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転生、転生、転生、転生……って、もううんざり  作者: 白髪銀髪


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四歳 マニエール男爵家訪問 魔物の襲撃 2

「その魔物の速さはわかりますか? この馬車だったら逃げ切ることは可能なのでしょうか?」


「普通なら無理でしょうな」


 それでも余裕の態度でいるってことは、なにか、普通じゃない手段についてのあてがあるってことだよね。

 

「なにか考えがあるのですか?」


「そうですね……おふたりは戦闘行為は可能ですか?」


 おふたりって、ロレーナと私のことだよね?

 

「お嬢様に戦わせるおつもりですか?」


「いいんだよ、ロレーナ。今はそんなことを言っていられる場合じゃない」


 そもそも、四歳児に戦闘可能かどうか尋ねるのかってことはさておき、この身体一人じゃあ、馬にも乗れないし、馬車も動かせない。

 ここで倒れるような真似は晒せないけど、ロレーナたちを守ることはできる。


「あなたはどうなのですか、ケイリス様」


 ロレーナがケイリスに詰め寄る。


「さあ、どうでしょう。私は助けを求める立場ですから。お嬢様、慈悲をかけてくださいますか?」


 私がある程度自由に魔法を振るうのには制限がある。

 そもそも、制限がある以上、完全な自由ではないんだけど、代償を押さえられる理由があれば、見かけ上は、その世界に属するものとして適当な力を行使できる。

 その一つが、正しくこの世に存在する相手に心から願われること。

 それでも、完全に自由とはいかないけど。

 それは、その相手がどのような心根であっても同じことだ。

 今のケイリスの言葉で、力の一部が解放される。

 これは、私がそうするように頼んだのではだめだ。たとえば、助けてくれと頼んでくれ、みたいなことでは。それでは、以前の洞窟のときのように、誓約から逃れられない。あるいは、それ以上の代償が発生する。

 

「わかりました」


 もちろん、貴族の義務だとか、そんな簡単な理由でもだめだ。

 それは、本人自身の意思による理由だから。

 

「なにをおっしゃっているのですか、お嬢様」


「ロレーナの言うとおりです。まさか、お忘れになったわけではありませんよね?」


 ロレーナと御者のコッホまで御者台を降りてくる。

 

「少しだけなら、倒れたりしないから平気だよ」


 今は。ケイリスの願いが効いているうちは。ほんの少しだけなら。

 そんな感じの制約というか、制限はあるけど。


「駄目です。旦那様と奥様から、お嬢様の体調には気を付けるよう、言いつけられておりますので」


「どうか、お嬢様は中でお待ちください」


 そう言われても、ロレーナもコッホも、戦闘能力はほとんどないでしょ。これだけの魔物に対するものは。

 屋敷に忍び込む賊なんかを相手にするのと、魔物やらを相手にするのは勝手が違うからね。

 しかし、今は大丈夫な理由を、二人に、いや、誰であっても説明することはできない。それも私の転生に付属している呪いみたいなものだ。正確には、説明しても無意味になる、ということだけど。

 少なくとも、この二人を納得させるため、という理由では力は振えない。


「え?」


 ユーイン公爵家の馬車は二頭立てだ。

 そのうちの一頭が、繋がりから外され、跨ったケイリスがまったく顧みたりすることなく、そのまま走り去っていってしまう。

 もちろん、声なんて届かない。

 一人だけしか乗っていない馬は速く、あっという間に見えなくなってしまう。


「嘘……」


 ロレーナが茫然と口を手で覆う。信じられないとばかりに、目を見開いている。

 

「ロレーナ、コッホ。馬車に貴重品は?」


 こうなってしまっては仕方ない。


「お嬢様だけです」


「アリア様がご無事であれば、それだけで十分でございます」


 そう。


「ここからだと、マニエール家まで引き返すのと、王都まで戻るの、どっちが近いかな?」


「それは、王都のほうが近いかと思いますが、まさか、歩いて行かれるおつもりですか?」


 ケイリスがいなくなってしまったからね。

 それだと、私の力は再び誓約に縛られる。この状況で、気を失った子供一人を運ばせるなんてできない。


「この子に乗っていければいいけど、私じゃあ足が届かないんだよね」


 だから、今の私は馬に乗れない。


「ロレーナはどう?」


「申し訳ありません。私はその、馬に乗った経験がなく」


 それも仕方がないことだろうね。

 

