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透明な僕には、君の形だけが見えない  作者: niposan


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2/2

新高校生の朝

視界がだんだん明瞭になってくる。

寝る前にセットしたアラームはいつの間にか止めていたようだ。

眠い目を擦りながらリビングへ向かうと、ソファの上で1人寝そべっていた犬が嬉しそうにしっぽを振った。


つい先日まで入学前の春休みで、昼過ぎまで寝る生活を送っていたためつい遅くまで寝てしまう。

明るく差し込む光を見て、急いでスマートフォンで時間を確認するともう9時。

家を出る時間まであと30分に迫っていた。


今日は2回目の登校日で、健康診断の日。

午前は中学生、午後は高校生になっているため、これほど遅くまで寝ていても問題はない。


健康診断だからといって朝食を減らす訳でもなく、いつも通り白米に納豆、母が作り置いてくれた味噌汁を飲む。


朝食後、息をつく間もなく制服に身を包んで歯を磨き、持ち物の確認をする。

今日は健康状態やアレルギーの有無などを記入した紙が提出だったはずだ。

記入漏れがないかをチェックし、まだ少し時間に余裕があることを確認してからソファに座った。


犬の頭を撫でながら連絡が来ていないか確認する。

特に電車の遅延などイレギュラーな事態は起こっていないようだ。

僕の手の中で犬があくびをする。

あまりのんびりするしている時間はない。


家を開けてしまうため犬に早めの昼ごはんを与える。

犬が食べている間に支度を済ませる。

鍵を持ち、留守番のおやつをあげて家を出る。

戸締りを確認し、窮屈なローファーを履いてスクールバッグを提げる。


見慣れた街を歩いていると、前から見慣れない集団が歩いてきた。

近所の保育園児たちだ。

昼前に散歩に出るらしい。


子供たち一人一人が楽しそうに歩いている姿をつい目で追ってしまう。

交差点の信号が変わろうとしている。

渡ってしまう前にもう一度振り返ってみると、園児たちはぼんやりと黄色く輝いていた。

僕はぽん、ぽん、とはじけるその背中を見えなくなるまで見送り、急いで横断歩道を渡った。


ふと時間を確認するともう9時50分。

10時の電車に乗るのに、まだ半分ほどしか進んでいない。

今のままでは確実に間に合わないため、駆け足で進むことにする。


しかし、こういう時に限って信号に嫌われるものだ。

ほぼ全ての信号で引っかかり、結局時間ギリギリになってしまった。


駅までの最後の信号。

時計を確認し、ラストスパートの覚悟を決めた時、視界の端で息を切らす人を見つけた。


視線を動かそうとするよりも先に信号が変わる。

迷わず走り出し、再び頭の中が時間のことでいっぱいになる。

駅構内に走り込んだ時、電車がホームに着く音が響いてくる。

ペースを上げて改札を通り、ホームまでの階段を駆け上がると電車のドアが開こうとしているところだった。


なんとか間に合い、車内でほっと息をつく。

イヤホンをつけ、目を閉じる。

電車ではクラシック音楽を流して睡眠を取ることが多い。

しかし、今日は上がった息のせいでなかなか入眠できず乗り換える駅に着くまでに眠れなかった。

睡眠時間は十分に足りているはずなのに、電車に乗るとどうしても眠くなってしまう。


眠気を振り払って電車を降り、階段をのぼって今いる1番線から3番線のホームへ向かう。

その途中で僕を走り越していく人が何人もいた。

その全員が胸の内で目まぐるしく回転していて、その緩急が急いでいる程度を表していた。


乗り換える電車に乗ると、汗をかき、顔を赤くした高校生が乗ってきて向かいの座席に座った。

その時ふと、最寄り駅の交差点で目にした高校生を思い出した。


僕と同じスクールバッグに制服。

黒いスラックスの下に見える靴下に刺繍されてあるロゴまでおなじだ。

違うのはローファーがくたびれていることだけだ。

おそらく学校の先輩なのだろう。

だからといって特に何かが起こるわけでもなく、音楽に耳を傾けながら目を閉じた。


ポケットの中でスマートフォンのアラームが震え、目を覚ます。

途中で乗ってきたのであろう人が大勢いた。

学校を問わず高校生がたくさんいる。

中には通勤をする人の姿もあった。


駅についてバス乗り場へ向かう途中でコンビニにより、水を買う。

ジュースやスポーツドリンクはもうやめてしまった。

あの罪悪感を飲んでいる感覚。

スポーツをやっていない僕には耐えられず、ただの毒でしかないように思えた。

そう考えると結局、水がいちばん安いし、気が楽で美味しく感じる。


バス停に着く頃には長蛇の列ができていた。

正確には分からないが、ざっと150人くらいいるのではないか。

入学式の日には同学年しかいなかったからだろうが、これほどまでには並んでいなかった。


列にいる人の多くは友達と並んでいる。

初日で遅れを取ってしまった僕には友達がまだおらず、今日は一人で登校せざるを得なかった。

明日から一緒に登校できる友達を作ろう、と決心しながら列に並ぶ。


あれほど並んでいたのに、10分も待たずにバスに乗ることができた。

バスの乗車システムに感心しながらバスに乗車する。

”ひとり席”にならないよう全ての席が埋まるまで立っておき、補助席に座る。


賑やかな車内の空気に高校生らしさを感じながらもイヤホンをつけて途中だった映画を観る。

中学の頃の友達がオススメしてくれたもので、昨日ふと思い出して移動時間に見ようと思っていた。

普段は空き時間に映画を観ることはほとんどなく、ゲームやSNSをチェックすることが多い。


軽いストーリーを掴んだあたりでバスが到着し、学校へ着いた。

僕を待っていた校舎はまだ輝きはあるものの、昨日よりも色褪せて見えた。

やはり初日の緊張感やワクワク、期待などは長くは続かない。


バス乗り場から教室まで歩く。

前に歩いたことのある道だから迷ったりはしない。

でも、前よりも足取りが重いように感じる。

間違いなく緊張している。

どうやって話しかけたらいいか。

どんな反応が帰ってくるか。

考え出すと不安が止まらない。


教室の前まで来ると、生徒はまだ半分も来ていないことがわかった。

しかも来ている生徒はほとんどが女子。

大きく息を吸い、全て吐ききる。

覚悟を決めた僕は、自分の席でゲームをしているのであろう男子生徒に狙いを定め、教室に入った。


自分の席に荷物を置き、座席表で名前を確認して話しかけに行く。


「おはよう。来るの早いね。安達くんでよかったかな?」


少し驚いたような表情をした後、にこやかに答えてくれた。


「うん、安達で大丈夫だよ。君こそ早いね。」


名前が分からずなんと呼んでいいか分からない様子が見て取れる。

みぞおちに視線を落とすと円形の形が小刻みに、不規則に震えるのがわかった。

相手も緊張しているのが分かって少し安心する。


「中野玲音だよ。中野でも玲音でもどっちでもいいよ!」


お互いの名前がわかっただけでも少し打ち解けた雰囲気を感じた。

安達くんのみぞおちの震えも今はすっかり落ち着いていた。




クラスメートに話しかけ、友達を作られた。

「一緒に登校できる友達を作る」というノルマへの大きな一歩を踏み出すことができたという大きな成功体験になった。

読んでいただきありがとうございます!

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