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12話 「アストラ」との邂逅


 週末の昼下がり。空は再び蓮の手を借りて、完璧な「そらぽん」へと変身した。


「何度も厄介事を頼んで、すみません」


 空が蓮にそう言うと、蓮は、


「僕に寄ってくるのは女の子ばかりで、昔から男友達が少なくてね。だから、君に頼られるのは嬉しいよ」

 と笑った。


 こんな人気者に自分がシンパシーを感じるだなんて変だと思う。

 でも空は、蓮と自分に、なにか共通の痛みを感じた。


 だからだろうか。今思うと、消極的な空がなんでこんな事を言ったのか自分でもわからない。

 しかし空は、思わずこう言っていた。


「も、もし良かったら、今俺がやってるゲーム一緒に遊びませんか!」


 空は口に出してから、大人気のファッションモデルに、こんな提案恐れ多いのでは……と少し後悔した。


 しかし蓮の反応は意外なものだった。


「いいね。一緒に遊ぼうよ。やり方と君のアカウント教えて?」


 大学でこれといった友人のいない空に、友人が出来た記念すべき瞬間だった。


 *****


「そらぽん」は、待ち合わせ場所の柱の影に隠れるように縮こまっていた。

 今日のコーデは蓮が「完璧」と言ったやつだ。

 淡いベージュのロングカーディガンに、白のキャミワンピ。足元は細めのストラップサンダル。

 前回と同じウィッグだが、今回は軽く巻いてある。

 メイクは蓮の力作で、今日は「清楚系美人」に仕上げてきた、そうだ。


「そらぽん」の格好で外に出るのは二度目だが、多分何度経験しても慣れないのではないかと思う。


(変な目で見られてないだろうか)


 しかし、周囲の視線は明らかに(あの子可愛いな)というニュアンスを帯びている。

 蓮の仕事は相変わらず完璧で、客観的に見ても「そらぽん」としての自分はかなりの美人の部類に入ると思う。

 メイクが完成した時、鏡に映る自分の姿にドキっとしたくらいだ。

 同時に、普段の姿と落差がありすぎて、複雑な気分にもなる。


「お姉さん、誰か待ってるんですか?」


 知らない男が、声をかけてきた。


「え、えっと……」


 年齢的にも、口調的にも、アストラには見えない。

 もしかしてこれは、ナンパ、というやつなのだろうか。

 パニックになりながらも、なんとか「友人と待ち合わせなので」と断る。


「アストラくん、早く来ないかな……」

 この姿で一人だと落ち着かないから、早く来てほしい。

 一方で、不安の種は付きない。アストラに正体がバレないか。アストラはどんな少年なのか。


(アストラくんは、どんなつもりで来るんだろう)


「そらぽん」への気持ちは、純粋な憧れなのだろうか。それとも。

 少しでも異性への期待を抱かせていたらどうしよう。そう考えると空の胸が締め付けられる。

 しかし、この「そらぽん」という虚像を守り通すことが、今の空にとっての最低限の誠意でもあった。


 待ち合わせ場所のモニュメントの下で、空が「アストラ」を待っていると──。


 突然、広場全体が騒然となった。


「え、マジ!?」 「あれ、誰!? 何かの撮影!?」


 ざわめきが空の耳にも届き、空は何事かと人だかりの方向へ視線を向けた。


 ──そこに立っていたのは、まるで照明を当てられたかのように輝く、美しい少女だった。


 黒髪のロングヘアが風になびき、透き通るような白い肌と、完璧に整った顔立ち。

 国民的美少女コンテストなら文句なしのグランプリ、

 国民的アイドルグループなら不動のセンター間違いなしの、誰もが振り返る美貌。

 彼女の存在だけで、周囲の風景が全てモノクロに見えるほどの強烈なオーラを放っていた。


 空は思わず、その美少女に目を奪われた。


(すごい…モデルの蓮さんとはまた違う、まるで妖精みたいだ)


 見たことない顔だけど、アイドルなのだろうか。

 すると、その美少女が、人混みを避け、真っ直ぐに空が立っているモニュメントへと向かってくるではないか。


 美少女は空の目の前で立ち止まると、少しはにかんだように微笑んだ。


「そらぽん。ごめん、待たせた?」


 一瞬、空は何が起こっているのか理解できなかった。

「そらぽん」と自分を呼んだ声は、声色こそ違うものの、どこかで聞いたことがあるような懐かしい響き。


「え…あ、あなたは…?」


「ふふ、驚いた?」美少女はくすりと笑い、いたずらっぽい表情でこう言った。


「俺だよ。アストラ」


 空はしばしフリーズし、そして、頭の中で、ようやく回路が繋がった。

「アストラ」の中身は、高校生の少年ではなく、この少女だということを。


(えーーーーー!?)


 美少女は、空の手をそっと取り、自分の指先に触れさせた。

 空の華奢な手とは違い、美少女の指先は、僅かに硬く、タコができていた。


「毎日兄のお下がりのギターを練習してるから、指先がちょっと硬いの。ほらね?」


 さほど背の高くない彼女は、上目遣いで空を見た。


「私、本名は『美月』って言うんだ」


 少女──美月──は言う。

「中学までは、男子に混ざってサッカーやってたけど、男子の体の成長に追いつけなくて辞めちゃって」


 それは、紛れもなく、ゲーム内で「アストラ」が語っていた事だった。

 空は呆然としたまま、言葉を失った。

 目の前の絶世の美少女と「アストラ」が、同一人物だということに、まだ頭がついていかない。


 美月は、空の反応を気にすることなく、静かに続けた。


「オフ会に来たそらぽんが、女の人だって聞いて、嬉しかった」


「私が女だって知っても、動揺しないかなって。……それで、私もリアルで会いたくなったの」


 ふと、空は自分と美月が広場の注目を浴びていることに気づいた。

 客観的に見ればそらぽんである空は美女だし、美月は誰と比べても劣ることのない美少女である。

 そんな二人が、広場の中で手を握って見つめ合っている。


(……百合?)

(尊い……)


 周囲から、そんな声が漏れ聞こえてくる。


 そんな視線に美月も気づく。


「ねえ、落ち着いたところで話しよっか。今日はデートだね」


「で、デート!?」空の声が裏返る。


「そう、デート。だって、私たち結婚相手でしょ?」


 そう言って美月はいたずらっぽく笑う。その笑顔は、ゲーム内のアストラのものと確かに一緒だった。


リアル都合により、今日と明日ちょっと変則的な時間の投稿になると思います。

(話は完成済みなので毎日投稿ペースは崩れない予定です)


今後人間関係が大きく動き、MMORPGらしい展開も増えていきます。

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