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悪女の優雅で素晴らしい贅沢生活  作者: 海城あおの
最終章 悪女の優雅で素晴らしい贅沢生活

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エピローグ 悪女の優雅で素晴らしい贅沢人生



 華やかな音楽が広い会場を満たしていた。

 頭上では幾重ものシャンデリアが輝き、その光を受けて周囲にいる令嬢たちの宝石がきらきらと煌めいている。


 だが今の私には、その豪華な光景はほとんど目に入っていなかった。視線を逸らそうとしても、どうしてもベリルから目が離せない。

 正装が似合っているのは言うまでもない。さらに、いつも無造作に下ろしている銀髪を綺麗に撫でつけていた。形のよい額があらわになり、普段の軽やかな雰囲気よりもずっと大人びて見える。

 いつもと違う姿を見ているだけなのに、妙に胸が騒がしい。

 思わず見惚れていると、私の視線に気づいたベリルが嬉しそうに目を細めた。


「僕が隣にいてほしいだなんて……嬉しいな」


 その言葉に頬が一気に熱くなる。

 レオンハルトへきっぱり告げるためだったとはいえ、あれでは完全に公開告白だ。時間が経つほど、じわじわと恥ずかしさが込み上げてくる。

 このまま彼の顔を見ていたら平静を保てそうにない。私は照れを隠すように、別の話題を切り出した。


「ベリル様。私に隠していることがあるでしょう?」

「ん?」


 とぼけるような返事と同時に、ベリルの手が私の背へ回る。次の瞬間、私は彼に導かれるまま、くるりとその場で回った。

 濃紺のドレスの裾が花びらのように大きく広がる。

 再び彼の腕の中へ戻ってくると、ベリルはどこか不敵な笑みを浮かべていた。

 その表情を見て悟る。彼はもう、私が何を尋ねようとしているのか分かっているのだ。


「貴方、ギルドのオーナーでしょう」

「バレちゃった?」


 ベリルは悪びれる様子もなく答えた。あまりにもあっさり認めるものだから、呆れて言葉を失いそうになる。

 オーナーには感謝している。私の技術を形にしてくれたことも、欲しい人脈と繋げてくれたことも、彼がいなかったらここまで稼ぐことはできなかっただろう。

 だが、それとこれとは別だ。言いたいことは山ほどある。

 私はわずかに目を細め、彼へ皮肉をぶつける。


「随分と私から稼ぎましたね?」

「お金は大事だからね。それに──」


 ベリルはそこで一度言葉を切り、私の右腕へ視線を落とした。

 黒薔薇の消えた腕には、先ほど彼から贈られた銀色の腕輪が輝いている。


「ブランジェムを買うために、投資していたからね」

「え……」


 思いがけない言葉に息を呑んだ。

 私から得た利益を自分のためではなく、ブランジェムを手に入れるために運用していたということだろうか。おそるおそる尋ねる。


「……どれくらい増やせましたの?」

「ん? まあ、そこそこだよ。そこそこ」


 絶対そこそこじゃない。この涼しい顔を見るに何十倍──いや、下手をすれば何百倍にも増やしているに違いない。

 私の命を救うために使うつもりだったのはありがたい。だが売上の一部を知らないところで運用されていた悔しさは、少しばかり残る。

 私は唇を尖らせながら言った。


「最初に預けた一千万ゴールドも、利息をつけて返していただきませんと」


 その言葉を聞いたベリルは、形のよい唇に美しい微笑を浮かべた。

 次の瞬間、腰を引き寄せられる。


「──っ」


 一気に縮まった距離に心臓が大きく跳ねた。服越しに伝わる彼の体温が、ひどく熱く感じられる。

 ベリルは私の耳元へ顔を寄せると、囁くような声で言った。


「では、これから一生かけて返そうか」


 頭の中が、真っ白になった。


 一生。

 それではまるで、プロポーズではないか。


 あまりにも不意打ちだったせいで、私は口をぱくぱくと動かすことしかできない。

 そんな私を見つめながら、ベリルは相変わらず掴みどころのない笑みを浮かべている。

 この男にはどうにも勝てそうにない。それが少し悔しくて──けれど、どこか愉快だった。

 だからといって、ここで何も言い返せずに終わるのは癪である。私はどうにか口元へ笑みを浮かべ、ベリルをまっすぐ見上げた。


「でしたら、きっちり返していただきますわ」


 彼の濃紺の瞳が、わずかに見開かれる。

 私はさらに笑みを深めた。


「途中で逃げるのは許しませんよ?」


 一瞬だけベリルは言葉を失った。だが次の瞬間、心から嬉しそうに瞳が細められる。


「もちろん」


 迷いのない返事だった。その声を聞き、私は満足げに笑みを返す。

 ベリルの手に導かれながら、音楽に合わせて軽やかに足を運んだ。


 シャンデリアの眩い光。美しい濃紺のドレス。宝石の輝き。

 楽しげに笑い合う人々と、広間を満たす華やかな音楽。

 そして隣には、少々秘密の多い男。


 これ以上ないほど、満ち足りた夜だった。


 だけど──これで終わりじゃない。



 私の優雅で素晴らしい贅沢な人生は、まだ始まったばかりだ。






ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

これにて本編完結です!


今後、エスメラルダとベリルのその後など、番外編も更新できたらと思っています。


ぜひ下の☆☆☆☆☆をポチッとしていただけると嬉しいです!



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― 新着の感想 ―
とても面白かったです! まだまだ読んでいたかった!! 番外編の投稿待ってます
「贅沢し続けたーい」」という本音に笑いました。エスメラルダ可愛い。ベリルも振り回されつつきちっとフォローして溺愛してくれそうで、エスメラルダも理想の生活を続けられそうですね!プログラマーとしての魔方陣…
完結おめでとうございます! 楽しくて、一気に読めてしまいました。 素晴らしい作品を、ありがとうございました。
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