一年後の大戦
カルミア王国 エルミール邸にて。
「入るわよ」
そう言ってミリスの部屋に入ってきたのは、エリシアとミリスの母に当たる人物であるシリアだ。
「どうしたの。お母様?」
ベットに横たわっていたミリスは上半身をゆっくりと起こす。
「これの件なんだけど……」
シリアはそう言い、エリシアに一枚の紙を渡す。
その紙は所謂、徴兵命令書だ。
内容としては、当家から魔導士を派遣する様にと書かれていた。
派遣先はエストリア帝国――丁度来年の今日、神聖リベスタ教国軍と共に奇襲攻撃を仕掛けるそうだ。
普通貴族に徴収命令などは来ない。
しかしエルミール家は別だ。
代々強力な魔導士を輩出し、戦争に貢献する事で成り上がってきた一族である。
それ故に、どれだけ強い魔導士である事はとても重要視される。
「それで私を派遣したいってことかしら?」
「そうなるわ。これで無事生還できたら時期当主の座は硬いはずよ」
「余裕よ。この私が負けるわけないじゃない」
ミリスは胸を張る。
自分が負けるはずなどない。ミリスの魔力量は既に5000を超え、未だに成長しているのだ。
カルミア王国内、もしかしたら世界で自分より強い魔導士はいるのだろうか。
「だったらいいのだけど……貴方が死んだら元も子もないからね?」
「わかってるわよ。危なくなったら逃げるし、そもそもそんな事になんてならないわ」
「わかっているならいいのよ。もう遅いしもう寝るわ」
シリアはそう言い、部屋を後にする。
「結局はあれも私を次期当主として見てないのね……」
ミリスは深い溜息を吐く。
自分が言えた事ではないが、母親はろくでもない人物だ。
この家の当主になった暁には、何処か遠くに追放でもしてやろうか。
よくよく考えたら酷い人物だ。
今より幼く、純粋無垢だった頃。エリシアとはとても仲が良かった。
魔法は使えないけど、優しくて色んなことを教えてくれた。
幼いミリスは少なくともエリシアを好いていたのだ。
しかし、その仲を引き裂いたのはシリアだった。
魔法が使えない様な愚図とは関わるなと――。
シリアは幼いミリスをエリシアから引き裂くために、酷い仕打ちをミリスに行った。
それをエリシアと言葉を交わすたび、会うたびにだ。
当時のミリスはシリアよりも魔法面で劣っており、反抗はままならなかった。
そうして行く間に、エリシアに対する潜在的な拒否感が生まれたのだろう。
勿論、こうした幼少期を過ごしていれば今の様にねじ曲がった性格になるのも無理はない。
「思い返したら、本当に腹が立ってきたわ! 我が子として見てないくせに親ヅラしやがって、どうせ道具だと思ってる癖にっ‼︎」
ミリスは近くにあった、花瓶を蹴りつける。中の水が溢れ、カーペットに大きなシミを作る。
追放ではなく、なんなら殺してしまってもいいだろう。そんくらいの事はしていると思う。
そんな時、ふとエリシアの事を思い返す。
「あの愚図は何をしているのかしら……?」
以前はこんな思い返すなどはしなかった。
そんな事を気にする様になったのは、エリシアが失踪してからだった。
あんなに虐げて、酷い目に合わせてきたと言うのに、今更になって心配している自分がいた。
自分でも言うのもなんだが、言われもない気持ち悪さがある。
今の自分は過去の自分とは違う――姉が好きだったミリスは過去に置いてきた。
そのはずなのだ。
もしかしたら、今でもエリシアが好きだった頃の自分が心の隅にいるのかも知れない。
ミリスはそんな事を思った。
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