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怠惰で傲慢だった貴族がやり直しで世界を救う  作者: 雅
第十二章 王都出会い編

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第191話 再会の約束

聖女リシア・フォン・アルトリア視点


 名を呼ばれ、顔を上げる。


「はい」


「どうかなさいましたか?」


「いいえ。お二人が、来年も同じように競い合っているところを想像しておりました」


「リシア様もご一緒です」


「わたくしも?」


「昨夜、三人で今より強くなると決めたではありませんか」


 アレス様は、真っ直ぐにわたくしを見ていた。セレスへ向けたものと同じ、揺るぎのない期待が、その瞳に宿っている。


「来年、どれほど成長なさったか、拝見できることを楽しみにしています」


 胸が大きく高鳴った。ただ美しいと言われるよりも、王女らしい、聖女らしいと褒められるよりも、その一言の方がずっとうれしかった。


「必ず、ご期待に応えてみせます」


「はい」


「アレス様こそ、わたくしたちがおそばにいないからと、無茶をなさらないでください」


「できる限り気をつけます」


「できる限り、では困ります」


「しかし、必要な時には――」


「そうやって、すぐにご自分だけは別だとお考えになります」


 わたくしが一歩近づくと、アレス様がわずかにたじろいだ。あれほど強い方が、わたくしの言葉に困っている。それが少しだけおかしくて、けれど笑ってごまかす気にはなれなかった。


「お約束してください。次にお会いする時も、お元気な姿でいらっしゃると」


「リシア様」


「けがを一つもするなとは申しません。アレス様が危険な場所へ向かわれる方だということは、もう分かっています。ですが、ご自分のお命を軽く扱わないと、お約束してください」


