鰹のタタキ
目に青葉
山ホトトギス
初鰹
桜がすっかり散り、青々とした新緑の頃になるとこの俳句が頭をよぎる。
続けてもう一つ、ひっそりと頭をよぎる俳句がある。
女房を
質に入れても
初鰹
いやいやいやいや、あかんでしょう。
それを質入れするなどとんでもない!
美味いものは好きな人と一緒に食べてこそでしょう。
ツッコミどころ満載であるが、それ程までに江戸時代から初鰹は庶民に愛されてきたのだろう。
ちなみに鰹の旬は一年で二回ある。先述した通りの青葉の頃と、秋にくる戻り鰹だ。
シュッと引き締まった初鰹と、その10倍の脂の乗った戻り鰹。枝鳥は脂美味い派なので、戻り鰹の方が美味いと思っている。思ってはいるのだが、初鰹という言葉の響きについつい毎年、引き寄せられてしまう。
初物を食べると七十五日寿命が延びる。
そんな風に言われると、どうしても食べなくてはという使命感が湧き上がってしまうものなのである。
表面を藁焼きにされた鰹の節。
分厚く切られた歪な三角形。
濃い血身と鮮やかな赤い身。
さて、タタキにしようか刺身にしようか。
枝鳥は、一風変わったタタキにする。
長年の鰹の色々な食べ方を試した結果で、この方法が最も私の好みだということが判明した。
大根おろしを用意する。
ニンニクーーこれは国産、できればホワイト六片に限るーーもすりおろす。
皿に並べた鰹の切り身にニンニクのすりおろしを広げ、その上に水を切った大根おろしをこれでもかと乗せる。
その上に青ネギを刻んだのを、これまたてんこ盛りにする。
味ポンを回しがける。
好みで七味などを振るのも良い。
大根おろしとポン酢の黄金コンビのさっぱり感。すりおろしたニンニクの旨味。青ネギの風味。
それらが濃いカツオの味と合わさると、箸が止まらなくなること請け合いである。
もっちりとした鰹の歯ごたえに、シャリっとした大根おろしがとてもよく合う。
他の魚ではこうはいかない。
カツオだからこそ、これだけの風味と合わさっても負けないのだ。
逆に言うと鰹は、ずっと食べ続けるとその風味に飽きてしまうのである。濃すぎるのである。
枝鳥式の鰹のタタキは、その点を改良していると自負している。
枝鳥の友人知人にも鰹が好きという人間は非常に少ない。
こんなに美味いのに。
旬の時期に売られる鰹はとかく安い。
春と秋、二回も旬を味わうことができる素敵な魚なのに、その実あまり人気がない。
やはり風味の強すぎる魚であるせいだろうか。
カツオの濃すぎる風味が苦手な方にこそ、枝鳥式の鰹のタタキを試してほしいものである。
江戸の昔には切望された鰹も、最近ではシーチキンでしか食べない人の方が多いのではないか。
余談だが、シーチキンの缶詰めをよく見ると、原材料がマグロとカツオの二種類ある。マグロの方がややお高いが、より魚らしい風味があるのはカツオである。口当たりはマグロの方が良い気がする。まあ、マヨネーズで和えてしまえばたいして変わらない。水煮とオイル漬けという種類分けもあるので、ここらは本当に好みの問題なんだろう。
鰹のタタキを恋女房と食べる。
なんとも幸せそうじゃないか。
だがしかし。
枝鳥を
質に入れても
初鰹
目の前の人がこんなことを考えていたらどうしようか。
枝鳥なぞ、二束三文にもなるまい。
初鰹には、ちょっとしたスリルの味わいもあるのだろう。




