表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/31

偵察と視察

 菊川と村長たちによる村人の説得が行われるよりも前。

 白悠と防衛衆の面々は村の視察を行っていた。

 村の地形や食料以外の備蓄物資、協力してもらう村の狩人たちの弓矢の状況等、必要と思われるものを確認していく。食料に関しては村長が把握しているらしく、確認しなくてよいと新之丞から言われていた。

 現在、白悠は新之丞と二人で山道から続く、村唯一の人の出入り口と、山道を挟むようにして広がる棚田の確認を行っていた。

 白悠がこの世界にきたのは12月。それから約半年が経過した為今は6月の筈だ。しかし、田畑にはもうすぐ収穫できそうな程稲穂が実っていた。稲穂の収穫は9月~10月の筈である。その事実に今更ながら日本とこの世界には時間のズレがあるかもしれないという事を思い至らせた。

 

 (もしくは気候の違いかな?)


 白悠は頭を振ると目の前に迫っている問題に集中することにした。この尾荷根の集落は山を切り拓かれて作られた村である事から村に至るまでの道が厳しく、また村自体も高台の切り立った場所にある。籠城を行うという点において非常に優れた地形といえた。白悠が防衛を提案したのも、そういった観点からでもある。

 この籠城の準備を行うにあたって嬉しい誤算があった。正吾と風丸に村を拠点とした籠城戦の経験があったのだ。

 二人は村で菊川の元から白悠が戻って説得が成功した事を告げると大喜びするとともに、過去の経験から手伝いを申し出てくれたのだ。異形相手の籠城は初めてだが、と言っていたのがすごい気になった。

 この村の視察も経験者の正吾と風丸、作戦提案者の白悠が主体となって手分けして行っている。

 そして悪い誤算が一つあった。それは貴族の菊川が、そういった戦略的な知識が無かった事である。作戦提案者としてそれなりに頑張ろうと思っていたが、白悠も籠城戦の知識についてそれほどある訳ではない。アニメや漫画、ゲームで知っているだけの最低限とすら呼べないような知識だけである。白悠としては貴族である菊川ならば、戦略的な知識についても持っているだろうと漠然と考えていたのだ。貴族である菊川の指揮のもと、準備を行えば問題も無いと考えていたのだが、菊川にはそういった知識がまさかの皆無であった。

 その結果、籠城の準備は白悠、正吾、風丸の三人を責任者とした形で行われていた。今白悠に新之丞が同行しているのは一番の新参者である白悠が指揮を執るという状況に不安を感じた新之丞の申し出によるものである。この申し出は白悠にとっては非常にありがたかった。

 白悠はこの集落に到着した時も見た光景を改めて見渡す。

 まず山道を見る。

 山道は馬車一台が少し余裕をもって通れるほどの広さがあるが、馬車二台がすれ違える程の広さはない。昨日見た異形の大きさからすると二体、ギリギリで三体が並走出来る程の広さがある。本来ならばこの山道に障害物等を設置しておきたいところだ。しかし、

 

 (この道は菊川様と新之丞さんに馬で駆け抜けてもらう事になる。細工は出来ない。)


 その為、ほんとうに手を加えるべき場所、棚田に視線を向ける。

 今この棚田には本来ならもう少し後の時期に収穫されるべき稲穂が実っている。だがこの棚田を足止め用と罠として使いたい事と、少しでも籠城用の食料がほしいと考えた白悠は、村人たちにこの稲穂を収穫してもらおうと考えていた。

 当然ながら村人たちの反発が予想された為、菊川と村長に村人たちの説得を依頼してある。予定では今くらいの時間に村人たちへの説明と説得をおこなっている筈である。

 白悠はその場で四つん這いになると、右手の人差し指を立ててゆっくりと畑の泥へと指を沈みこませていった。白悠の右手はゆっくりと沈んでゆき、右手の手首の手前辺りで沈まなくなる。深さとしては20cmに届かないくらいだ。

 思ったよりも深さが無い事、そして泥の反発が強かった事に白悠は思わず顔を顰める。そしてゆっくりと立ち上がる。

 

 「どうかしたのか?」


 白悠の表情に気付いた新之丞が問いかけてくる。


 「思ったよりも深さがなかったのと土の反発が予想よりも強かったで、このままでは足止めとしては心もとないと思いまして。」


 白悠は懐から取り出した手ぬぐいで右手を拭きながら、村の中央広場へと歩き出す。正吾の班と風丸の班とそこで合流する手筈となっていた。

 

 「稲穂を収穫後に私の五行で泥の深さと反発を調整しようかと思います。ただ私一人では数に限りがあるので、防衛衆の皆や村人たちに手伝ってもらう事になると思います。」


 「分かった。しかし棚田をいじるとなると村人たちも大きく反発しそうだな。早期の収穫でさえ、反発が予想されるというのに。」


 本来ならこういった下準備を行った後に村人たちに説明を行うべきだ。しかし時間が無いという事で村人たちへの説明と村の状況の確認を同時進行することになった。


 (絶対後から問題が起きて面倒な事になるよな。)


 背に腹は代えられないとはいえ、白悠はこれから起こるであろう問題に内心で愚痴をこぼす。

 

 「菊川様の方は上手くいってますかねぇ?」

 「分からん。あの人も大勢の前で話す経験等はこれまでなかっただろうからな。菊川様なら問題ないとは思うのだが…」


 新之丞と会話をしながら中央広場へと二人で向かっていると、大勢の人間が話をしているような喧騒が聞こえてきた。

 思わず白悠と新之丞は顔を見合わせる。

 中央広場に近づくに従って、その喧騒の内容はよりはっきりと内容が聞こえるようになってきた。大勢の人間がだれかに詰め寄っている事が、聞こえてきた声の内容から予想できる。

 曲がり角を曲がるとそこには村長に詰め寄る村人たちと、呆れたような表情を浮かべた馬上の人、菊川がいた。

 

 (逃げよう。)


 元々村人たちへの説明と説得は菊川と村長の役目だ。自分達の役目ではない。そう思って白悠は踵を返そうとした。

 だが、白悠と新之丞に気付いた菊川が手招きをしているのが見えてしまった。

 思わずため息を吐きながら、白悠と新之丞は手招きをしている菊川の元に向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