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絶望の食卓  作者: 枝鳥
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バーベキュー

 よくわからないが、そういう味。

 そんな味に何があるかと言われると、枝鳥は真っ先にバーベキュー味と答えていた。


 いや別にバーベキューをしたことがないわけじゃない。小学生の頃には夏には海や山で家族と肉や野菜を焼いて食べたりしたものだ。


 だがしかし。


 そこにあるのは焼肉のタレ。


 じゃあ、あれらはただの外で食べる焼肉だったんではなかろうか。ポテトスナックのバーベキュー味とは違うではないか。


 なので、枝鳥の中では長年に渡りバーベキュー味は謎の味だった。

 そう、すでに今は過去形なのである。



 数年前のある春の午後に、インターネットの海をフラフラ彷徨っていると、バーベキューソースを紹介するサイトにいつしか辿り着いていた。


 ふむ、なるほどなるほど。

 やはり焼肉のタレとは材料からして違うのだな。


 しかし、スペアリブ1キロのための分量なのか。さすがにそんな量はいくら枝鳥と言えども食べきれなさそうだ。うーん、これはなかなかに食べる機会などなさそうだ。


 そうモニターを眺めながら悩んでいると、突然背後から話しかけられた。


「枝鳥さん、今いいですか?」


 ビクッ!


 おそるおそる顔を上げ振り向くと、そこにはこの春に入社したばかりの後輩が図面を持って立っていた。



 やばい。

 就業時間中に遊んでいるのが新入社員に速攻でバレた!

 い、いや、別に何もしていないわけじゃあなくて、データダウンロードに時間がかかるから、し、仕方なくね。

(ここまで枝鳥の脳内でコンマ1秒)


 そう、ここは社内であったのである。



 冷や汗を隠して何でもないフリをして新入社員から図面を受け取り、次の指示を出し終えた枝鳥は、彼が話を聞きながらも枝鳥のパソコンのモニターにチラチラと目を向けているのに気がついた。



 1キロのスペアリブ。

 この居た堪れない状況。


 そう、枝鳥は混乱していたのである。

 全ては1キロのスペアリブのせいである。


「も、もし親睦会としてバーベキューするなら行ってみたいと思う?」


 ついうっかりそんな言葉を発する程度に。



 そこからトントン拍子に話は転がり、参加者が20を越えた辺りで諦めた。

 もうこれはバーベキューに行くしかない。

 何よりも引きこもりたい枝鳥が、発案者ということでバーベキューの幹事などという苦役につくこととなってしまったのだ。

 人間、後ろめたいことはしてはいけないのである。


 が、まあ丁度いい機会なので、バーベキューソースを作成することにしたのである。


 枝鳥のバーベキューは、焼肉にはしない。

 今回のミッションはバーベキューソース味の初体験だ。

 それに参加者にはあらかじめ宣言してある。

 手配とスペアリブまでは枝鳥が率先するが、現地でビール飲んじゃうよと。

 予約もした。

 集金して会計に渡した。

 色々と発注もした。

 よし、じゃあ前日にスペアリブの準備をして枝鳥の仕事はお終いだ。



 1キロを四人前とすると、5キロもあれば20人に足りるだろう。だが、他にも肉や魚介類を発注してある。

 なので今回は2キロにした。


 ・ 豚スペアリブ 約2キロ

 ・ ケチャップ 300cc

 ・ 醤油 300cc

 ・ 蜂蜜 100g

 ・ オイスターソース 大さじ6

 ・ タバスコ 大さじ6

 ・ ラム 大さじ6

 ・ りんご酢 大さじ4

 ・ すりおろしたたまねぎ 1個

 ・ チューブのしょうが  大さじ2

 ・ チューブのにんにく 大さじ2

 ・ 青ねぎ 2本

 ・ クローブ 小さじ1

 ・ クミン 小さじ1


 バーベキュー前日の夜に、上記の材料のうち肉以外をまず混ぜて鍋で沸騰させ、そこに肉を入れて一時間ほど煮る。

 それを冷ますだけである。


 正直、なめてた。

 簡単そうだろうと。


 タバスコを大さじ6、これを量ったことがある人にだけ、この気持ちはわかるだろう。


 不安である。


 タバスコを一度にひと瓶以上使う。

 なんたる暴挙!

 延々と振り続けないと出てこない!

 枝鳥の二の腕の肉がプルプル揺れる!

 バーベキューに行く前に筋肉痛が始まりそうだ!

 しかもタバスコが足りなくて足りなくてコンビニへ走ったさ!


 ほ、本当に大丈夫なんだろうな?

 そんな不安と共にスペアリブは煮込まれた。

 こんなに大量のタバスコなんて、生まれて初めて使ったぞ。

 辛すぎて誰も食べられなかったらどうしよう。

 枝鳥の不安も鍋で一緒に煮込まれた。


 部屋中が不思議な香りである。

 酸味があって、甘くて、にんにくとしょうがが香る。

 夕飯を食べ終えたというのに、枝鳥のお腹がキュンキュンと訴えてくるほどである。


 味見用のスプーンにソースを取る。

 ペロリ。


 スパイシー。

 でも辛すぎない。

 酸味がほどよく、油の多い肉と相性バッチリだ。




 晴天のバーベキュー場で、バーベキューソースのスペアリブを食べる。

 炭で炙られたバーベキューソースが、辺り一面にスパイシーな香りを広げる。

 これは焼肉のタレにはできないスパイシーさだ。

 グビリと飲み干すビールも喉に気持ち良い。

 そこへ焦げ目のついたスペアリブをガブリとかじる。

 肉の脂が甘みを、ソースが酸味とわずかな辛味を。

 そしてそこへビールを流し込む。


 HAHAHA!

 楽しいじゃないか!

 ダディクールと言ってもいいんだぜ?



 初夏へ向かう季節。

 日陰が気持ち良いと思えるようになると、いつもあのバーベキューを思い出す。


 なぜかあの後に自宅でバーベキューソースを作って食べても、あの時ほどに美味しく出来ないのだ。

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