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悪役令嬢の101人目のダーリン  作者: マンゴスチン姐さん
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札束で殴られたような衝撃

ズッコーンと前世の記憶が戻ったのは婚約者に私の身体的な特徴で貶された時だった。

「この貧乳!」

その言葉の暴力は札束のようで、殴られる度に、心や大切な何かを削っていった。

ブッ殺してやる!

私が真っ先に思ったのはそれだ。


「お前のとりえなんかお茶を少しだけ美味しく淹れる事程度だ、それすらもアイリーンには敵わないがな」


カッチーン。


この野郎、今言ったこと後悔させてやるからな……。

なぜか、ヒロインの良いところをまるで自分の事のように得意気に言い出す婚約者はとても滑稽だ。


奴は私の背後から出ている禍禍しいオーラにすら気が付いていないようだ。

私は言われっぱなしで終わるつもりなどない。


だいたいお前、乙女ゲームのすれ違っただけで好感度が鰻登りになる鼻をほじりながらでも攻略できるキャラだからな?他のヒーローの当て馬だからな?



そんな事を思っていても目の前の鼻くそ男は、ひたすら私の霞草のようなささやかで美しい胸を貶し続ける。



「お前の小さな胸は面白味がないな」



本当に私の胸は美しいんだぞ。上品な可愛らしいさは真珠のようなんだぞ。

少しばかり小さいからそれが何だと言うんだ。

怒りに任せてこの場でポロリをして見せつけてやりたい気分だ。

いくら生まれ変わったってこんな鼻くそ男の婚約者なんてあり得ない。

ゲームでリコリスは貧乳とはいえ、そこそこ可愛くてモテそうだったのに。ホレた男が悪かった。

彼女は何をしても好感度を上げる鼻くそのせいで、ヒロインに嫉妬してどこのエンドでも断罪され嗜虐趣味のある下級貴族と婚姻する末路しかない。


本当に可哀相だった。


したことなんて足を引っかける程度だったが、微妙に私の身分も低いせいで酷い断罪となったのだ。

断罪後、彼女が首輪をされて蛙のような外見の下級貴族に引き摺られ消える姿は鳥肌ものだった。思い出してもチビりそう。



うわっ。もう、私の未来なんて決まってるじゃん!

婚約破棄して修道院に行くしかないじゃん。

あれ?ていうか王立学園の卒業ってもうすくじゃね?そもそも、アイリーンに何かしたっけ?

やベェぞこいつは。さっさと婚約破棄に持っていくか、逃げるかしないと本当に断罪されっぞ。


「聞いているか……?リコリス。お前は貧乳で。アイリーンを見習え!」


内心アワアワしている私をよそに。なおも目の前の鼻くそ、もといジェリドは罵り続けた。


蛙か鼻くそか。

もう、どっちとも結婚なんて考えたくなかった。

だいたいこの鼻くそは。そう、鼻くそのくせに……。私がこの鼻くそよりも身分が低いからさっきからずっと偉そうに!

好き勝手言うのは間違いなく、私が言い返せないからだとこの男はよくわかっている。

弱いもの苛めしやがって。鼻くそのくせに……!


「おい、鼻くそ」


私は低く抑えた声で我慢できずに思わず鼻くそに声をかけた。

リコリス……。私が貴女の不満を全てのこの男にぶつけて上げるわ。

ケチョンケチョンに言い負かしてやる!

この鼻くそにとってどの言葉が痛手になるか私は考え始めた。



「お前、俺の事を鼻くそだと?」



鼻くそは顔を真っ赤にしてキーキーと猿のように喚きだした。

ハッキリ言って猿に失礼なくらいだ。鼻くそごときが全猿に謝れ。

「うるせぇよ。鼻くそ。人の身体の特徴で偉そうな事を言うけど、お前はどうなの?」

もはや無礼なんてものは気にせず前世の喋る口調のまま、私は鼻くそに問いかける。


「はぁ?」


鼻くそは唖然とした様子で私を見て言葉を失ったようだ。

まぁ、サンドバックが突然反撃したら驚くかもしれない。


「このゴミ虫クソ野郎。お前何か私に隠してるだろ?」

「何だと?」

もちろんそれはハッタリだ。予想通りジェリドは食い気味に聞き返してきた。

ぶっちゃけ何を隠しているかなんてどうでもいい。

ただ、私はジェリドに攻撃をして婚約破棄に持っていきたい。それだけだ。


「何でそんな事が言いきれるの?だいたい人の気にしてることに攻撃するって事は何かしらあるんだろ?」


やましい事がある人間は何かしら相手を叩きたがるものだ。浮気してる奴ほど束縛が強かったりするのもそうだ。

私の胸が小さいのを責めるのは何かある!それはきっと、ジェリドに致命的な何かであるのは間違いない。


「そんな訳がない。俺はアイリーンに素敵だと言われた。何もやましいことなどない」


予想通り奴は慌てたように反撃に出た。

というか、わざわざアイリーンとの関係も暴露してくれるとは思いもしなかったけれど。言わなくていいし。


「そりゃ。褒めますよ。アイリーン様ですもの」

「それはお前が」

「そんな事を平気で言えるような神経の人間は最低最悪ですよ。だから、女の扱いが下手くそ過ぎるんだよ!」


もはや言い掛りでしかないのはわかっているが、ひたすらこの鼻くそに言い返したかった。

でも、これだけはわかる。

こいつ絶対に女の扱いが下手くそだ……!

