貴女達は「何」なの?
大変お待たせ致しました!!
何故か何時もあやかしの更新を忘れてしまうという・・・
「大丈夫?美雨。……ごめんね……。」
真紅は美雨の手を取って立たせると、そっと睫毛を伏せ、俯いた。
そんな仕草も様になっていて、とても艶っぽい。思わず惚と見とれてしまう。
「大丈夫っ!!気にしてないよっ!!」
美雨は太陽のような笑顔を向け、元気いっぱいに応える。
そんな美雨の笑顔につられたように、真紅も花が綻ぶ様に、美しく笑んだ。
その仕草は優雅で気品に溢れ、何をしていても絵になってしまう。
同性だというのに、目を奪われ 見惚れてしまう。
「立てる?」
「ん~……まだちょっと残ってるかも。」
「マタタビね……。どうせ三尾が仕組んだのでしょう。」
困った人。そう言って、その美しい顔を顰める。
「も~~~っ!!三尾嫌いっっっ!!」
だんだんと地団太を踏む美雨に苦笑する。
「悪い人ではないのだけれどね……。」
困った人ではあるけれど、と付け加える。
「それより美雨、走れそう?」
「まだちょっと無理かも。ふらふらするや。」
「じゃあ、此処で待ってて。栞さんを守ってね?」
「――?終わったんじゃないの?」
不思議そうに問いかける美雨に、困ったように微笑んだ。
「いいえ。咄嗟に加減したから、吹き飛ばしただけよ。刹那様に引き渡さなければならないし、千歳さんにも報告しないとね。」
口の利ける状態じゃないと、刹那様に怒られてしまうし。そう言って深くため息をつくと、鋭い視線を森の中――男たちの方へと向ける。
「それに、獣は体の頑丈さだけが取り柄でしょう?」
あの程度じゃたいしたダメージにはならないわ。その言葉に、美雨は悔しげに自分の手を見る。
む~っと唸る美雨を可笑しげに笑いながら見つめていたが、ふと栞に向き直る。
「貴女も……大丈夫?……怖い思いをしたでしょう?」
真紅は苦しげに眼を伏せた。
呆と2人の会話を聞いていた栞は、その問いかけに我に返った。
「あ……あの……。」
上手く言葉が出てこない。
怖い思いをしたのは本当だ。恐ろしいと――死を覚悟したのも1度や2度ではない。
しかし、頭がついていかないのだ。
まだ、変質者に刃を突き付けられた方が、怖かったと泣くことが出来る。
――何故ならば、自分が今まで見てきた光景は、栞の理解の範疇を軽く飛び越えたもので。
そして、今現在見ている光景は――
茶色い物体が、栞の視界を過ぎる。
眼を逸らそうとしても、どうしても視界に入ってしまうそれは多分――
上手く頭が整理できない。それでも無理やり声を絞り出す。
問いかける言葉は、1つしか思い浮かばなかった
「これは……貴女達は……何……なの?」
真紅と美雨の瞳が怪しく光った。
※ ※ ※
美雨と真紅は眼を合わせる。
美雨の瞳は「どうする?」と問いかけていた。
一瞬の逡巡の後、真紅は首肯する。
――こうなってしまっては、話してしまうしかない。
どうせ、後で話さなければならないのだ。
栞は、そんな2人のやり取りをただ見つめていた。
――どうして、何も言わないの――?
学園に向かう途中から起きた、様々な出来事。
一瞬で消えた人。
変わった風景。
幻のように姿が変化した男たち。
人を、片手で吹き飛ばせる怪力。
――そして何より、今 目の前にあるあの茶色い物体は――
何故、何も言わないのだろう。真紅も――美雨も。
眼の前で揺れる、細長く、茶色い物体。
それと同様の色彩を放つものが、美雨の頭部にもあった。
それは何処から見ても――
「……それは、なに?」
つい問いかけてしまった。
でも、どうしても気になってしまう。
見間違いとは思えない。
「何って……?」
真紅は不思議そうに首を傾げる。
(気付いていないの?)
矢張り見間違いなのだろうか?
