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第一話 再会

「高校生になるんだから、部屋くらい片付けなさい。」

昼下がり、リビングから母さんの声が飛んできた。

「分かってるって……。」


返事だけはしたものの、陽向はベッドの上へ倒れ込む。

部屋を見渡すと、漫画やゲーム、学校のプリントが散らばっている。

確かに、片付けた方がいいのは分かっていた。


「……やるか。」

重い腰を上げ、押し入れを開ける。

奥から段ボール箱を引っ張り出した。

「なんだこれ……。」


蓋を開けると、小学生の頃に集めていたビー玉が転がる。

虫取り網。

色あせたカード。

地図のような紙切れ。


その下には、一枚の写真も入っていた。

「これ……。」

少し色あせた写真。

思わず笑みがこぼれる。

「懐かしいな。」


机の引き出しを開けると、空いていた写真立てが目に入った。

「せっかくだし。」


写真をそっと入れ、玄関の下駄箱の上へ飾る。

「よし。」

その時、リビングから母さんが顔を出した。

「あら。」


写真立てを見つめ、少し驚いたように目を細める。

「その写真、飾るの?」

「うん。押し入れの奥に入ってた。」

「……そう。」

母さんは少しだけ安心したように微笑み、リビングへ戻っていった。

陽向は少し不思議に思ったが、深くは考えなかった。

箱の中には、まだ思い出の品が残っていた。


『ひみつきち』

下手くそな字でそう書かれた紙を手に取る。

「あったなぁ……。」

思わず笑ってしまう。

地図を広げると、公園の裏山まで続く道が描かれている。


途中には、

『ここにトラップ!』

『おかしをかくす』

なんて落書きまであった。


「懐かし……。」

そういえば、あの頃は毎日あの公園に集まっていた。


俺と拓真と――

「……結衣。」


自然と名前が口からこぼれた。

しばらく会っていない。

でも急に、顔が見たくなった。

陽向は財布だけを持って家を出た。

春の風が少し暖かい。

公園までの道は昔とほとんど変わっていなかった。

ブランコ。

滑り台。

砂場。

全部、小学生の頃のままだ。

「……あ。」


ベンチの前で、春風に髪を揺らしながら、一人の女の子が立っていた。

肩まで伸びた髪。

見慣れた笑顔。


「陽向!」

「……結衣?」

「久しぶり!」

「え、なんでいるんだよ!」

「それはこっちのセリフ!」


結衣はくすっと笑う。

「高校生になるからって、急に大人ぶっちゃってさ。」

「いや、別に。」

「うそー。」


昔と変わらない。

その笑い方も、少しだけからかう話し方も。

「元気だった?」

「うん。陽向は?」

「まあ、それなり。」

「ふふっ、相変わらずだね。」


久しぶりなんて感じはしなかった。

昨日まで一緒に遊んでいたみたいに、自然だった。

二人は公園をゆっくり歩く。

「そういえばさ。」

陽向がブランコを見ながら笑う。

「ここ来るたび結衣、走って転んで泣いてたよな。」

「えぇー!」


結衣は少し頬を膨らませた。

「毎回じゃないもん!」

「毎回だった。」

「二回くらい!」

「十回は見た。」

「盛ったでしょ!」

二人で笑う。

「あの時さ。」


結衣が指をさす。

「陽向が絆創膏くれたんだよ。」

「あー、あったな。」

「でも貼る場所間違えてた。」

「え?」

「ひざ擦りむいてるのに、足首に貼ってた。」

「そんなことしたっけ?」

「したした!」


結衣は楽しそうに笑う。

「結局、拓真が貼り直してくれたんだから。」

「あいつ、昔からしっかりしてたよな。」

「ね。」


少しだけ沈黙が流れる。

でも気まずくはない。

心地いい沈黙だった。

「そういえば。」

陽向がポケットから、さっき見つけた紙を取り出した。

「これ。」

結衣は目を丸くする。

「秘密基地の地図!」

「押し入れから出てきた。」

「まだ持ってたんだ。」

「結衣こそ覚えてる?」

「もちろん!」


結衣は地図を覗き込む。

「ここにお菓子隠して。」

「拓真が全部食べて。」

「違う違う。」


結衣が笑う。

「陽向も一緒に食べたじゃん。」

「……バレてた?」

「最初から。」

「言えよ!」

「面白かったから。」

また笑い声が響く。

「今でもあるかな。」

陽向が地図を見つめる。

「あの秘密基地。」

「どうだろ。」

結衣は空を見上げた。

「見に行ってみる?」

「いいじゃん。」


二人は裏山へ向かう。

草が伸び、道も昔より狭くなっていた。

「ここだったよな。」

「うん。」


しかしそこには、秘密基地はなかった。

木材も段ボールもない。

ただ木漏れ日だけが揺れている。

「なくなっちゃったか。」

陽向が少し寂しそうに笑う。


結衣も同じ景色を見つめ、

「でも。」

優しく笑った。

「楽しかったよね。」

「……うん。」


その一言だけで十分だった。

秘密基地はなくなっても、

あの日々までなくなったわけじゃない。

帰り道。

公園の前にあるコンビニへ寄る。

「アイス食べる?」

「やった!」

陽向は二本のアイスを買って戻る。

「はい。」


一本を差し出す。

結衣は嬉しそうに受け取ろうとして、

ふっと手を止めた。

「あっ。」

「どうした?」

「えへへ。」


少し照れくさそうに笑う。

「今日はお腹いっぱいだから、陽向が食べて!」

「またかよ。」

「いっぱい食べる子は大きくなるんだよ?」

「もう高校生なんだけど。」

「あはは!」


結局、陽向は二本とも食べることになった。

「美味しそう。」

「食べればいいのに。」

「見てるだけで満足!」

結衣はそう言って、楽しそうに笑っていた。

「じゃあ。」

夕日が公園を赤く染める。

「今日は帰ろっか。」

「うん。」

「また明日な。」

陽向が何気なく言う。

結衣は少しだけ目を細める。

それから、いつもの笑顔で手を振った。


「またね、陽向。」

その笑顔が、夕焼けの中で少しだけ寂しく見えた気がした。

陽向は、その理由をまだ知らなかった。

春風だけが、静かに二人の間を吹き抜けていった。

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