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フライングチート

「るんたった、るんたった、クルクル~♪」

「リシェルさま、鼻歌交じりで踊られて、随分とごきげんでいらっしゃいますね」

「あら、ルルベルじゃない」


 超ご機嫌な私に声を掛けてきたのは、後輩女神のルルベルだった。


「主神さまよりエスター○級の魔王討伐を命じられ、あれほど落ち込んでいらっしゃいましたから、とても心配して……はっ! まさか錯乱のあまりに現実逃避のへっぽこダンスに身を興じていたとか!?」

「おいこら、なんつった?」

「うぅ……お労しやリシェルさま。でもご安心ください、喩えリシェルさまに何があっても、女神次官の地位は私がしっかりと守りますから」

「こ、この……」


 先輩をさりげなくディスりながらその地位も狙って来やがるとか、見た目に似合わず飛んだ腹黒ね。

 はぁ……とは言え、ルルベルの言った事も半分は正解なのよね。

 あれは一週間前の事だったわ……


「なーに、物語のヒロインみたいに昔語りをしようとしてるんですか、リシェルさま」

「うぉい! 私の心勝手に読んでじゃないわよ!」

「だってすでに私が話したじゃ無いですか。主神さまよりエ○ターク級の魔王討伐を命じられたって」

「あー、また勝手に! うぅうぅ……そ、そうよ! あれは一ヶ月前のことよ主神バーレルドさまからエス○ーク級の魔王ゾアクリムゾンの討伐命令を下されたのよ! しかも人選も全て勇者選定も全部私に丸投げしてくれやがって!!」


「……ワンブレスでしっかりと自分語りしましたね。リシェルさまってほんと負けず嫌い」

「うっさい!」


 そうよ、そのせいでここ一ヶ月、私は天界キャ○ジンを常用しながら、胃痛と闘う日々だったのよ。

 でも、昨日……そうよ、昨日ついに見付けたわ。

 魔王をケチョンケチョンのボッコボコにしてくれる最強勇者を!


「これを見なさいルルベル!」

「……ずいぶんとぽっちゃりとした方ですね。おおよそ勇者感は感じられないかと」

「おバカ! ステータスよ、ステータス! それによく見てよ、確かに小太りかも知れないけど顔のパーツパーツだって十分すぎるほど整ってるじゃ無い!」

「ま、まぁ、痩せられたら、確かに宗○さまに似ているような……」

「この二次オタ娘……」

「って、何ですか、このステータス!? 転移前にほぼほぼ全てカンストしてるじゃないですか! え、え? しかもこんな身体能力なのに礼節も知性も凄い! 脳筋ゴリラって訳じゃ無いのね……」


 人が見付けた勇者さまに対して好き勝手言ってくれる。


「リシェルさま、この方に痩せて頂いて、この衣装を!」


 そう言ってルルベルが取り出した和服、と言うにはド派手な衣装。

 はぁ……先輩女神としては、二次元沼にドップリはまり続けられるよりもう少し救うべき人間に目を向けて欲しいところだから、コスプレだとしても三次元(2.5次元か?)に目を向けてくれるのは構わないけど……


「駄目よ、彼は力士。日の本の国でSUMOUを究めたMaster YOKOZUNA何だから。しかも無敗! ざっくり千五百年は続くその歴史の中で唯一無敗の男なのよ!」

「……先輩のデブ専」

「やかましいわね! 私は彼を見た瞬間にビビッと来たの。彼なら間違いなく最悪を滅ぼし、異界に平和をもたらすに違いないって! ええ、彼ならきっとやってくれるわ! 私には一目で分かったわよ! だからね、早速だけどもうチートまで授けたんだから!」

「……へ?」

「あ、一言言っておくけど、その能力はチート前の基礎能力よ! 勘違いしちゃだめよ!」

「や、えっと……リシェルさま?」

「はぁあぁぁぁ、異世界を蹂躙するYOKOZUKA! どんな無双っぷりを発揮してくれるのかしら、魔王にうっちゃり!? いやいや、幻と言われる櫓投げ《やぐらなげ》!? いえいえ、あの天才横綱を送るのよ、もっと幻の撞木反り《しゅもくぞり》かしら!?」

「リシェルさま、さりげなく相撲オタっぷりを出してますけど……」

「いやぁ~ん、ハァハァ、そして魔王討伐の証しには異世界を救った横綱(よこづな)と女神の、大人の相撲で組んずほぐれつ……あらん限りの四十八手を、ぐふふ……」

「おーい、そこの度し難い淫乱女神」

「ふぁっ!? って、何よ、だ、誰が度し難い淫乱女神よ!」

「己じゃ……って、そんな事よりもですよ」

「あによ」

「リシェルさま、いま、私の聞き間違いじゃ無ければすでにチートを授けたって言いましたよね」

「そうよ、それが何よ?」

「一応聞いておきますけど、それってどんなチートです?」

「えっとぉ、そうそう気が付かない鋼の肉体と無限に成長する肉体、かな?」

「……」

「まぁ、チートって言っても常識の範囲じゃ無い?」

「駄目だ……この女神、ただのゴリゴリ好きだった……」

「な、何よ、後輩のくせに好きかってに言ってくれちゃって!」

「……元からこんなハイスペックな人間なのに、地球に居る間にそんなフライングチートしちゃって、どうするんですか! 地球ですでに無敵モードになっちゃいますよ!!」

「へ?」


 ルルベルの指摘に、流れ落ちる冷たい汗。

 ふと地上世界を女神ック・アイで見ると、私のYOKOZUNAさまが馬鹿でかいトレーラーヘッドに合掌捻りをぶちかました所だった……


「あちゃ~……どうするんですか? 精神力も知性も元から高いから天界への召喚だって効かないですし、頑丈すぎて死に送りだって出来ませんよ。って言うか、すでに地球からサ○ヤ人みたいな馬鹿でかい気を感じるんですけど!?」

「……あ、慌てないの、大丈夫よルルベル」

「リシェルさま、何か思い付いてるんですか?」

「だ、大丈夫にき、きまってるじゃない」


 ……どうしよう?

 私は地球にとんでもない怪物を産みだしてしまった事を、今更ながらに実感したのである。

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