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青春してる奴らと眺めるだけの奴  作者: 奈宮伊呂波
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第21話『思い切りの良さ』

 十月三十一日、その放課後にいつものように森ノ宮駅にいた。窓から入る夕焼けが眩しかった。

 俺がいつも通りなのに対し世間――というか高校生達は平常時と違ってどこか浮ついていた。

 電車の中だというのに小悪魔の格好をした女子や最近人気のキャラに扮した男子、その他諸々仮装している人が多数いた。


「なんで今日に塾あるかなー」


 はあ、と溜め息を吐いたのは暁美ちゃんだった。他の高校生とは違って奇抜な格好ではなく、普段と変わらない明るめな色を基調としたおしゃれな服で身を包んでいる。外し忘れたのか頭には猫耳が付いてある。誰か言ってあげろよ。

 足元を見れば大きな布袋が置かれている。おそらく衣装が入っている。


「別によくない?」


 優凛ちゃんも普段と変わらない落ち着いた服装をしている。足元には暁美ちゃんと同じ大きさの布袋が置かれていた。


「文化祭の打ち上げ行きたかったんよ」

「あー打ち上げね」

「そうそう」

「あれ、いる?」


 嫌味のように優凛ちゃんは言った。

 あれってクラスの一部しか楽しくないからな。俺は好きだったけど。


「優凛はそう思うよな」


 いるでしょ! と熱弁が始まると思ったが暁美ちゃんの反応は思ったより冷たかった。

 さっき言っていた通り、彼女達の所属している高校で今日は文化祭があったらしい。その打ち上げに行くはずが、塾のせいで行けなかったというわけだ。


「なんか刺がある言い方」


 ほっぺでも膨らんでそうだ。本人的には「打ち上げなんかいらないと思ってる人間」と思われるのは面白くないらしい。優凛ちゃんから突っかかったんだけどな。


「まあまあ。そんで大島には言ったの?」


 優凛ちゃんが黙る。目線を暁美ちゃんから逸らしたせいで耳に引っ掛かっていた髪がサラサラと流れ落ちる。


「まだ何も言ってない」


 ここで溜め息。あの溜め息は気疲れからではなく、呆れてものも言えないという感じだ。


「まじかよ。大島も坂元も何してんだ……」

「え?」

「や、なんでもない」


 察するに暁美ちゃんは知っている。優凛ちゃんとその想い人が両想いだということを。


「何で言わなかったの? 二人きりになってたよね?」


 ただ質問しているだけなのに、少し問い詰めているような言い方だった。


「なったけど大島くんの携帯に電話来てそれで別れた」

「相手は?」

「坂元」

「ほんとに何やってんだ……」

「『――が腹痛で倒れたから大島くんに代役頼む』って言われたらしい」

「だから大島が出てたのね」


 文化祭の出し物に出る予定だった人が倒れた(?)から大島くんが代わりになったらしい。これ言ってたことそのままだな。

 誰が倒れたかまでは聞き取れなかった。


「暁美見てたんだ」

「当たり前、優凛が姫役やるんだから見ないわけにいかないでしょ。友達もみんな『優凛可愛いー』って言ってた」

「ふーん。あっそ、ほんとに?」


 素っ気ない言葉だが、優凛ちゃんは目線を逸らし髪の毛をくるくると触っている。照れた様子がわかりやすい。

 わざわざ本当かどうか確認するのは興味があることを示している。


「ごめん間違えた」

「間違えた?」


 暁美ちゃんのふざけた言い方に優凛ちゃんの語気が荒れる。


「本当は『優凛ちゃん可愛いー』だった」

「なんか変わった?」

「ちゃんが付いた」

「どっちでもいい」

「まあね」


 馬鹿馬鹿しくなったのか優凛ちゃんは適当に答えた。


「それで、大島くんどうすんの?」

「遊びに誘った」

「おおお! すごいじゃん! 思い切ったねー」


 優凛ちゃん、やる時はやる子なんだ。


「どうもどうも」

「いつ?」

「再来週の日曜日」

「いいじゃん! また私プロデュースで行く?」

「ううん。今度は自分で行く」

「おっけー。頑張れよー」

「頑張りまーす」


 優凛ちゃんは堂々と恋愛相談をしているが恥ずかしくはないのか? 俺が子供の頃は好きな子がいても誰にも相談なんかできなかった。そのせいで行き遅れそうになったよな。

 最近の高校生はそんなもんなんだろうか。いや、これは最近だとかではなく俺に問題があったんだろう。


「どこ行くかは決めてる?」

「まだ。少なくとも私の中では何も決まってない」


 大島くんも男だし多少はリードしたいとかいう気持ちはあるのかな。優凛ちゃんが大島くんに「頼りになる人」を期待してるかはわからんが。


「まー大島もどうせ決めてないし二人で決めればいいよ」

「そうする」

「ちなみに優凛はどこがいいとかあんの?」

「特には。でもお金がたくさんかかるところじゃなくてもいい」

「なんで?」

「私達が稼いだお金じゃないし」


 ふむふむと暁美ちゃんが携帯を操作した。話の途中に急に別のことをするもんだから優凛ちゃんは困惑している。


「暁美?」


 呼ばれてから少しして、暁美ちゃんは携帯をしまった。


「ごめんごめん。いいんじゃない、優凛らしくて」

「あ、うん」


 優凛ちゃんは曖昧に返事をした。

 にしても中学三年の時と比べてだいぶ丸くなったというか、優しくなったというか。感情が豊かになったと思う。暁美ちゃんの影響だろうか。


 劇的な出来事はなく、それでもここじゃないどこかでは毎日信じられない事が起き続けている。

 そして、時は緩やかに流れていく。

ここまで読んでくださり誠にありがとうございます!

明日の更新で最終回となります。ちょっとしたどんでん返しを意識して書きました。

最後までよろしくお願いします!

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