怖い思いをした所為で、きっと頭がおかしくなってしまったのだろう。
真紅は、栞の指が示す方向を見る。
その先にいたのは――
(――美雨?)
美雨がどうかしたのだろうかとまじまじと見つめる。
美雨もきょとんと首を傾げていた。
その愛らしい仕草に呼応するように、耳がぱたぱたと動き、尻尾もひらひらと揺れて――
―――ん?
―――耳 と 尻尾 ―――?
はっと気がつき、真紅は顔面蒼白になった。
「みっ……美雨っ!!人化っ!!解けてるっ!!」
「ふえ?」
きょとんと首を傾げていたが、真紅の言いたいことを理解した美雨は、慌てて頭に手をやる。
そこにはふかふかとした感触のものがあった。
「ふっ……ふにぁあ!!!」
慌ててそのふかふかとした物体――耳を隠そうとするが、もう遅い。
栞はすでにそれを視界に収めてしまっていた。
先程から栞の視界の端に映っていた細長い物体――美雨の尻尾が、美雨の動揺を表わすかの様に、びたんびたんと揺れていた。
(――え……ていうか、気付いてなかったの――?)
栞は、先程から視界の端で揺れている尻尾が、どうしても気になって仕方がなかった。
美雨と向かい合っている真紅には、その頭部にある耳の存在にも気付いていたはずなのに。
何故、何も言わないのかと不思議に思っていたのだが――。
(気付いて、いなかったのね――。)
それどころではないと知りながらも、思わず脱力してしまう栞だった。
※ ※ ※
――しまった。
後悔しても、もう遅い。見慣れているが故に、その異常に気が付かなかった。
――どうしよう……。
眼の前でふよふよと揺れている美雨の尻尾を見つめる。
――仕方が ない。
1つ溜息をつくと、真紅は栞に向き合った。
その真摯な瞳を見て真意に気づいた美雨は、不安そうに尋ねる。
「いいの?真紅ちゃん……。」
「ええ……。此処まで徹底的な証拠を見られてしまったら……ね。それに、何れは話すこと。それが速いか遅いか……それだけよ。」
「……でも、千歳さんが……。」
「千歳さんには私からお伝えしておくわ。……刹那様にも…………私が……怒られて、おくから……。」
前半とは打って変わり後半を何故か歯切れ悪く言うと、億劫そうに溜息をつき、改めて栞に向き直る。
「栞さん。この樫綾学園について、どう説明されましたか?」
「え……どう……て……。」
「実は、この学園には他とは違う秘密があります。……もうお分かりかとは思いますが、その秘密とは、先ほど……そして今、貴女が見ているものです。」
ちらりと美雨に視線を滑らせる。
「――この学園は―…」
言いかけた瞬間、鋭い視線を向け、口を噤む。
背筋が凍るほどの怜悧な視線。
――その、先にあるのは……。
「美雨。栞さんをお願いね。」
低く紡がれる声に、美雨はこくりと頷いた。
美雨の瞳も真摯なものに変わっていた。
「――さて、どうしましょう?あまり傷をつけると刹那様に叱られてしまうわ……。無傷で捉えなければ、ならないのかしら?」
真紅の視線を追う。
その先にいたのは、先程の男たち。
しかし今の彼らには、自分たちを嬲っていた時のような醜悪な、愉悦に歪んだ笑みはなく、代わりに浮かぶのは 恐怖。
彼等は一瞬にして、狩る側から狩られる側に立ってしまったのだ。
真紅がうっすらと嗤う。
「先ほどまでの威勢はどうされたのかしら?諦めたのなら、大人しく付いてきてくれると有り難いのだけれど?」
1歩。
真紅に気圧されて、彼等は後退する。
栞は驚愕と恐怖から言葉を失う。
――これは、誰?
先程まで柔らかく微笑んでいた美しい人はもう 居ない。
今の真紅はまるで 彼らに恐怖と絶望を運ぶ
――死の 女神。
うっすらと冷酷に笑む真紅。
彼女の美貌が冴えわたる。
栞は、真紅に恐怖を感じた。しかし それ以上に 魅せられる。
栞は、ただただ眼の前の美しい人に見惚れていた。




