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13話 「今日はデートだね!」


 広場の喧騒を背に、二人は手を繋いだまま歩き出した。

美月は自然に空の隣に並び、時折顔を上げて微笑む。

そのたびに周囲の視線が集まるけれど、もう気にならない。

だって、隣にいるのはゲームで何百時間も一緒に過ごした相棒──アストラ──なのだから。


「そらぽん、こっちこっち!」


 美月が指差す先は、ゲームを再現したリアルイベント会場だった。

巨大なモンスターの着ぐるみが歩き回り、プレイヤーが実際に剣を振るうアトラクションもある。


「うわ、すごい……リアル始まりの丘だ」


 空は思わず呟いた。青い空、草原の香りまで再現されている。美月がくすくす笑う。


「ねえ、二人でモンスター倒そうよ!」


 アトラクションの簡易剣を手に、美月が先陣を切る。

まるでゲームの中の「アストラ」そのままだ。空は慌てて後を追い、ヒール役のポーズで応援する。


「エクストラヒール!」


「ナイス! これなら俺、無敵だぜ!」


 周りの客が笑いながら拍手してくれる。二人は顔を見合わせて、子供のようにはしゃいだ。


 ──まるで、ずっと前からリアルでも友達だったみたいだ。


 遊園地のような会場を一通り回り終えると、夕暮れが近づいていた。

美月が提案したのは、駅近くの小さな喫茶店。

レトロな内装で、窓際の席に座ると、外の街灯が優しく灯り始める。


 温かい紅茶が運ばれてきて、二人きりの時間が訪れた。

美月はカップを両手で包み、ふっと息を吐いた。


「……私が女だって隠してた理由、ちゃんと話したいんだ」


 静かな声だった。でも、その瞳は真っ直ぐ空を見つめている。


「昔、私が使ってたキャラ……。知ってる? 『ルナ』って」


 空の心臓が、どきりと跳ねた。


「あの、伝説のギルドマスターだったっていう……」


「うん。私がルナだった」


 美月は小さく微笑んだ。でも、その笑顔はどこか儚い。


 衝撃の事実。でも、思ったより驚いていない自分がいる。

みんなが夢中になるほどの絶世の美少女。

「ルナ」のイメージに、目の前の美月が、ぴったりと重なった。


「中学生の頃、オープンにしてたんだ。ちょっとギャグっぽい感じで、『可愛い女子中学生がギルマスやってます!』って」


「最初は面白がられて、すぐに人が集まって……気づいたら、シルバームーンは最強ギルドになってた」


 全土統一。伝説の美少女ギルドマスター。

ギルドチャットで聞いた、あの話の当事者。それが、アストラであり、美月であったんだ。


「みんな、最初はおふざけ半分だったと思うんだ。女子中学生がギルマスだって、本気で信じてる人も半分半分だったと思う」


「それでも、みんなごっこ遊びの延長で、私を姫みたいに扱ってたんだ」


「でも、オフ会で、私が本当に『可愛い』ってみんな騒ぎ出して……そこから、狂ったみたいになった」


 美月の声が、少し震える。


「ギルドメンバーが、私を巡って争い始めた。リアルでもストーカーされて、学校にまで来る人もいた」


「家族にも迷惑かけて……引っ越しまでした」


 空は言葉を失った。ゲームの向こうに、そんな重い過去があったなんて。


「だから、もう二度と素性を明かさないって決めた。ルナは削除したことにして……」


「でも、運営さんが『エピキュクルスの、文化遺産だから』って、休眠アカウントとして残してくれてる」


「私だけが、アクセスできる」


 美月はカップを置いて、ゆっくりと空の手を握った。


「そらぽんは……知ってる? 私がなんで、またオフ会に行こうと思ったか」


 その指先は、ギターの練習でできたタコが少し硬い。でも、温かかった。


「そらぽんが、女の人だって聞いたから」


「私、トラウマだったんだ。自分の見た目で人が寄ってくるのが怖くて……」


「でも、そらぽんは違うって、どこかで信じてた。だって、ゲームの中で、どんなときも優しかったもん」


 美月は少し照れくさそうに笑った。


「どこにでもいる普通の男の子キャラを使ってたら、みんな私に目もくれなかった」


「でも、そらぽんだけは……いつも、ちゃんと見てくれた」


 空の目が熱くなる。


(俺は……ただ、相棒が好きだっただけなのに)


「だから、そらぽんが女の人だって知って……嬉しかった。同じだったんだって思って」


 美月は、空の手をぎゅっと握りしめた。


「ねえ、そらぽん」


 瞳が潤んでいる。でも、笑顔だった。


「これからも……一緒にいてくれる?」


 空は、震える声で答えた。


「……うん」


 それは、嘘偽りのない、本当の気持ちだった。


 窓の外では、街灯が優しく灯り始めていた。二人の紅茶は、まだ温かかった。


「続きはまた明日ね──。ゲームでも、現実でも」


 美月が、そう言って笑った。


アストラ=ルナというのはもっと強く匂わせるべきか悩みましたが

結局今の「ギルドチャットでルナの話題をアストラがなんとなく嫌がっている」

という形になりました。

もし女装男子×少年を期待していた方がいた時の事を考えると

アストラの中身が女の子というのはタイトルでネタバレしようかとも悩みましたが

伏せておいたほうが面白いんじゃないかなと自分の好みでこういう展開になりました。

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