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絶望の食卓  作者: 枝鳥
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豚まん

 春だというのにまだうすら寒い。

 こんな日には、何か体が芯から暖まるものを食べたくなる。


 コタツで縮こまりながら、我が家の冷蔵庫の中身を思い返す。

 うん。

 ろくなものがない。

 さてさて、冷凍庫に何かあったかな。

 おお!

 そう言えば、まだアレがあったはずではないか!

 仕事で関西に行く機会がある度に、枝鳥はとあるモノを買い込んで帰る。

 赤いパッケージに入った幸せ。

 その名は豚まん。


 肉まんではない、豚まんである。

 何故ならば、関西で肉と言えば牛だからである。


 枝鳥はこの豚まんに出会ってから、コンビニエンスストアで肉まんを買わなくなった。

 ここで力説させていただこう。

 この豚まん、皮が旨い。

 ほのかに甘い皮でフッカフカである。

 例えるならば、最高級の旅館の布団である。

 一度この豚まんを食べると、その辺で手に入る肉まんの皮はまるで何十年も使った薄いせんべい布団に思える。

 フッカフカの皮の中には、豚肉と玉ねぎの餡がみっしりと詰め込まれている。

 手に持つと、ズシリとした重さを感じるほどである。


 コンビニエンスストアで買える肉まんがおよそ120円のところ、この豚まんは一つ170円もする。

 穴あき硬貨一枚分。

 約1.5倍もする高級品である。


 更には、この豚まんを買って電車に乗ると否が応でも注目を集めてしまう。

 シャイな枝鳥にとっては、なかなかにハードルが高い食べ物であるにかかわらず、関西に行くとついつい買ってしまう。

 にくいアンチクショウである。

 豚なのに肉いとはこれいかに。


 10個入りを買って自宅に帰り、枝鳥がまずすることはラップで一つずつ丁寧に包むことである。

 そして冷凍庫にIN。

 これだけで、寒い日の準備は万端である。



 いそいそとコタツから抜け出し、小皿を用意する。

 少し水を注ぎ、割り箸を平行に置く。

 その上に凍った豚まんをセットして、さっきまで豚まんを包んでいたラップをふんわりかける。

 後は電子レンジに任せるだけだ。


 電子レンジの前で小躍りしながら待つこと少々。

 チーン。

 軽やかな祝福の鐘が鳴る。


 熱々になった豚まんを取り皿に移動させ、急いでコタツに戻る。

 コタツの上にはもちろん辛子の準備はしてある。


 豚まんの裏にある竹の皮をそうっと剥がす。

 ここは慎重さが問われる場面である。

 焦るとろくなことにならない。

 ぺりょんと皮がめくれ過ぎて、豚まんの中身が晒されてしまうという悲劇をはらんでいるからだ。


 パクリ。

 最初の一口は、大胆にいく。

 フッカフカ、フッカフカだよ!

 皮が美味いので、餡まで届いてなくてもいいのである。

 ハフハフと熱さを堪えながら皮の旨さを堪能する。

 蒸しパンのような皮はそれだけでも美味い。


 さて、いよいよ次の一口は豚まで到達する。

 パクリ。

 あちちちち。

 ハフッハフッ。

 粗めの豚肉と玉ねぎから、美味い汁が溢れる。

 ぶたうまい。

 熱さに少し涙目になりながらも止まらない。

 かわうまい。

 モッフモフの皮には豚の旨味が染み込んでいる。


 辛子を付けても美味い。

 ツーンとくる辛味が豚の甘さを引き立てる。


 コタツで豚まんを頬張ることの、なんと幸せなことよ!

 肌寒い日に、こんなに美味な豚まんを食べられる枝鳥は、きっと神に祝福された幸運な人間であることに間違いはない!

 食べ終わる頃にはすっかりと体が暖まって、額には薄っすら汗が浮かんでいる。

 コタツから足先を出して呟く。

「あー美味しかった」



 食べ終えた枝鳥は冷凍庫の残機を考える。

 次の出張まで、最適なスケジュールをまた組み直さねばならない。

 今日のような急な寒さのせいで、すっかり予定が狂ってしまった。

 天気予報とにらめっこしながら、豚まんの日をスケジューリングする。

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