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 あいつはそれまでに自転車の当り屋を何度も成功させてきた。類は友を呼ぶ? 当たり屋の知り合いも多くいるそうだ。その仲間が言うには、弁護士の無料相談があり、そこからの入れ知恵で裁判をした方が損をしないと教えられるという。

 簡易裁判の次は保険屋の登場だよ。自転車保険に入っていなくても、住宅保険のオプションで保険が効くそうだ。あいつは保険屋に話を通したから後はそっちと話をしてくれなんて言う。もしもそれで納得いかないなら、裁判をしましょう。その時はこっちも慰謝料請求しますから。妻も手首が痛いと言ってますし、弁護士の話では自転車同士の事故はどんなに言いがかりをつけてもどっちもどっちだそうです。五対五、慰謝料の折半なんて意味がないでしょ? どうします? 保険屋に任せますか? なんて言いやがるんだよ。

 その話は俺の耳にも届いていた。彼女の旦那はかなり興奮していた。そりゃぁそうだろ? 自転車事故で慰謝料を請求される。腹が立って興奮するのが普通だ。俺だったらきっと、殴り込んで脅迫して逆に慰謝料ふんだくっておしまいだけどな。

 保険だと病院から家までのタクシー代も貰えるんですかね?

 あいつの言葉だよ。何言ってやがる。タクシー? それって俺の事か?

 昼少し前に、俺は帰ろうかと立ち上がった。その時だよ。あいつの携帯がもう一度なったんだ。彼女の旦那とは違う番号。

 来たな! 保険屋の登場だよ。畜生! これで儲けは減っちまった。まぁいいか? 続けていればこういう事もある。また次に慰謝料ぼったくればいいってだけだ。

 保険屋からの電話で、あいつは一時間も一方的に文句を言い続けていた。何言ってやがるんだって感じだよ。嘘ばかり並べやがって。よくも飽きずに話が続けられるよ。おかげで帰る時間が遅れちまった。呆れた奴だぜ。あいつだけでなく、そんな話を聞き続けていた俺もな。

 その間保険屋は軽い相槌を打っていただけ、わざとあいつに話をさせていた。好き放題疲れるまで愚痴を聞く、それが保険屋の仕事だ。その後から冷静に、事故の状況、金の話を始める。

 あいつの言葉は滅茶苦茶で楽しかった。俺としては全くの他人事だからな。けれど保険屋からしてみれば大変な一時間だったろうな。いくら仕事とはいえ、あいつの愚痴を真に受けるのは苦痛の他ならない。

 手が痛くて服も脱げないんだ! 風呂にも入れねぇしな! どうしろってんだ! 歯を磨くのも左手だけなんだぞ! いつもは俺が自炊して母親にも食べさせてる。それがなんだ! 今は誰が作るってんだ! 左手だけじゃ料理なんて出来ねぇんだよ! 冷凍食品? スーパーの惣菜? そんなで母親が満足すると思ってるのか? 食器を洗うのも俺だしな。痛くて洗えねって事くらい分かるだろ? だから大変なんだよ。これからしばらく外食なんだよ。金がいくらあっても足りやしねぇ。勿論その分も保障してくれるんだろうな? それからあれだ、病院から歩いて家まで帰ったんだけどな、その時受けた俺の精神的苦痛も保障してくれるんだろうな?

 最後の言葉には笑うしかなかったね。大嘘だからじゃねぇよ。精神的苦痛って!

 その他にもあいつはベラベラ喋っていたけど、全てを覚えてなんていねぇしよ。覚えていても全部を話せば一時間以上だ。楽しくも退屈な話だよ。俺の喋りが下手クソってのもあるしな。

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