の踏み場もない床。
汚部屋With干物女
それがティナの本来の姿だった。
常連客で彼女の事が気になっている人もいるだろうが、この姿を見れば百年の恋も覚めるだろう。
セイジはガラクタを蹴飛ばしながらベッドの横に立つと。
「うおりゃあ!!!」
ティナをベッドから敷布団ごと突き落とした。
「きゃ!!!」
ゴキッっとか、バキッっとか、グチャやら騒がしくベッドから落ちた。
罪悪感はない、普通に優しく起こしていたら絶対目覚めない。
放っておいたら昼まで寝てる女だ。
「うにゃぁ~、・・・あっ、せ~じ~おはよ~・・・むにゃむにゃ」
また寝やがった、う~ん、今日は何時にも増して手強いな。
まぁ、手がない訳じゃないがあまり可哀想で使いたくないからなぁ。
「や~い、せ~じのかいしょ~なし~、ど~て~やろ~」
イラッ!!!
再びガラクタを蹴飛ばしつつ、今度はベッドの下でよだれを垂らしているティナの横にしゃがみこみ・・・
ティナの胸をわしづかみに・・・
出来なかった。
余りにも小さ過ぎて。
「残念な胸・・・」
ふと、ティナを見れば目を覚まし、半泣きでこっちを見つめながらぷるぷる震えている。
ティナは何時でも胸をネタにすればこの反応をする。
寝ていようが、酔っていようが、泣いていようが。
この後ちょっと落ち込むが、これで起きなかった事はない。
寝言とは言え、甲斐性無しとか、童貞と言われたからちょっと位は仕返ししても良いだろう。
「うぅ、ぐすっ、おはよ~ぅ」
「おはよう、寝坊助娘」
2人暮らしなのに朝から騒がしいが、これも休日以外の朝、毎日の光景だ。
さぁ、今日もいい日になるといいな。
なんて事はない日常がまた始まる。