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 あいつは必死に戦った。三対一、どう考えても不利だ。あいつは四方から飛んでくるパンチと蹴りに四苦八苦だ。それでも諦めずに抵抗する。あいつは何者だ? 囲まれた経験があるんだろうな、きっと。慣れている。そんな風にさえ感じられた。あいつは他の二人を無視する。そいつだけを狙い、そいつだけに攻撃していた。

 なんなんだよ! コイツッ! 気持ち悪ぃんだよ!

 そいつの声は悲鳴に近かったな。いつの間にかそいつの顔も痣だらけ、口からは血が流れていた。

 おいおい、どうなってんだ。全然くたばらねぇじゃねかよ!

 こっちが疲れちまった。

 そいつの仲間がゴネ出した。パンチや蹴りに力がなくなる。そうなればあいつの出番だ。あいつはそんなチャンスを逃さない。そいつに向けて猛攻撃だ。胸座を掴んだ勢いのままに、地面に押し倒す。そして跨り、マウントポジション。殴り放題だ。そいつの口からは大量の血が噴き出し、鼻は曲がり、鼻からも血が噴き出す。目は腫れ上がり、瞼が切れている。負け試合のボクサーよりも酷い顔だ。

 ヤべェぞ!

 そんな言葉を吐き、そいつの仲間が逃げ出した。可哀想な事に、そいつは置いてけ堀だ。仲間だなんていっても、繋がりが薄い。助けようなんて気もない。警察や他の仲間を呼ぼうなんて考えもない。自分だけが助かればそれでいい。もっとも、警察なんて呼べば捕まっちまう。悪いのはそいつらだ。あいつは被害者だからな。ただほんの少し、やり過ぎた。他の仲間を呼ぼうにも、きっとそいつらに仲間なんていない。もしいるのなら、初めから集めていた筈だ。

 俺はその後、そいつの仲間を見かけた。その街で、その日の内に。二人はさっきの出来事なんてなかったかのようにゲーセンで遊んでいた。楽しそうな笑顔を見せて。若い女をナンパしている姿も見かけた。

 そいつの仲間が逃げだしてからも、あいつは手を止めない。というか、仲間が逃げた事になんて気付いてもいないし、気にしてもいなかった。

 どうしたもんかと悩んだよ。警察を呼ぶ気にはなれない。信頼出来ない奴を呼ぼうなんて考えるだけ無駄ってもんだろ? けれどそのまま放って置けば、そいつは死んじまう。本気でそう感じた。

 そんな時だ。あいつの手が止まった。疲れたんだろうな。ゼェゼェ息を切らせていた。汗を拭い、空を見上げた。そして立ち上がり、ふらふらと歩き出す。

 あいつはゆっくり何処かへ消えて行った。俺はもう後を追いかけようとはしない。けれど不思議なものだ。その後俺は、その日のうちに二度、あいつと出会っているんだからな。

 あいつがいなくなり、俺は倒れているそいつに近付いた。

 うぅ・・・・

 そいつは俺に潤だ瞳を向け、呻いていた。

 災難だったな。

 俺はそう言い、そいつに唾を吐きかけた。その時のそいつの顔、傑作だったな。あれ程までに怯えている人間を見るのは初めてだった。

 しかしあれだな。最近の若いのは金を持ってる。なんだかよく分からねぇブランドの財布の中に、俺の三倍は入っていた。俺は有り難く頂戴した。後で知ったんだが、その財布も高価なものらしい。捨てちまわなけりゃよかった。まぁ、その金でその日は楽しませて貰った。どんなお楽しみかなんて聞くだけ野暮ってもんだ。

 そいつがその後どうなったのかは知らねぇ。テレビや新聞で話題になってなかったみたいだから、死んではなかったんだろうな。まぁ、どうでもいい事だ。興味もねぇだろ?

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