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青春してる奴らと眺めるだけの奴  作者: 奈宮伊呂波
14/22

第14話『意外な交友』

 空は快晴が続き、今日だって雲ひとつない。本当にオゾン層で守られているのか疑わしいぐらいの太陽光が人々に襲いかかる。

 電車の中には熱射により火照った体を冷やすためにプールへ訪れる人がちらほらいる。子供は半袖半パンにサンダルだし、大人は靴を履いていて子供ほどではないにしろ薄着である。

 外でも中でも、汗をかいている人がいて、それに太陽光が反射して眩しい。


 そんなわけで夏だ。

 冬になると陰謀論が頭を巡るが、こうして暑さを体験するとやはり地球温暖化は進んでいるのだと再認識させられる。

 だって絶対昔より暑くなってる。


 もちろん、プールに行く人意外にも多種多様な格好をした人がいる。スーツもいるし、後は……薄着の人しかいない。夏だし。お洒落するにもどうしても涼しい格好になってしまう。

 ここには薄着とスーツしかいないのだが、なぜプールの行く薄着の人を紹介したかと言えばこれは簡単。


 俺が贔屓にしている彼女達が受験を忘れて今日はプールへ行くらしいのだ。


「――てか岡崎さんほんとに来たんだ」

「あー俺も意外だわ」

「いやいや俺は来ると思ってた」

「嘘つけ」

「まーまーいいじゃん」


 しかし彼女達は二人で向かうのではなく、他にも男子を侍らせていた。その数五人。彼らは二人の反対側の座席を陣取っていた。

 受験生なこともあり五人の中に髪を染めているものはいなかった。それでも佇まいや服装から滲み出るオーラが地味な人々のそれとは一線を画している。華があるというかなんというか。目立っている


「ちょっと男子ー」

「意外とか失礼だぞー」

「謝れ!」

「あーでも私ちょっとわかるわー」

「美奈、口悪ーい」

「いじめ? いじめ?」

「男子まじないわー」

「謝れ!」


 当然、優凛ちゃんが茶髪と男子五人とでプールに行くはずがなく、他にも女の子はいた。その数四人。内二人は男子五人の横に座り、もう二人は優凛ちゃん達の横に座っている。七人座席を有効に活用しているみたいでその点は感心。

 一人過激派がいるようだが、女子の方も受験生の意識があるのか髪を染めている者はいない。まあそもそも中学生で染めている方がおかしいのだけど。

 女の子は男の子よりも美意識が高いのか、薄着ではあるがアクセサリや化粧など外見には気を使っているようだ。化粧ってプール入ったら落ちるんじゃないの?


「……なんか皆テンション高くない?」

「プールだからねー。上がってるのさー」

「いや、にしても高すぎるというか。いつもはあんな馬鹿っぽい口調じゃないし」

「それも含めて」

「ふーん。でも暁美はいつも通りだね」


 口ぶりから察するに、茶髪はともかく、優凛ちゃんは案外他の女の子四人とも仲がいいみたいだ。程度は知らないが「いつも」と言えるのだからきっと悪くは無いはずだ。

 それと、茶髪の名前は暁美らしい。


「あたしはあれだよ! 優凛を見守らないといけないから」

「逆でしょ」

「実際はどっちでもいいとして、あたしは優凛から離れないようにしたげる。一人にしちゃうと何するか分からないからね」

「人を子供みたいに」


 不満そうではあるが前見た時よりもかなり仲良くなってる。クール系だと思っていた優凛ちゃんは表情豊かだし、茶髪改め暁美ちゃんにも心を開いているように感じる。

 他にも乗客はいるのに彼ら彼女らはまるで自分たち以外の人なんていないかのように話し続けている。今時マナーが悪い人に向かって堂々と注意する人間なんていないもんだから、止まる気配はない。この車内で一番年上であろう、若いサラリーマンと一緒にいる定年間近のスーツ姿の爺さんも何かを言うつもりはないらしい。

