第199話 最強のフラグ製造機
「もう!なんで朝起こしているくれなかったのよ!」
「その女は誰なの?全く目を離すとすぐに浮気するだから!」
「ふん!別に心配しているわけじゃないんだからね!」
「・・・・・・・・誰?」
騎士学科の次に魔法学科の建物に入ろうとした俺たちの前に3人の女の子が立ち塞がった。
ピンクの髪を後ろでまとめた人族の後ろに犬の獣人と耳の長いエルフと思われる女の子が腕を組んで、プンプン起こりながら俺に説教している。
うーん・・・多分、隣住んでいる幼馴染という設定だな。毎朝、主人公の家に突撃して起こしにくる女の子の設定だろう。
いくら幼馴染とはいえ、現実には起こり得ない事象を再現している。
「はいはい集合して下さい」
「な、何よ!?」
さすがに無理がある設定なので、俺は軽く説教をすることにした。
「いいか君たち。ある程度の前段がないと幼馴染という設定は生きてこないんだ。主人公が昔好きだったけど、引っ越しで離ればなれになったとか、モテモテだけど誰とも付き合わない女の子が何故か冴えない主人公を好きだとか。そういう事が無いと読者の興味はひけないぞ」
「な、何よ!偉そうに!」
「つまりだ!設定を練り直してから出直してこい!やり直し!」
「バカーー!!アホーー!!リア充爆発しろーー!!」
最後は悪態を付いて去っていく女の子たち。
「ヤベ・・・何故かアドバイスしてしまった・・・」
「分かったわワタル!私は昔戦場で生き別れた幼馴染の設定にするわ!ワタルとは時が経って敵として再会するの。そして敵であるワタルは私に討伐されてしまうの」
「討伐するな!それはバトルものの王道だ!」
「なるほど・・・ワタルは猫耳を付けて朝起こしに行けばいいのだな。参考になるな」
「アリシア、色々混ざってるわ!」
なんだか疲れてきたので、魔法学科を見たら解散しよう。
そんな事を思いながら魔法学科の建物を見て回っていると、魔法を練習している声が聞こえてきた。
近寄ってみると、何人かの生徒が的に向かって魔法を飛ばしている光景が見えてきた。
「いいですか!魔法とは己の魔力を回路に注ぎ込み、発動しなければなりません。その回路は人それぞれですが、キチンとしたイメージと呪文を正確に言って下さいね」
魔法使い特有の短めのローブを身に着けた生徒に、先生がレクチャーしている。
「悠久なる風の導きに従い、我はここに風の刃を発動せん!敵を穿て!ウィンドカッター!」
シュバ!
一人の生徒から魔法が放たれて的にぶつかった。ぶつかった的は特殊な加工がされているのか、軽く揺れる程度であったが、初めてまともに魔法を見たような気がする。
「おいウェンディ!ちゃんとした呪文があるじゃないか!?」
「妖精と契約していない人族はあんなふうに魔法を使うのよ。あなたとは違うわ」
「俺も呪文唱えてみようかな?」
「やめなさい!ワタルの魔法は適当に言っているだけでしょ!聞いていてムズムズするわ!」
「あの呪文と何が違うんだよ?イメージを固められれば何でも良いんだろ?」
「あれは高名な魔法使いが考えたものだ。キチンと教科書に乗っている。ワタルが適当に魔法を使ったら生徒が混乱してしまうからやめてくれ」
「うーん。アリシアがそう言うじゃ仕方ないな」
「なんでアリシアの言うことは聞くのよ!」
俺はウェンディやユキナと契約して初めて魔法が使える。それは契約妖精が回路を肩代わりしてくれるからだ。
火や水を出すことができるのは、幼霊たちに俺の魔力をあげてお願いしているに過ぎないので、厳密には魔法と呼べないかもしれない。
「いった!」
そんな事を話していると、一人の生徒が額を抑えてうずくまっているのに気付いた。
どうやら土魔法の石礫が額に当たってしまったようだ。
「あらあら大変!結構血が出ているわね!誰か医務室にいってポーションを取ってきてくれないかしら?」
生徒の様子を見ていた先生が他の生徒に声をかけた。
「大丈夫?すぐ直してあげるからじっとしてて」
「・・・あなたは・・・」
「おい!ユキナ!」
いつの間にか生徒の側に立っていたユキナは、優しく微笑みながら男子生徒の前髪を上げた。
突然目の前に現れた美少女に、男子生徒はぼーっと見とれている。
フー
優しい吐息が生徒の顔に当たると同時に、白く輝き、あっという間に傷を治してしまった。
「うん!これで治ったよ!これで血を拭いてね」
「・・・はい」
ユキナからハンカチを受け取った生徒は、ずっと去りゆくユキナを見つめていた。
「エヘヘ・・・ワタルお兄ちゃん凄い?」
「あ、ああ・・・ユキナは優しいな」
またこれで騒ぎになってしまうけれど、良い行いをしたユキナの頭を撫ででやる。
「・・・落ちたわね」
「あれで惚れない男子はいないですね」
「はぁまたお見合いの申し込みが増えてしまうわ」
最強のフラグ製造機はユキナではないだろうか?
目がハートになって骨抜きになっている生徒を見てため息をついた。
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