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【題名変更しました】 『偽物』だと追放された元大聖女たちは、最強の相棒と運命の壁を乗り越える  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第四章 新たな地へと向かう聖女たち

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45/53

45、報告

 悲しげな表情のレア。そんな彼女を見て、ウルは胸を痛めた。

 この後の話は、彼女にとって耳を塞ぎたくなるような内容だろう。けれども、彼女にも知ってもらった方が良いとウルは判断する。


「枢機卿が病に倒れたことによって、グランテ王国の教会派閥の力関係が傾いてしまったからだ」

「教会派閥?」


 やはりレアはそのことを知らなかったらしい。

 

「ああ、貴族派は貴族令嬢を大聖女にして、寄付を増やそうと考えている派閥だ。神聖派は神聖魔力の量や扱い方で大聖女を決めるという派閥だ。以前までは神聖派のトップが枢機卿だった。枢機卿という権力者がいたから、大部分を占める貴族派に対抗できていたんだ」

「そんなことが……」


 ウルは話を続ける。

 彼曰く、貴族派は平民の聖女をよく思っていないそうなのだ。だから、今回平民であるレアが大聖女候補に選ばれたこと自体に苛立ちを感じていたのではないか、とベルドは考えていたらしい。

 その話を聞いて、レアも思い当たる節があった。


「私が大聖女候補に選ばれたのは……あの方の推薦があったって言ってた」

「権力者である枢機卿の推薦であれば、それを貴族派が拒否することなどできないからな」


 レアは思った。

 貴族派の者たちは、枢機卿の方針に鬱憤を溜めていたのかもしれない。グランテの王都の教会内では枢機卿の権力は強い。そのため、彼の一言で貴族派が考える方向性と全く逆方向の状況ができてしまう可能性がある。

 その反感が積もり積もって……枢機卿が倒れたとなった際に、全てが聖女としてそこそこ力を持つレアへと向かったのではないか。


 そしてレアの追放が行われた。こう彼女は推測したが、あながち間違ってはいない。

 

「枢機卿のいない神聖派は、貴族派の抑止力にはなれないからな。平民で神聖魔力量の多い君は、厄介払いされてしまったのかもしれない」

「そうかも。他にも何人か同じ境遇の子はいたけど……候補になったのは私だけだった気がする」


 沈んだ声を聞いて、ウルの視線は自然と下がっていく。

 仲間として関わってきたウルは知っている。


 彼女が努力家であり……他人のために労を惜しまない人であることも。

 グランテ王国でもきっとそうだったのだろう。

 

 けれども王国の教会はそんな彼女の尽力を踏み潰すかのように、彼女を追放した。あの声で平気なはずがない。

 ……そう考えたウルだったが、彼女になんと言葉をかけて良いのかがわからない。言葉が出てこないのだ。


 ウルの心臓の鼓動は速さを増している。

 しかしいつまでも無言でいるわけにはいかない。


 彼はゆっくりレアへと顔を向ける。

 すると……泣いているのではと思った彼女の表情は……まるで満開の花が咲き誇っているかのような笑み。


 それを見て狼狽えるウルに気づかないレアは、先ほどよりも弾んだ声で話し始めた。


「でも追い出されたことで、私は皆に会えたから。今は冒険者として人を助けるのが好きだよ」


 ウルは彼女の言葉に心が温かくなり、頬が緩む。


「ただ……ミナがいないのは嫌だな。これからも、二人で一緒に旅しよう、って言ったから……」


 今彼女が懸念しているのは、ミナのことだった。先に比べてレアの眉尻と視線が下がっていく。

 彼はレアの一歩先へと進むと立ち止まり、手を差し出した。

 

「ミナさんを助け出して、また旅をしよう」

「……うん!」

 

 

**


 一方でベルドは辺境伯の元へと向かう。

 足に風魔法を纏わせ、音もなく走り抜ける。


 額には汗が垂れ、肩で息をするベルド。ただ事ではないと判断した執事によって、執務室へと通された。

 