「私は乗馬も嗜みます――といっても、仕事での話ですが、さすがに、三人で騎乗するというのは、馬のほうが耐えられないかと」


 コッホも首を横に振る。

 いくら私やロレーナが子供だと言っても、二人合わせれば、座るスペースがなくなる。もともと、ついている鞍は一人用だし。

 もともと、馬は二頭いたから、ぎりぎり、大人一人に子供一人くらいならなんとかなったかもしれないけど、そのうちの一頭をケイリスが乗っていってしまったからね。

 

「ケイリスが私たちのための助けを呼んできてくれると思う?」


 ケイリスが町に辿り着けたとして。

 

「お嬢様、それは……」


「信じられませんな」


 ロレーナとコッホが険しい顔をする。 

 

「でも、あの馬はユーイン家の所有だということになっているはずだよね」


 馬が自分からユーイン家にまで戻るかどうかはわからないけど、街中ででも見かけたら、わかる人には、たとえば父には、わかるはずだ。

 ここから、馬で一人なら、一、二時間くらいで、町まで帰りつけるはず。もちろん、ケイリスが王都に戻るかどうかはわからないけど。

 

「とりあえず、魔物をやり過ごしましょう。私たちは馬車の中に隠れていれば大丈夫だと思いますが」


「問題はこの子ですな」


 残された馬一頭をどうするのか。

 当然、荷台には乗らない。


「ロレーナとコッホが大丈夫なら、いっそ、放してあげるのも手だと思うよ」


 繋がれたままで魔物に襲われたら、間違いなく命を落とすだろうから。

 それならいっそ、解放してあげたほうがいい。

 この子が賢ければ、あるいは、忠誠とか、恩義なんかを持っていれば、父や母の元に向かってくれるかもしれない。

 

「ロレーナ。私のバッグを」


 そこから、公爵家の家紋のついたもの……印章しかない。あとは、紙とペンくらいか。

 

「お嬢様、それは」


「わかってる。でも、今はこれしかないから」


 この馬だけだとわからなくても、この国にも魔法師の数はそれなりにはいる。少ないけど。

 でも、町を歩いて、全然見かけないとか、滅多に会えないとかってほどでもない。そもそも、王都に入るのに検閲というか、関所があるからね、そこで見つけてもらえれば、確実に騎士団、つまり、父には話が行くはずだ。

 それでもし、途中ででも魔法師――人間性に信頼のおける魔法師が見つけてくれた場合、この印章の持ち主を探すための魔法、探知魔法かなにかで、ここまできてくれる、かもしれない。

 あるいは、母なら、直接飛んでくるかも。

 とにかく、可能性を繋ぐには、今できるのはそれしかない。


「お願いね」


 これを手放すと、現状、私たちがユーイン公爵家の縁者であると、対外的に証明できるものがなくなる。

 見る人が見れば、私がユーイン公爵家の長女だとわかるだろうけど、証拠はない。よく似た別人だという可能性を、少なくとも私たちは第三者的に証明できない。

 私の言霊は、言葉のわかる相手だけに通じるものではない。実際、岩壁に穴を開けたりもできるわけで。

 今も、馬に話を聞かせることができて、放たれた馬は勢いよく走って王都、おそらくは母のところまで向かってくれたはず。


「じゃあ、助けが来るまで私たちは」


 幸い、まだ、魔物はこの荷台までは襲いかかってきてはいない。 

 とはいえ、このまま襲われないという保証はない。

 そもそも、私は――。


「お嬢様?」


「ごめん、ロレーナ。すこし」


 もしかしたら、まだ大丈夫かと思ったけど、やっぱり、だめだったか。

 すでに、ケイリスが安全圏まで逃れているということなんだろうね。

 今回は、数日、みたいなことにはならないと思うけど、それでも、この状況で気を失った人間を抱え込むのが、いかにリスクが高いかということはわかっている。

 それでも、助けを呼んだほうが、いや、呼ばなければじり貧だったわけだけど。

 あとは――。



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