第201話 ダリア・コンフォート②
「それにしても意外だったな。急にどうしたんだよ?」
「べ、別にいいでしょ!私も社交界パーティに参加したいの」
「まぁ引き籠もっているよりはいいけど」
「とりあえず行くわ」
シップブリッジに到着した私とグレッグは宿を出て、社交界パーティ会場であるアドレーヌ様のお屋敷へ向かうために馬車に乗り込んだ。
この日のために急遽用意したパーティドレスは、サイズが小さいので胸のあたりがとても苦しい。イースト・パレスの公爵家令嬢としては少しセクシーなドレスだか、オーダーメイドを作るっている暇はなかったのだ。
私はなんとしても妖精と契約した男性に会って、話を聞かなければならない。
グレッグは社交性がスバ抜けており、ロイヤルクラスの生徒と良い関係を作っている。そのため一般には出回らない今回のパーティの情報もいち早く入手できたと自慢してきた。
私はグレッグを監視役としか見ていないため、距離を置くように接しているが今回は彼のコミュ力に感謝しよう。
やがてお屋敷に馬車が到着すると、貴賓室に案内された。
「お、お初にお目にかかります。イースト・パレスのコンフォート家のダリア・コンフォートと申します。この度はお招き頂きありがとうございます」
私は目の前でにこやかに微笑むアドレーヌ第一殿下に挨拶した。気品が漂うアドレーヌ殿下はまさにお姫様にという感じだ。
「ようこそいらっしゃいましたダリア嬢。ミルフィーユ王国の生活は慣れましたか?」
「ええ・・・ミルフィーユ王国の素晴らしさを実感しております」
「それは何よりです。クラスメートとして仲良くできればうれしいですわ」
「そう言って頂き光栄です・・・ところで」
妖精と契約した男性のことを聞こうとしたが、アドレーヌ殿下に他の参加者に話しかけたので諦めた。
・・・・・・・・・・
「本日はお集まり下さりありがとうございます。日頃から皆様にはミルフィーユ王国の為にご尽力下さり、感謝の念に堪えまえません。ささやかではございますが歓談の場を用意させて頂きましたので、楽しんで下されば幸いです。それではミルフィーユ王国の益々の繁栄を願いまして乾杯!」
「「「乾杯!」」」
アドレーヌ様の挨拶で始まった社交会パーティ。きらびやかな出席者がそれぞれ挨拶などを交わしている。
やはり人の多いところは苦手だ。また、胃が痛くなってきた。
グレッグはそのコミュ力を活かして、ご婦人方と交流している。それを私は隅の方で眺めていた。
完全に風景と化していると司会の紹介のあと、会場の扉が開き、男性のエスコートで飛び切りきれいな女性と女の子が入ってきた。
アリシアと紹介されたので、同じクラスメートのアリシア様だと検討がついたが、白竜族の兄弟と言われた二人は知らない。
黒髪黒目で、年上だろう男性はいかにも平凡な様子。人が良さそうな印象を受けるが、どうにも冴えない感じだ。しかし、私を驚かせたのは、彼の周りにたくさんの幼霊がいた事であった。
自分に適性があると言われてから、何故か幼霊がはっきり見えるようになった。普通の人でもまたに幼霊が付いていることもあるが、ワタルと紹介された男性の周りには眩しいくらいたくさんいた。
「きっとこの人だ。間違いない」
妖精と契約した男性を見つけた瞬間だった。
・・・・・・・・・・
さて、問題が発生した。
なんて話しかけいいか分からない。今までまともに男性と話したことがない(グレッグは対象外)私は、初対面の男性とコミュニケーションをとるすべを知らない。
「お友達になって下さい」と言えばいいのか?いやいやいきなり距離を詰めすぎだろう。
「いい天気ですね」か?・・・うーん今は夜だし無理がある。
「凄い幼霊が付いていますね」だったら?・・・本人が秘密にしていることだったら、一気に警戒されてしまうだろう。
わからん!
今まで読んできた本にはそんな事書いていなかった。今からコミュニケーションの本を読んでいる時間はない。
頭を抱えてうんうん唸っていると、側を通りかかった男性がヒントをくれた。
「アリシア様にカードを渡せば、後日返事が来るかもしれないぞ」
「まじか!早速列に並ぼうぜ!」
これだ!
アリシア様の隣にはワタル様がいる。なぜか並んでいる人を整理しているが、きっとカードを渡せば興味を持ってもらえるはずだ。
急いでカードを用意して、会場をウロウロしてみる。ある程度人が少なくなったタイミングで話しかけた。
「あの・・・すみません」
私の顔を見てキョトンしたワタル様。
どうやらアリシア様と仲良くなりたい女の子と勘違いされてしまったようだ。
このままではいけない!
きっとこれがラストチャンスだと奮起して、印象に残るような言葉を探した。
「わ、私はあなたに興味があります!お返事お待ちしております!」
言った!言ってやった!凄いぞ私!
その瞬間、アリシア様やユキナール様が鋭い視線を向けたような気がしたが、それよりもワタル様の返事を聞くのが怖くてその場を逃げ出した。
そのまま宿に帰り、少し冷静になってみる。
果たして・・・私がやった行動はプロポーズではないだろうか?アリシア様やユキナール様にはたくさんの人が並んでいた。それは挨拶というより、求婚するための人だった。
あまりワタル様に興味を持った人は居なかったので、カードを渡した私は非常に目立っていたと思う。
なんにせよワタル様に顔を覚えてもらった事は良いことだ。そう思うことにした。
数日後
毎日、ワタル様のことを考えて悶々と過ごしていると学園の宿舎の部屋に手紙が届いた。何故か封蝋がミルフィーユ王家のものなので、ビビってしまった。
手紙をしばらく眺めていた後に恐る恐る開封してみる。
「お、終わった・・・」
「あなたなんか興味はありません!二度と近寄らないでください!私は妖精に愛されているのでモテモテなのです!それとすでに心に決めた人もいます。今後ちょっかいを出すと風の精霊エアロ様と木の精霊ドリュアス様と白龍族が怒りだし、海は枯れ、大地は裂け、とんでもない不幸があなたを襲うでしょう!へへへ・・・ホホホ・・・」
まさに地獄に突き落とされた気分だ。
私はワタル様に嫌われるどころか、怒りを買ってしまった。このままでは話をするどころか、殺されてしまうかもしれない。
ああ・・・どうやらミルフィーユ王国にきても私の運命は変えられないようだ。
・・・だったらいっそのこと
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