プロローグ 『非日常的な日常』
きっかけがあれば、自分も変われる。
僕はそんなことをいつも思っていた。
何かとても大きな出来事...。例えるなら街でスカウトされたり、道端で知らない女性とぶつかったり、何気ない日常に食い込んでくるような、非日常。
そんな非日常が、僕の今の何者でもない日々を変えてくれると思っていた。
何かがあれば、僕も変われると思いたかった。きっと僕も彼らみたいに誇りを持った人生を歩める!と思っていた。
「....そう思いながら、もうすぐ2年生か....」
でも分かっている。そんなことが簡単に起こるはずもない。たとえ起こったとしても、それは僕の人生の中ではたった一回の不思議な体験として記憶されるだけなんだろう。
____橘 星翔16歳。僕はあまりに普通の人間だ。強いて言うなら名前が少しキラキラしてるかな?って思うのと一応剣道を習っていることくらい。
それ以外は本当に普通だ。もう僕が、自分の話すことがこのようにないみたいに、僕にはまるで特徴という特徴がない。
「僕ってこのまま、何もなく2年生になるのかなぁ....」
2年生になる直前に大きな試験がある。その試験によって、僕の進む道が決まるのだけれど....どうも僕は自分の行きたい道には行ける気がしない。
....このまま何もない人生を歩むんだろうか。
いつもの帰り道、見慣れた光景が視界を横切る。
行きつけのコンビニ、いつも買い物するスーパー、車が通らないところを見ない大きな橋、その下にある川の横で寝転がっている人、楽しそうに会話する同年代。
日常的な光景....きっとこの先も、この光景を見るのは変わらないのかもしれない。僕はきっと非日常とは無縁なのだろう。
「................ん?」
いつもの帰り道、見慣れた光景が視界を横切る。
行きつけのコンビニ、いつも買い物するスーパー、車が通らないところを見ない大きな橋、その下にある川の横で寝転がっている人、楽しそうに会話する同年代。
...... 行きつけのコンビニ、いつも買い物するスーパー、車が通らないところを見ない大きな橋、その下にある川の横で寝転がっている人......。
「え....?」
違う、ちょっと待って。川の横で寝転がっている人?
流石にそんな日常は僕だって知らない。いや、たまたま寝転がっているだけの人かもしれない。もしかしたら、たまたまそこで寝ているだけなのかもしれない。
「...........」
今渡った橋を戻り、橋の上から恐る恐る下を見下ろす。
そこには確かにいた。
正確には“川の横でうつ伏せになって倒れた人”が。
「う、うわあああ!!」
自分でも訳が分からないほど叫んだ後に、僕は急いで川の土手を下って、その人の元まで降りて行く。
倒れている男性は僕と同じくらいの年齢で、身長は僕より高かった。格好はまるで川遊びにでもしにきたのかと思うほどラフな格好だった。
とりあえず大きな傷がないか確認するために、僕は一度彼を仰向けにした。
(あれ、なんか女性みたいな顔だな)
顔立ちは結構整ってて、男というより女性に近い顔だ。目も大いし、まつげも本物の女性よりかは流石に短いが、男の中では長い方だった。しかし体格はちゃんと男であり、それに間違いはない。
とはいえモデルってほど目立つような容姿じゃないな〜なんてクソ失礼な考えが急によぎったため慌てて拭い去り、僕は必死になって、倒れてる彼に向けて声を呼びかけた。
「大丈夫ですか!!しっかりしてください!!」
彼を見つけてからここまでの行動、その全てが無意識であった。自分ってここまで人のために動けたんだと、少し感動を覚えるほどに。
でもそれ以上に僕は、突然僕の何もない日常に、異常な非日常が踏み込んできた....本当に、非日常とは前触れなく日常の中に現れてくるものなんだと実感した。
この人は生きてるのだろうか...もしかして死んでるんじゃないのか?
もし死んでたら自分はこのあとどうなるのだろうか。もしかして何かした犯人と間違われたりしないだろうか?
色んな考えがよぎった。どうなるだろうと不安な気持ちさえあった。けれども同時に色んな邪念も頭の中を巡っていた。
なぜだか分からないけど、僕は今この状況をワクワクしている。
非日常的な日常....ずっと望んでいたそれが、ついに始まるんじゃないかという、どうしようもない僕の黒い希望が頭の中には広がっていたんだ。




