材料屋さん
お店にはいってすぐの場所にソファーがある。
順番待ちのお客さんが座るためのものだ。
その三人がけの大きなソファーをひとりじめして、足を組み深く座りこんでいた。
右手にエンピツをもち、左手にもったクロスワードパズルの雑誌をにらんでいる。
出題されたクロスワードを解くと、答えとなる言葉があらわれる。それをハガキに書いて応募すれば賞品が当たる、かもしれない。という雑誌だ。
懸賞には一度も応募したことはない。
商品なんて用意していないことはわかりきっている。
『頭の体操』程度に考えてチマチマと遊んでいるだけだ。
一文字目と三文字目が漢数字の四字熟語。
これさえ解ければこのページのクロスワードは解けたも同然だがいっこうに思いつかなかった。
ふたつが同じ数字かちがう数字かもわからない。
しばらくそのまま考えていたが答えは出てこなかった。
大きく上へ背伸びをして、全身でソファーに寄りかかった。
そして、時計を見上げた。三時半近い。
ここまで、ということで解けないページにエンピツを置き雑誌を閉じる。
そろそろ『材料屋さん』が来るはずだ。
お昼ごはんを食べ終えてから三件の電話がきていた。
一件目は、シャンプーとセットのお客さん。
仲の良かった友達と久しぶりに会うからキレイにしておきたい、という木曜午前の予約。
二件目は、カットのお客さん。
自分で切って失敗してしまったところをなおして欲しい、という水曜日午前の予約。
そして、三件目の電話が『材料屋さん』。
近くを回るので足りないものがあればもっていく、という本日三時半以降の来店予告。
材料屋さんとは、美容用品のメーカーから紹介してもらった個人の業者だ。
メーカーさんや問屋さんからヘアケア商品を中心に仕入れ、美容室を相手に巡回販売している。
ふだんから『材料屋さん』と呼んでいるため本名はわからない、忘れてしまった。
隔週の定期巡回とこちらが注文したときに商品をもってきてくれる。
近くを通ったときなどにも顔見せ程度にお店にくることがある。
どうやら今日がその顔見せの日のようだ。
とりあえず、来てもらうことにした。
材料を使い切った記憶があるわけでもなく、実際に確認したわけでもないが、少なくなっているのは確かだ。
昨日のいそがしさから考えて間違いない。
シャンプーとヘアダイと……そういえば新しいヘアスタイリング剤があるとか話していた気がする。
私のお店の客層には合わない商品だが、話してみれば興味をもつお客さんもいるかもしれない。試してみるのも悪くない。
そんなことを考えつつ、お茶の準備をする。
急須と湯のみ茶碗を用意したとき、お茶っぱがなくなっていたことを思い出した。
日曜日に使い切ってしまったのだ。
ポンッと、茶筒を開くが中身はやはりカラだ。
茶筒のふたの開け閉めをくり返して、ポンポン鳴らしながら考えると、
――お茶を材料屋さんに買ってきてもらおう。
そんな結論が出た。
着信履歴から材料屋さんに電話をかける。
呼び出しているが、なかなか電話に出ない。
きっと運転中なのだろう。
ついでにお茶請けもたのんでおこう、なにかおもしろいものを買ってきてくれるはずだ。
ふと、いまの自分の状況を思うと、ある四字熟語が頭をよぎる。
一文字目と三文字目が漢数字の四字熟語。
それが先ほどまで解いていたクロスワードの答えだった。