 アレス様が黙る。何を迷っているのだろう。やがて、その表情からわずかに力が抜けた。


「分かりました」


「本当ですか?」


「はい。必要な時には戦います。ですが、自分の命を軽く扱わないと約束します。お二人と、またお会いするためにも」


 今度は、迷いのないお返事だった。わたくしは、ようやく肩の力を抜いた。


「でしたら、わたくしもお約束します」


「何をですか?」


「次にお会いする時は、わたくしもお二人を支えられるようになっています」


 昨夜の約束を思い浮かべながら、真っ直ぐに見つめ返した。


 アレス様の目がわずかに見開かれた。すぐに、穏やかな笑みへ変わる。


「期待しています、リシア様」


「はい」


 その言葉を、もう一度胸へ刻む。期待されている。守らなければならない聖女としてではない。ともに強くなる一人として。


「アレス様。そろそろ出発のお時間でございます」


 アークハルト家の従者が、少し離れた場所から声をかけた。続いて、グランベル家の馬車からも、準備が整ったことを告げられる。


 とうとう、時間が来てしまった。


「リシア様」


 アレス様が、改めて姿勢を正す。


「王都では、大変お世話になりました」


「こちらこそ、何度も助けていただきました」


「手紙をお送りします」


「わたくしへ、ですか?」


「はい。来年の訓練へ向け、こちらで進めていることもお伝えした方がよいでしょう。お二人の訓練やご活動についても、可能な範囲で教えていただければと思います」


 やはり、アレス様の頭にあるのは訓練のことらしい。それでも、手紙が届くと思うだけで胸が弾んだ。


「お待ちしております」


 自分でも分かるほど、頬が緩んだ。


「わたくしも、必ずお返事を差し上げます」


「アレス君、私にも手紙を送ってね。二人だけで送り合うのは、だめだから」


 セレスが、アレス様へ少し身を乗り出す。


「もちろんです。訓練については、お二人へ同じようにお知らせします」


「訓練の話だけじゃなくて。私には、私宛ての手紙を書いてほしいの」


 言い切った途端、セレスの頬がわずかに赤くなった。


「承知しました。セレス様にも、きちんと別の手紙をお送りします」


「……うん。約束だからね」


 アレス様は真剣にうなずく。けれど、セレスがなぜ恥ずかしそうにしているのかまでは、分かっていないようだった。


 その様子がおかしくて、こらえきれずに笑ってしまう。セレスもすぐに笑い出した。アレス様だけが、不思議そうにわたくしたちを見比べている。


「それでは、また来年」


 アレス様が馬車へ向かう。


「はい。また来年」


「来年ね、アレス君!」


 セレスは大きく手を振った。数歩進んだアレス様が振り返り、わたくしたちへ頭を下げる。


 馬車へ乗り込む直前にも、もう一度こちらを見てくださった。目が合う。言葉はなかった。それでも、昨夜三人で交わした約束が、確かにそこにあるように感じられた。


 アレス様を乗せた馬車が、ゆっくりと動き始める。護衛の騎士たちがその前後を固め、アークハルト家の旗が朝の風にはためいた。一行は正門の手前でいったん止まり、グランベル家の出発を待つ。


「リシア」


 隣から呼ばれ、振り向くと、セレスが両腕を広げていた。


「人前です」


「もう正式な挨拶は終わったよね?」


「まだ大勢の方が見ています」


「一年以上も会えないんだよ」


 その一言で、我慢する理由がなくなった。セレスへ歩み寄り、抱き締められるより先に、わたくしから腕を回した。


「必ず、お手紙をください」


「うん」


「けがをなさった時は、隠してはいけません」


「リシアもね」


「救護院でのことも、訓練のこともお伝えします」


「私も、砦や森であったことを全部書く」


 しばらく、どちらも離れようとしなかった。幼い頃は、次に会える日など考えたこともなかった。会いたいと思えば、父や母へ願うことができた。


 今は違う。わたくしたちは、勇者と聖女になった。セレスには国境があり、わたくしには王都と大神殿がある。それぞれに守るべき人々と、果たさなければならない役目がある。


「リシア」


「はい」


「負けないから」


 耳元で、小さくささやかれた。何に、と尋ねる必要はなかった。


「わたくしもです」


 同じ声の大きさで答える。身体を離し、二人で顔を見合わせる。セレスの青い瞳には、別れの寂しさと、それでも消えない強い光が宿っていた。


「アレス君にも、リシアにも負けないくらい強くなる」


「わたくしも、セレスとアレス様のお隣に立てる聖女になります」


「来年は、三人でだね」


「はい。三人で」


 セレスが、いつもの太陽のような笑顔を見せた。


「行ってくるね」


「行ってらっしゃい、セレス」


 セレスは馬車へ向かって駆け出した。三歩ほど進んだところで、後ろからローズ伯母様に名を呼ばれ、慌てて歩調を緩める。その姿がおかしくて、また笑みがこぼれた。


 グランベル家の馬車も動き始める。正門の手前で待っていたアークハルト家の一行と合流し、二つの旗が並んで門をくぐっていく。窓が開き、セレスが顔をのぞかせた。


「リシア!」


 大きく振られる手に、わたくしも手を振り返す。


「またね!」


「はい!」


 第一王女としては、もう少し慎ましく見送るべきだったのかもしれない。それでも、今だけは構わなかった。


「必ず、お会いしましょう!」


 セレスへ届くよう、声を上げる。


 二つの一行が、王宮前の大通りへ出た。朝早くから見送りに集まった民たちの歓声が上がる。勇者の名。若きAランク冒険者の名。二人を称える声が、遠ざかる馬車を追うように王都の空へ響いていた。


 やがて、両家の旗も大通りの先へ隠れた。歓声が遠のき、騎士や世話役たちが持ち場へ戻っていく。前庭は、急に広くなったように感じられた。


 わたくしだけが、まだ手を下ろせずにいた。次に三人で会えるのは、一年以上先。その長さを思うと、視界がわずかににじんだ。

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ハーレムタグあってもエエのに~エエ話や~(=^ェ^=)
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