 優凛ちゃんはできるだけ距離を取るようにして、できるだけ同級生達の方を見ないようにしている。

 「どうせ言ってもわからない」と、諦めて他人のフリをしていた。


「てかさプール久々だよね」

「ねー、一年ぶり」

「お前ら何言ってんの? 学校で入ったじゃん」

「あれはプールじゃない」

「違う」

「じゃ何?」

「プールじゃない別の何か」

「なんだそれ」

「いやだって楽しくないし」

「えー俺らみんなで鬼ごっこしたじゃん」

「あれは楽しいけどさ、やっぱ授業となるとどうしてもやらされてる感が出てさ」


 彼女がそう感じるのも仕方がない。学校のプールは授業のため、友達と行くプールは遊びのためと明確に目的が違う。彼女にとってのプールが「遊び」の為でしかないのなら学校の「授業」の為のプールはもはやプールではない。

 どう考えてもどっちもブールだけど。


「そんなことより俺は早くプール入りてえ」

「あ、俺も俺も!」

「やっぱみんなそうか。俺も早く行きたい」

「そう。早くプールに行って、女の子が見たい!」

「欲望全開だなお前ら……」


 五人中一人はまだ平静を保っているみたいだ。

 まあしかし、男子学生の頭の中なんてピンクなことでいっぱいな訳で、実の所は五人中五人が興奮気味なはずだ。


「おいこらたーき。なーにいい子ぶってんだよ」

「そーだずりーぞ」

「そりゃダメだぜたーき」

「訂正しろたーき」


 平静ぶっているたーき君に他の男子は自分だけよく見られようとするたーきの姑息な思惑に不満を漏らす。たーき自身にそんな気持ちはないかもしれないが十中八九、深層心理では体面を気にしている。

 俺だってそうだった。


「なんかごめん」

「謝って欲しいんじゃない! 言い直してほしいんだ!」

「おい、とし!」


 一人がそう言うと真ん中に座ってる少年に視線が集まる。おそらくそいつが「とし」だ。

 するととしは重く真面目な口調でこう呟いた。


「……そんなことより俺は早くプール入りてえ」


それを聞いたとしの右に座っていた少年が続いた。


「あ、俺も俺も」


 さらにそれに続き、他の少年たちも続く。


「やっぱそうか。俺も早く行きたい」

「そう。早くプールに行って女の子が、女の子が見たい」


 次はたーきの番、と男子四人が視線を送る。自然、他の人の聞き耳もたーきに集まる。


「……俺も――」

「はいはい。たーき虐めて遊んでないの」

「おぃーっす」

「ちっ、これで終わると思うなよ」

「次に会う時が貴様の最後だ」


 見かねた女子一人が呆れた様子で男四人を宥めた。

 というか、君達割とオタクっぽいこと言うんだ。


 それから、女子は女子、男子は男子で、時には性別の境界を越え談笑しているとまもなくして中学三年生の集団は立ち上がった。

 駅名は新今宮。確か、この当たりにあるプールは日本最大級の都市型スパとかいう触れ込みのプールだったか。勿論、行ったことがないから実際、どれぐらいのものかは知らないが。


「――私、水着恥ずかしいんだけど」

「大丈夫! あたしが選んだんだから間違いないって! 絶対みんな可愛いって言うから!」


 微かにそんなやり取りが耳に入った。

 優凛ちゃんは自分の水着を持っていなかったのだろうか。母親に買ってもらえばいいと思うけど。もしくは、それすら叶わないほど母娘の仲は冷えきっているのだろうか。前にいた時は一言も会話が無かったし、それもありえる。

 しかし、若いってのはそれだけで得である。体力面はあるし、世間的に見ても縛るものは大人よりも少ないだろう。

 例えば今のやり取りを四十代のおばさん同士の会話と使用。それだけでもう俺は許せない。想像しただけで拳に力が入ってしまう。


 楽しげな学生達はいなくなり残ったのは俺だけとなった。他の乗客を除けば。

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