きっと、やましいことはそれだ!そうに決まってる!

これは経験のようなものだ。

私は前世は処女だったが、沢山の男と付き合った。たぶん100人くらいかな?

もちろん妄想に決まっている。短い人生で100人と付き合えるわけがない。

初めての相手はこのゲームのアーロン王子だったけれど。

もはや彼はヒロインに骨抜きにされて気持ち悪い生き物にしか見えなかった。

妄想は本当に癖になるもので、ゲームの好きなキャラクターが甘い言葉を囁きながら私にあ~んしたり。時折、優しいキャラクターが、Sな言葉を投げ掛けてそれがどれだけ胸をキュンキュンさせたことか。

きっと、そんな楽しみなんてこの男にはわかるわけがないだろうが。

妄想族万歳!


「そんな事は…!」


私の言いがかりに鼻くそは必死に言い返そうと、顔を真っ赤にして言葉を繰り出そうとしていた。

「またアイリーンが褒めてくれたって言うんですか?」

「何でお前にそれがわかるんだ」

「わかりますよ。私の前世は『100人の男と付き合った処女』なんですから」


これは、私が前世の時に勝手に決めた二つ名だった。実際は1000人かもしれないけれど。


「今、何と言った?お前、誰に処女を捧げたんだ!?不貞だぞ!」

鼻くそは話を全く聞かないで今度は違う意味で怒り始めた。

でもさ、おかしくないか……?

男は他の女とデートはよくて女はダメって、男は風俗オッケーで女はダメって。

誰が決めたんだ?


「だいたいなんで男は女とデートしたり、女買っても不貞にならないんですか?」

「え?」


私の純粋な疑問にジェリドは固まり考え込んだ。

「女だって男を買ったっていいじゃないですか。狡いですよ。お前以外の男を知らないなんて生き地獄じゃないですか!」

経験なんてしたこともないくせに私は言いたいことを言いまくる。

この世界の不満をジェリドに八つ当り気味に吐き出すと彼は呆然としていた。

「は?」

「狡い。狡い。お前は色々な可愛い女の子とデートしても許されるし、モテモテだし。中身はクソだけどさ。」

「え?」

「私だってモテたい!チヤホヤされたい!可愛いって言われたい!イケメンと結婚して、たまには別のイケメンとデートしたい!」

「っ何だと?」

「何よ。自分ばっかり良い思いして私はダメって何よ。狡いじゃない。私だって可愛いって言われたいわよ。『愛してる』とか甘い言葉で囁かれたいわよ。『捕まえた。二度と離さない』とか言われて抱き締められたいわよ!お前以外のイケメンにね!」

息を詰まらせる奴の怒りを煽るように、怒りのまま捲し立てる。

そう、こんな奴とエッチするくらいなら一生処女で修道院に行った方がましだ。



さっさと、怒って婚約破棄してくれ。



「お前はなんて無礼な女なんだ!」

「そうよ!そうよ!無礼な女が一生ついて回るわよ!」


今すぐ婚約破棄を!

こんな、ビッチで口の悪い女なんかと結婚してもジェリドにはなんのメリットもない。今すぐに婚約破棄すれば彼はいい条件の女と結婚できるだろう。

ぶっちゃけ、アイリーンの件で変な罪を着せられても困るし、学園にも通いたくない。このままいけば確実に破滅ルートだ。


「俺をバカにして本当に許せん」


ジェリドは、静かに怒りを吐き出すように呟きこちらを見た。

もう、これなら婚約破棄ね。

私は踊り出しそうなくらい嬉しくなって続きの言葉を待った。


「絶対に婚約は解消しない!」


はぁ?何ですと~!!

婚約破棄しないなんて。私はどうしたらいいんだ!

「うっせぇ!さっさとしやがれ!」

私は怒りのあまり悪質タックルをジェリドにぶちかます。


「ブフォ」


奴は、お茶を吹き出しながら椅子こと倒れて気絶した。


「婚約破棄しないなら、さっきの事は忘れなさい」

さっきのやりとりは物理的にジェリドは忘れただろう。たぶん。

私は泡を吹いたジェリドをそこに残して寮に帰った。


この後大変なことになるなんて知りもしないで……。



「り、リコリスたん……」

ジェリドが何か呟いていたが私には聞こえなかった。

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