第41話 神官、魔王討伐隊に加わる
――『南の空が燃えた……魔王が――魔王が復活したのじゃ!』
年老いた先代国王の謎の予言をきっかけに、オルティスの王宮に冒険者たちが集められた。
国王の命により、『魔王討伐隊』が組まれることになったのだ。
そしてその中に、イグナシオとマキシマスさん、そしてわたしは立っていた。
(魔王って、あのバルザリオン? だよね?)
エイヴェリー祭の神話劇を思い出す。女神の恋人を討伐するなんて、天罰が下るのではと不安しかない。
そもそも、魔王が何かしたわけでもないのに、討伐する必要があるのだろうか――
そんなことを考えていると、髭をくるんとさせた国王さまがひとつ咳払いをした。
傍らに立つ側近のような人が豪華な巻紙を開いて読み上げる。
「ええと、次は――『チーム・アグネス』の神官イグナシオと神官見習いアグネス。そして、教会本部所属の神官マキシマスは前へ」
(嘘でしょ……イグナシオ、まだ変えてなかったの?)
顔が熱い。
『チーム・アグネス』――それは、わたしたちが旅を始めてまもなく付けたパーティ名だったはずだ。恥ずかしすぎて顔が上げられない。
隣を窺い見ると、イグナシオは涼しい顔で立っている。
恐る恐る顔を前に向けると、側近らしき人と目が合ってしまった。
「私は侍従官のルーベンと申します。ええと……アグネス殿は、エルフ王家の血を引くそうですね?」
「はぁっ?!」
(エルフ王家って、なに?)
わたしの知らない間に、デタラメな噂が本格的になっていたようだ。恐ろしい。
エルフ王家って、どこのエルフ王家なのだろうか。
「いや、わたしは孤児のハーフエルフでして……」
「色々とご事情があられるのでしょうが、我が国の近衛騎士団から三名の護衛騎士をお付けいたします」
「私が守るので必要ありません」
進み出たイグナシオに、侍従官は少しだけ困った顔をした。
「王女殿下に何かあっては、国際問題に発展しますので、何卒ご了承ください」と言った侍従官に促されて、まだ若い騎士たちが三人現れた。
「いや……国際問題に巻き込まれたくないので、やめてください」
「「王命により、アグネス王女殿下をお守りいたします」」
(わたし、王女さまじゃないんですけど)
若い騎士たちの輝く瞳に、沸き上がる疲労感と罪悪感。
「アグネス王女殿下、我らに何なりとお申し付けください」
「その……『王女殿下』って、やめてもらって良いですか? わたしハーフエルフだし、王女じゃないので」
「………」
三人の騎士は顔を見合わせると、何やらひそひそと会議を始めた。
「では――アグネス姫様で」
この騎士たち、人の話を全く聞いていない。
「あの〜、侍従官さん。ちなみにですけど、わたしがエルフの姫だっていうのは、どこ情報ですか?」
そう問い掛けると、侍従官は澄ました顔で片眼鏡の位置を整えた。
「リベラのスタンピードを消した『竜殺し』が、エルフの姫君を守っている。王都も王宮も、その話題で持ち切りですよ」
「つまり……単なるウワサってことですか?」
口を結んだ侍従官はゴホンと咳払いをした。
この国、大丈夫だろうか。色々不安だ。
「竜殺し殿、この旅で貴方を見極めさせていただきます」
「はぁ……お好きにどうぞ」
何やら意気込んでいるマキシマスさん。
一方、イグナシオは騎士たちを見てピリついている。
旅のことを考えると、今から憂鬱だ。
「次は――『銀の風』の風使いエラルド」
(あっ、エラルドさんだ……あんまり強くないのに大丈夫なのかな)
わたしの心配をよそに、エラルドさんはわたしとイグナシオをチラリと見やると、自信満々と言った様子で進み出て優雅に一礼した。さすがエラルドさんだ。
「銀の森の精霊使いのエラルドです。……どうやら、純血のエルフは私だけのようですね。女神エイヴェリーの血を引く一族の者として、助力して差し上げますよ」
相変わらず鼻に付く物言いだが、エラルドさんだから仕方がない。
この勢いで『その半端物はエルフの王女ではありませんよ!』とか言ってくれないだろうか――
「エラルド殿でしたね。……姫君に対し、あまりに無礼ではありませんか?」
護衛騎士の一人がそう言った。
今だ! エラルド、言い返してくれ!
「えっ? ……姫君?」
「アグネス姫は、エルフ王国の王女殿下でしょう?」
(エルフ王国とかあるんだ……)
けれど、エラルドさんも『初耳です』と言わんばかりに呆然とした顔をしている。言い返してはくれなさそうだ。
「あの……エルフ王国とは……?」
エラルドさんが、心底不思議そうにそう口にした。
どうやら、『エルフ王国』は護衛騎士が勝手に建国したらしい。エイヴェリー信者は変わり者しかいないのだろうか。
「いや、あのですね。エラルドさんは悪くないですよ。わたしはそもそもエルフのお姫様じゃないので――」
「なんとお優しい……さすがは女神エイヴェリー様の尊い血を受け継ぐエルフの姫君――」
(もう、いいや……)
長くなりそうなので、途中から聞くのをやめた。
誰もわたしの話を聞いちゃいない。
「女神エイヴェリー様の尊い血を受け継がれるアグネス姫様をお守りできる栄誉に、心からの感謝を」
腰を深々と折った護衛騎士の一人は、中々のエイヴェリー狂信者のようだ。
マキシマスさんは、目を見開いて(同志よ!)という視線を騎士に向けている。どうりで、既視感があったはずだ。
「アグネス様を守るのは、この私ですからね」
護衛騎士たちを牽制するように微笑むイグナシオ。目が本気だ。
エラルドさんは、いつの間にか空気になっている。
ああ、『魔王討伐隊』……一体どうなるのだろうか――




