宴
アラストルの事件から、数日後――。
ダンジョンから冒険者達が帰還し、帰還祭及びエリシアの功績を讃え、帝城で宴が行われた。
大広間に、冒険者達や今回の騒動に関わった者達が集められていた。
無数に並べられた円卓には、見たこともない様な御馳走や美酒が並べられていた。
「す、凄いですね……」
そこに並べられた料理の数々は、エリシアが見たことないほどに豪勢だった。
これほどの料理はカルミア王国では見たことなかった。
もしかしたら、社交会などではこのくらいの料理は出ていたのかもしれないが、エリシアは参加させてもらえなかったので真偽は分からない。
「なにこれ、美味しい!」
辺りを驚き見渡していたエリシアの横で、料理を口にしたリアが声を上げる。
「エリシアさん、これ食べてくださいよ。もの凄く美味しいですよ?」
リアが手に持っていた皿には、謎の肉の蜂蜜漬けが盛られていた。
「ほら、あーんですよ? あーん」
リアはエリシアの口元に、フォークに刺した蜂蜜漬けを持ってくる。
「や、やめてください。人目あるんですから……」
「別いいじゃないですか? 私達の仲ですし!」
リアはそう言い、エリシアに食べさせようとしてくる。
リアに食べさせてもらう行為よりも、蜂蜜漬けの肉を食べるのが嫌だった。
正直、この食べ物は好きではない。
肉をわざわざ蜂蜜に、漬け込む意味がわからない。甘い肉など食べられたものではない、ゲテモノである。
少なくともエリシアはそう思った。
しかし、リアはこれをどうしても食べさせたい様で、しぶしぶそれを口にする。
「なんですか? これ、美味しいですね……」
口に広がったのは、驚くほど柔らかい肉にほんのりと甘さが加わった極上のものだった。
エリシアの知ってる蜂蜜漬けとは全くの別物だった。
確かに甘いのだが、それは肉の本来の味を邪魔しない程度で、とても味わい深かった。
「にしてもこれ何の肉なんですかね?」
リアは肉を不思議そうに見る。
食べたこともない味だ。牛肉でも豚肉でも魔物肉でもないだろう。
「それは竜肉じゃよ。といっても、下位種のものじゃがな」
そう口を挟んで来たのは、ウェレスだった。
「陛下的には、ドラゴンの肉を食べるのは有りなのですか?」
エリシアはふと思った事を問いかけてみる。
ウェレスには明らか竜人族の血が混じっている。それは竜人的にはアウトでは無いのだろうか。
「問題あるまい? 人間だって猿の肉を食うだろうに」
「別に人間は猿なんか食べませんよ……」
「例えじゃ例え。つまり、妾的には何も問題ないのじゃよ」
ウェレス的には問題はないらしい。
そもそも人間は猿なんて食べない。もしかしたら、そう言う民族もいるかも知れないが。
「お前がドラゴン倒したって言う女かぁ?」
その時だった。
一人の男が、エリシアに話しかけてくる。
その男はだいぶ酔っ払っており、足元の拙い様子だった。
「こんな小娘が、ドラゴン倒せる訳がないだろっ! 俺でも一匹相手に互角ってんによぉ!」
男は嘲笑を浮かべる。
どうやらこの男がSランク冒険者の一人らしい。
どうやら最高位の冒険者というのも余り品がない様だ。
「こんな雑魚どんな手をぅ……‼︎」
その時だった。
ウェレスの拳が男の顔面にめり込む。
男は気を失い、床に倒れ込む。
「すまんの。こんなのでも帝都に九人しか居ないSランク冒険者なのじゃ……そう言えば、お主らを含めれば十一人じゃな」
「まぁ、ポッと出の私みたいなのが、ドラゴンの群れを倒したって言われても信用なりませんよね」
確かにエリシアの様な小娘がドラゴンの群れを倒したと言われても、全く理解が及ばないだろう。
「へ、陛下! すいませんうちの馬鹿がご迷惑をっ!」
男の仲間だろうか魔術師風の二人の男女が駆け寄ってくる。
「私ではなく、エリシアに言うがよい。私は迷惑を被ってないからの」
ウェレスはエリシアに視線を向ける。
「うちの此奴酔っ払っててな。すまないな」
片割れの男が申し訳なさそうにエリシアに喋りかけてくる。
「私も実害はありませんでしたし、平気ですよ」
「それなら良かったんだが。とりあえずこの馬鹿には言い聞かせとくよ」
「本当にすいません。私たちこれで失礼します」
男女はそう言い、ウェレスパンチで顔面ベコベコになった男を引っ張り、その場から立ち去って行く。
「失礼な奴らですね。全く私のエリシアさんをなんだと思ってるんですか?」
「別に私は貴方のものではありませんが……」
リアはそう言い、立ち去って行く冒険者達を睨みつける。
途中訳わからない事を言っていたが、どうせ、深く聞かなくてもいいだろう。
「私って冒険者の間でなんて思われてるんですかね?」
エリシアはふと疑問に思った事を、ウェレスに問いかける。
「さぁな……妾も冒険者では無いから分からないが、良い意味でも悪い意味でも有名なはずじゃぞ? そりゃ、ドラゴンの群れを倒して最上位悪魔を従えてればの」
「まぁ、そりゃそうですよねぇ」
エリシアはそう言い、近くのテーブルに置いてあった葡萄酒を口を含んだ。
上質な葡萄酒の味が、エリシアの口の中に広がる。何気、酒類を飲んだのはこれが初めてかも知れない。
この数日間で、エリシアの伝説は冒険者界隈で大きく広まってしまった様だ。
身元不明は不明――ドラゴンを群れを殲滅し、憤怒の悪魔ですら従える。
そんな訳わからない少女が突然現れたら、良くも悪くも噂になるだろう。
兎も角、なるべくヘイトを買わない様にして行こう。
エリシアはそう思った。




