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激痛の呪い

 先程までアカネの優勢は決定的だった。しかし数回の攻防ではあるがアカネはまるで相手にならず、自分の思い通りにいかない現状にニヤニヤしながら不満を現していた。



「は、はは....辞めてよ委員長ぉ〜、折角良い気分だったのに〜。なんでこうイライラさせるのぉ〜?だからイジメられちゃったんじゃないのぉ〜?少しは空気読もうよぉ〜!」



 口角は上がっているが、鼻血を垂れ流して血走った目をしているアカネ。バッと立ち上がると今ある魔力を使い、現時点の最高速でサチコへ接近し、最高の力でサチコの腹を殴ろうとする。

 凄まじい速度と力だが、素人丸出し攻撃の軌道はサチコにとってお見通し。内側に避けると、全魔力を左拳に込め、カウンターでアカネを殴った。


 アカネの勢いの方が勝っている影響でサチコの拳は弾かれる。しかし対する力がぶつかった影響でサチコの左拳には確かな手応えがあった。

 それを証明するようにアカネの身体は宙に逆回転しながら舞い、そのまま床へ激突。


 左拳がジンジンと痛み、手首を振って痛みを和らげながら顔面血塗れで倒れているアカネを見る。



「空気読まずって言うのは自覚してますよ。現に色んな人を注意したら避けられてイジメられましたから。でもそれはいけないこと?違いますよね?ルールを破ったから指摘した迄。結局イジメてる側が言う理論なんてただの聞くに耐えない言い訳でしか無いんですよ。」

「うぅ....なんで...こんな事するのぉ〜....このままじゃ私は....嫌だ!そんなの嫌だよぉ〜!私は....私は友達なんだぁ!委員長みたいなのは嫌ァァァァァァァァァ!!!」



 涙をポロポロと流しながらアカネは叫ぶ。更に魔力が練られ、彼女の緑色の髪と目が更に色濃くなっていく。まるで谷底が見えない断崖絶壁を覗いているような感覚をサチコは感じる。



「な、何を....一体何がそこまで貴女を駆り立てて...」

「もういい!!もういいや委員長ぉ!!私の救済を拒むならもういい!!死んじゃえ!!もう死んじゃってよぉぉぉぉ!!」



 アカネの身体が魔力が溢れ、大量の煙が放たれた。まるで津波のように部屋の端から端まで伝わり、サチコらの下半身の位置まであっという間に煙が満たされる。

 部屋の端にいたバドー達は煙を吸ってはいないが時間の問題、アカネの魔力が上昇する度に煙の量が増え、徐々に体積を増やしていく。


 バドーらの事を考えてサチコは焦るが、その隙にアカネは急接近。また丸分かりな攻撃を放つ。しかし軌道は読めても今回は身体能力は桁外れに高くなっているため、避けることが出来なかった。

 すかさず両手ガードをとるが、そんな防御は気持ち程度の効力。アカネの拳はサチコの両手事、身体をくの字に曲げさせ、吹っ飛ばす。


 血反吐を吐きながら飛んだサチコは一気に部屋端の機械にぶつかり身体をめり込ませる。高い魔力で身体能力向上しているサチコだから耐えたが、常人ならこの一発で絶命だ。


 血を吐いてグッタリする余裕もなく、アカネは鬼の形相で突進してくる。サチコはすぐに身体起こし、頭から突っ込んでくるアカネを何とかして躱す。するとアカネはケープに惑わされた興奮した闘牛のようにすぐに旋回し、サチコに向かって突進する。


 サチコは構え、彼女が接近するのと同時に足払いをした。アカネの身体は宙に浮くが、着地した瞬間弾丸のように再び接近。サチコは何とか力を受け流そうと手を伸ばすが、その手をアカネは両腕で振り払い、両拳で殴り掛かる。

 サチコは何とか避けたり流すが、今のアカネ身体能力はサチコの技量では対処出来ない程であった。次第に攻撃が当たり、逆にサチコの攻撃はクッション製の玩具の如く衝撃は伝わるがてんでダメージには伝わっていなかった。



 ――ま、不味い!もう私の技術じゃ対処が!それにどんどん煙が増えていくし、これ以上動くと煙の波でバドー君達が!....バドー君達が外の人達みたいに?嫌だ...そんなの嫌だ!

 い、一か八か...もうこれしか!



 サチコは覚悟を決め、防御を解除。逆に身体を前に出して爪を立てて攻撃をする。二人の両手はお互いの肩に突き刺さり、その瞬間サチコとアカネは自分の魔法を送り合った。


 時間が無い上このままジリ貧でやられるより、まだ体力がある内に魔法勝負にかけたサチコ。アカネは魔法を使用すればするほど悲しみは薄れて快楽に覚える為魔力上昇は止まり、その隙にサチコは自分の魔力をどうにかして上げて逆転しようとしていた。

 

 しかしそれは余りに無謀で勝算のない夢物語でしかない。それはサチコもよく分かっていた。

 魔力を送りあった瞬間、サチコの身体に異変が生じる。強烈な快楽が自分を襲い、気持ち良いを超えて吐き気を催す気持ち悪さへと変換。サチコは涎をダラダラ垂らしながら項垂れ、身体から力が抜け始めた。


