フィッシュフライバーガー
チェーン展開されているその喫茶店のコーヒーは微妙である。
多分、最近ではコンビニエンスストアで手に入るコーヒーの方が美味いのではないかと枝鳥は思っている。
しかし店名には珈琲の文字が入っている。
解せぬ。
枝鳥はコーヒーを飲むためには、この喫茶店には来ない。
ここに来るのは、すべてはフィッシュフライバーガーのためである。
手のひらよりも大きな丸いバンズ。
一面に敷き詰められた千切りキャベツ。
その上に鎮座する四角いフィッシュフライ。
フライの上にはスライスチーズ。
チーズの上にピーマンとオニオンが散らされている。
大きいことはいいことだ!
この店のフィッシュフライバーガーを目にする度に、そんな言葉が脳裏をよぎる。
この店のフィッシュフライバーガーは本当にでかいのだ。
丸い皿に乗って供される時に、半分に切られている。
しかしその半円状のフィッシュフライバーガーですら、片手で持つのは困難なのだ。
なんと素晴らしい。
両手で半円をしっかりと持ってかぶりつく。
軽くトーストされたバンズがサクッ、フワッとする。
続いてザクリと揚げたての熱々のフィッシュフライの感触が小気味良い。
シャキシャキのキャベツも甘く気持ち良い。
ジュワリと広がるチーズがそれらを包み込む。
そしてフィッシュフライの下に隠されていたタルタルソースの酸味が広がる。
渾然一体となった美味しさなのだ。
あっという間に半円を食べ尽くしても、まだ半分残っている。
残りの半円が、これまた素晴らしい。
時間が経ち、チーズはよりとろけてタルタルソースがフィッシュフライに染み込んでいる。キャベツもフィッシュフライの熱で程よくしんなりとしている。
最初の半円よりも、一体感が増しているのだからたまらない。
いい大人の昼飯がハンバーガー一つだなんて聞くと、ずいぶんとわびしく聞こえるだろう。
それでも、フィッシュフライバーガーを食べ終えた枝鳥の腹は、もう一つは要らぬと主張している。
だいたいそもそもが、ハンバーガーが二つに切り分けられていることがおかしいのだ。
片手でパクリと摘めるものが、本来の正しいハンバーガーだと思うのだ。
両手で持たないと食べられない時点で、ハンバーガーとしてのアイデンティティは大丈夫なのかと疑ってしまう。
でもまあ、いつも通り、うまければいいのだ。
美味いってだけで、全てが許される。
フィッシュフライバーガーと共に注文したアイスコーヒーの残りをズズーッと飲み干しながらやはり思う。
この珈琲店のコーヒーが、もっと美味ければいいなあと。




