第6話 新しい道具袋 その2
目を覚ますと、グラーシュもアルディも出発の準備を済ませていた。
「ごめん。寝過ぎた。」
何も決めずに夕ご飯を食べて寝入ってしまったが、アルディとグラーシュが交代で火の番と周囲の警戒をしてくれていたみたいだ。
「ごめん。勝手に好きなだけ寝てしまった。」
「大丈夫ですよ。そんなこと・・・、気にしないでください。」
グラーシュは優しい。
その優しさが、逆に刺さる。
それに、こんなことを続けてしまうと、2人が睡眠不足に陥り、パフォーマンスが下がる。
それはそのままチームのパフォーマンスダウンに繋がる。
本当に襲われたときに戦えないのでは、本末転倒だ。
今は、人数が少ないから余計に、協力しないと負担が大きい。
なんなら、戦力にならない俺が寝ずの番をすべきだった。
にも拘らず、無警戒で寝てしまった。
現世では当然の事、転生してからも襲われた試しがないから・・・かな。
平和ボケの日本で、正常化バイアスに背中を押されて生きてきた“間抜け”から早く脱却しなければ。
「出発前に大切なお話がありまーす。」
2人とも、こちらに注目してくれた。
ストークは不機嫌そうだ。
ごめんね、グラーシュとの楽しい時間をお預けしてしまって。
「今後は移動中に必要な物と、奇襲を受けて用いる物以外は、俺が預かりまーす。」
「御意。」
アルディ、何のことだか分かっていないはずなのに、返事は相変わらず良いね。
「どういうことでしょうか?」
グラーシュは、混乱している様子だ。
当然だよね。
「グラーシュ、口でうまく説明できないんだ。アレがアレなのでね。」
「アレがアレ?」
「とにかく、見てもらえば分かるから、せっかくまとめてくれたところを悪いけど、荷物を整頓し直して。」
「はい。」
整頓が済んでいるから、割と手際よく俺に預ける物が俺の前に並んだ。
グラーシュ、流石です。
さて、吸収しますかね~。
左手をかざそうとした瞬間、先生の顔が浮かぶ。
・・・あぶねっ、そうだった。
「グラーシュ、俺に預ける物の中に食料あるよね。」
「はい。」
「その中にまだ生きているものなんてないよね?」
「大丈夫、ありませんよ。」
「ははは、そうだよね。」
「では、いきまーす。」
俺が左手をかざした。
すぐに左手が黒くなって、音も無く、次から次へと吸収されていく。
グラーシュは、目が点になっている。
最後に最も大きいリアカーを収納して、完了。
あっという間の出来事だった。
「こういうことなのよ。分かった?」
グラーシュの硬直は解けていない。
「分からんよね。まぁ、そういうもんだと思って。」
「はい・・・。」
「必要な時は言ってね。出すから」
「はい・・・。」
かなり身軽になった。
馬への負担も大きく軽減された。
特に、リアカーを引いていたネロアは大喜びなんじゃないかな。
あぁ、ヘドバンしてる。
良かったね~。
ふと思ったけど、ネロアのペロペロやヘドバン、ストークの感情モロ出し、どちらも個性的でいいのだけど、俺のエラムにうつらないよな・・・
頼むよ、良い子のままで居てね。
エラムの首筋をなでなでして・・・良し!
「今日は昨日より移動するぞー!しゅっぱーつ!」