42、浄化開始
四人は軽く役割を決める。
ミナとレアが陽動、そして隙を見てベルドとウルで泉の浄化を行うという話にまとまった。ただし、フェンリル自体が非常に強い魔物の上、身体も通常のものと比べると大きく、特殊個体の可能性があると言われた。
ミナとレアもこの魔物と戦うのは初めてなので、長期戦になる可能性も視野に入れなくてはならない。
役割が決まった後、まずレアが茂みから飛び出していく。
その音に反応したフェンリルは、すぐさまレアへと身体を向けて、彼女が振り上げた大剣を前足一本で受け止めた。その間にミナは相手に気づかれないように、魔法を構築していく。詠唱を利用し、丁寧に形作られたそれは地面を利用した拘束魔法。
無詠唱でも魔法の構築は可能だが、相手がフェンリルでは一瞬も持たないだろう、と判断したのだ。
構築が終わり、フェンリルの足元でそれを発動した瞬間……発動よりも早い動きでその場所から飛び上がり、魔法を回避する。
「チッ、素早いやつだな」
「ミナ、もう一度行こう!」
「ああ!」
ミナとレアはフェンリルと見合う。レアは身体ほどある大剣を振り回し、向かっていく。
その間に切先の部分から火が生まれ、その火は刀身全体へと伝播する。その勢いでレアはフェンリルの足を狙い、左から右へと大剣を動かした。しかし、フェンリルもやられるだけではない。レアが大剣で足を攻撃するのと同時に、彼女に向けて一度吠えた。
すると、足の間に竜巻のような風が舞い上がり……彼女の大剣とぶつかり合う。最初は拮抗していた力も、途中から勢いを増し、レアを後ろ後ろへと押し出していく。ミナも後ろから様々な魔法で攻撃を仕掛けるが、フェンリルによって相殺されてしまう。
苦戦する二人の様子を見て、早く浄化をする必要があると判断したベルドとウル。しかし、その考えもフェンリルにはお見通しだったらしい。
魔法によってレアを力で押し出し、彼女をミナがいるあたりにまで後退させると、先ほどとは比べ物にならない地鳴りのような咆哮を上げた。それと同時に、フェンリルの周囲から風が発生し……烈風となって真正面からぶつかってくる。
その風の強さに、ミナとレアは前を向くこともできない。その上、風に押されて留まることができず、徐々に後ろへと下がってしまう。ミナが防御魔法で防ごうと魔法を発動させるが、それも考慮してフェンリルは魔力をふんだんに込めたらしい。無詠唱の生半可な魔法ではすぐに防御魔法が壊れてしまった。
詠唱を唱えようにも、風が強すぎて身を守るのに精一杯。四人はそのまま強風を身に受け続けるしかなかった。
しばらくして風が落ち着き始めたのを察した四人が顔を上げる。すると、フェンリルは四人が手も足も出なかったことに満足をしたのか、まるでミナたちを馬鹿にするように鼻で笑っていた。
レアはそんな相手の様子に苛立ちながらも感情を抑え、冷静に対処しようと大剣を振り上げた。フェンリルは今やレアとミナだけを見ており、ベルドとウルは視界に入っていない。
二人は今のうちに泉の浄化を、と考えて泉のたもとで腕輪をかざそうとしたのだが……二人の前を何かが遮った。
「なっ!」
ベルドが焦った声を上げる。それと同時に金属と金属がぶつかるような音が、周囲に響き渡った。
ミナは対峙しているフェンリルを見ながら、ベルドとウルがいる場所を一瞥する。
――するとそこにいたのは、二体目のフェンリルだった。
「二体目のフェンリルだと?!」
「えっ!」
ミナの言葉にレアも驚いたように声を上げる。レアと打ち合っているフェンリルは、楽しそうに喉を鳴らした。相手のフェンリルはミナとレアという弱者を甚振るのが好き、と言わんばかりにレアの攻撃を軽々と受けては、弾き返している。
ミナは状況の悪さに思わず舌打ちをしていた。フェンリル一体であれば、長時間かかったとしても浄化を終えることができたであろうが……二体いるとなると話は別だ。
何か突破口はないか、と考えていたミナ。改めて攻撃の手を休めてフェンリルを観察する。すると、相手の身体から黒いものが立ちのぼったり、黒いものを吸収したりしているではないか。
ベルドとウルが戦っているフェンリルも確認するが、あちらのフェンリルも同様だ。つまり、この二体のフェンリルは……後ろにある瘴気溜まり発生したものであると判断した。
それならば、浄化の力で全て消し去ってしまえばいい!
ミナはベルドとウルに向けて大声で叫んだ。
「二人ともっ! その腕輪を貸してくれないか!」
最初はその言葉を聞いて目を丸くしていたベルドたちだったが、ミナの真剣な表情に圧倒されたのか……彼女の考えに賭けようと思ったのかはわからない。二人は視線を合わせると、まずはウルの腕輪を外すための時間を稼ぐために、ベルドがフェンリルに相対する。
ベルドは肘までの長さの剣を両手で使用する二刀流のようだ。持ち前の機動力でフェンリルよりも機敏に動き、相手の気を引いていた。そしてウルは腕輪を外し終えると、それを空高く上へと投げた後、ベルドと交代するようにフェンリルへと向かっていく。
ベルドはその瞬間に戦線離脱をし、ベルドの腕輪を手に取った。
そして攻撃をしつつ、二人の様子を窺っていたミナへと腕輪を渡す。
「僕はどうしたらいい?」
「こっちのフェンリルを止めてくれないか?」
「了解」
レアが後ろへ吹っ飛ばされるのと同時に、ベルドがフェンリルの視線を奪う。そしてウルとベルドがフェンリルと奮戦している間に、ミナとレアは腕輪を嵌めた。