「ただいま戻りました」

「戻ったか……珍しいな、お前がそこまで焦っているのを見るのは。何があった」

「ランディア王国の大聖女ミナが、誘拐されました」

 

 その瞬間、辺境伯の手が止まる。そして扉横にいた執事へ無言で指示を出す。

 すぐに辺境伯の執務机の上に、魔道具が二個置かれる。彼はひとつ目に手を伸ばすと、辺境伯の周囲に幕が張られた。ベルドが目を見開いていると、辺境伯は彼を手招きする。

 ベルドが幕の中へと入った後、辺境伯はもうひとつの魔道具に手を伸ばし、魔力を注いだ。すると――


「何が起きた」


 時間にして数分ほど。円盤の上に現れたのは、人だった。ベルドは聞き覚えのある声に思わず「え」と声が漏れ出す。

 それもそのはず。目の前にいた人は、帝都にいるはずの皇帝。彼は執務机に座っているのだが……ベルドはその机に見覚えがあった。一度だけ、彼が冒険者として帝国を回る際に訪れた……帝都の皇帝の執務室にある机だ。


 どうやら、皇帝の執務室の様子が映像として浮かび上がっているらしい。


「皇帝陛下、緊急のご連絡、申し訳ございません」


 辺境伯が隣で頭を下げている。ベルドも慌てて礼をとると、皇帝は「頭を上げろ」と二人に告げた。


「礼はいい。状況を」

「承知いたしました」


 辺境伯に請われ、ベルドは現在の状況を簡潔に伝えた。辺境伯からの依頼で瘴気溜まりを消したこと、その際力尽きた二人のうち一人が誘拐されたこと、それがランディアの元大聖女であること……などを。

 そして最後に彼はこう告げた。


「彼女たちは帝国民として民籍登録をしております」


 ベルドの情報に、皇帝も片眉をぴくりと動かす。そして一瞬考え込む仕草をしたが、すぐにベルドや辺境伯の方へと顔を向ける。その様子を見ていた辺境伯は室内にいた執事へメモを手渡してから、無言で皇帝の話の続きを待っていた。

 

「ふむ……大体の話はわかった。そうだな、ベルドは二人とともにミナ嬢を追ってくれ。必要なら『アレ』を使っても構わない」

「かしこまりました」

「ただ、彼女を救出するのはランディア王国に入った時にして欲しい。そうすれば、『帝国民を誘拐した』という瑕疵を相手に付けられるからな」


 ベルドは無言で頷く。


「浄化の腕輪は使用許可を出す。解決したら辺境伯へ返却するように。あとはベルドの裁量に任せよう」

「ありがとうございます」


 お礼を告げたベルドに、皇帝はウルとレアを追うように伝えた。

 ベルドは軽く礼をとってから、執務室を後にする。

 

 それと同時に入ってきたのは、先ほどメモで指示を出していた執事だ。彼は二枚の紙を手にしている。その紙が辺境伯の手元へと置かれると、彼は皇帝に見やすいように紙を持ち上げた。

 それを確認した皇帝は内容を確認する。


「ふむ、確か彼女たちは平民だったな。これは本名か」

「その可能性が高いかと」


 皇帝は顎に手を置いて、首を軽く縦に動かす。

 

「では、その書類を早急に帝都へ送れるか?」

「承知いたしました。ローレンツに持たせましょう」


 辺境伯の言葉に、皇帝は目を白黒させた。

 

「いいのか? お前の右腕だろう?」

「ええ、頭を抱えていた瘴気溜まりの件が解決しましたので、問題ございません。この件が最優先ですので」


 にこやかに告げる辺境伯に、皇帝は納得したようだ。

 

「では待っている」

「はっ」


 彼が礼をとると、映像が一瞬で消える。辺境伯は全ての魔道具の起動を止めると、扉にいた執事へと声をかけた。


「ローレンツを呼べ。至急だ」

「かしこまりました」


 辺境伯は執事が扉から出ていくのを見送ると、東側にある窓へと手を掛けた。


「聖女殿たちの未来に幸あれ」


 そう呟いた彼は、ローレンツが部屋に来るまで、しばらく窓の外を眺めていた。

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