 サチコの送っていた呪いの魔法も薄れ、怒りに満ちていたアカネの表情は柔らかくなった。



「あはははは!!委員長ぉ〜、あんたの魔法全っ然効かないけど大丈夫そぉ〜!?苦しい?苦しいよね!?私の救済を拒むからだ!私の謝罪を受けなかったから苦しいんだよぉ〜!?」

「な....何そ...れ....結局...貴女は私を....都合良く....扱いたいだ....けじゃないですか。」

「は?....はぁぁぁぁぁぁ!!??そんなわけないって何回言えばいいのぉぉぉぉ!!??もう駄目だねあんた!!さっさと死ねっ!!」



 アカネの魔法に段々侵されていくサチコ。顔色も悪くなり、ガタガタと身体も痙攣し始める。せめてもの抵抗であった呪いの魔法も殆ど流せず、ただ一方的に苦しめられていた。



 ――あぁ...もう駄目....なんで私こんな無謀な事しちゃったんだろ?まだ接近戦を粘ってれば突破口もあったかもしれないのに....最後にはやっぱ私の恨みが上だって証明したかったのかな?....色んな人に助けられて、守られて、期待されたのに何一つ恩返し出来なかった。...やっぱ私ってダメ人間なんだ....



 自分の死期を悟り、心の中で自分を蔑み、仲間に何度も謝罪をしていたサチコ。膝の力が抜け、身体が今にも重力に引っ張られそうなその時、唐突にコキッと首を鳴らしたアカネはボーッと天井を見つめ、そしてサチコの耳元で話しかける。



「...あんたが死んだら灰色の十字架(グレークロス)の奴ら全員殺してあげるわ。ロア、ラーズ、ステア、エンス、バルガード、リーヤ、バドー、ノトレム。皆殺しよ。ついでにナルテミ村にいる無駄に乳がデカいあのシスター、シアラもね。あんたが仲良くなったら奴らの臓物であんたの墓を着飾ってやるわ。」



 凍りついてしまうような冷徹な彼女の言葉はサチコの脳内で響く。そして同時に想像する。皆の笑顔がアカネによって切り裂かれ、無惨に殺される光景。訪れるかもしれない未来を想像し、サチコは固まった。



「.......ん〜?あれ〜?それって誰のことだっけぇ〜?」

「...け........な....」

「え?なになに〜?もう一度言ってみてよ委員長ぉ〜?遺言でしょ〜?ちゃんと聞いてあげるよ〜。」

「ふざ...けるな!ふざけるなふざけるなふざけるな!!これ以上!!私を...私を荒らすなぁぁぁ!!」



 頭の血管がプチッと切れた音が脳内に響き、じわ〜と熱が額に拡がる。眉間に皺を寄せ、鋭い目つきでアカネを睨みつけ、それと同時に魔力が爆発的に上昇する。身体にも生気が蘇り、代わりにドス黒い感情と魔力に包まれ、アカネに送る。



「私の心を荒らすな!私の身体を荒らすな!!私の希望を荒らすなぁぁ!!ただ気に食わないとか面白そうとかで破壊していいものじゃない!!貴女達はただ少し気が強いだけの人!!神になった気になるなぁァァァ!!!」

「何必死になってんのぉ〜?もう諦めよぉ〜?私にあんたの魔法は通じ.......何?...ちょっと....」



 異変を感じとったアカネは言葉を途切り、少し眉を顰めて自分に刺さっているサチコの両手を見る。そして少し時間が経つと、アカネの眉間が更に寄る。



「痛ッッッッッッッ!!痛いっ!な、なんで...快楽にか、変わ...痛っいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」



 汗が噴き出し、涙をボロボロ流して苦しむアカネ。すぐに両手をサチコの身体から引き抜き、サチコの手を外そうとする。しかしビクともしない。まるで銅像のように硬く、全力を入れても動かすことができなかった。



「な、なんッ!ッッたい!!ほ、本当に痛い!!ぜ、全身が痛い!!大きな針が内側から刺さってる....みたいに!!痛いッ!!」

「...あの時の私がどれ程苦しんで...どれ程痛い目をあってきたか...手を下してた人には分かりませんよね?実際受けて無いですもんね?...その上、貴女は私が傷付けても快楽で気持ちいいだなんて....有り得ないから。

 だから貴女は....快楽以上の地獄の痛みに一秒でも長く味わってから死ね。

 ....激痛の呪い(ヘルペイン)。」



 真っ黒な漆黒の瞳、激痛によってシラフに戻っているアカネは彼女の瞳を見てゾクッと恐怖を感じた。しかしその恐怖は一瞬しか感じることは無かった。

 すぐに彼女の身体を激痛が襲ったからであった。恐怖とか悲しみなどを考える暇さえ与えない激痛の嵐にただアカネはその激痛を感じるしか無かった。


 イメージ的にはミシンのような針が高速で刺したり抜いたりするのが内側から行われ、それが全身に拡がっている感覚。全身の余すことなく激痛の信号が送られ、次第にアカネの身体に異常が現れた。

 全身の毛穴から血と体液が溢れ、皮膚が水を抜いた土地のようにヒビが入って割れ、身体中が内出血かのように青紫に変換していく。



「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!」



 痛いという単語さえ吐けない。そんな余裕すらない。決して慣れない至上の激痛にアカネは苦しむ。そしてそんな極限状態だからなのか、彼女の頭には走馬灯が浮かぶ。

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