行く道2
日森よしの先生によるコミック版32話②が公開されました!
魔物討伐隊遠征編もいよいよ終わりのただいまの回です。
https://comic-walker.com/detail/KC_002143_S/episodes/KC_0021430004000021_E?episodeType=first
俺たちは荷台から降り、足を伸ばす。道具はある程度分けて持っているが、もちろん大がかりな野営道具はない。各自が携行した包みを敷物代わりに広げての雑魚寝。
女性がいる、というところに申し訳なさがなくもないが、リケはドワーフの風習で、リディはエルフと言えど出歩くときがないわけではないらしい。
まあ、実際うちに住む前にもうちまで来ていたわけだし。
ヘレンは言わずもがな元傭兵である。
「だいぶ良いほう」
今の状態を見ての彼女の感想はこれだったので、俺が前の世界の感覚を引き継ぎすぎているんだろうな。
フランツさんはというと、サッと準備を終えると、すぐに馬のもとへ向かっていた。
脚を順に撫でて熱や傷を確かめ、水を与える。飼い葉はあまり積んでいないらしく、大体は現地調達――実際に今ここのあたりには馬が食べきれないほどの食事がある――だそうだ。
いつも良いところがあるわけではないので、多少は積んでいるらしいが、あくまでも緊急用と言って良い代物だそうで、フランツさんは馬が落ち着いて食べ始めるのを見届けてから、車輪と車軸をしゃがんで確認したりしていた。
その間、ヘレンが野営地の周囲を一巡りしてきていた。草陰や低い茂み、街道へ戻る道筋までを確かめ、戻ってくる。
「人が隠れそうな場所はないな。新しい足跡も見当たらなかった」
「助かる」
「まだ夕方だからな。寝る前にもう一度見てくる」
リディは野営地の中央で目を閉じてじっとしていた。しばらくしてから、そっと俺に告げる。
「ここでは特に異常は感じません。ただ、まだ遠いですからね」
「ここはちょっと食事して寝るだけの場所だし、取りあえず問題なさそうならそれで良いよ」
俺が言うとリディは頷いた。
設営が落ち着くと、俺は携行した鍋を火にかけた。水へ細かく裂いた干し肉を入れ、硬いパンを砕いて加える。最後に少量の香草をちぎって放り込むと、湯気と一緒に馴染みのある匂いが立つ。
家で大鍋に作った食事とは比べようもないが、俺たち4人とフランツさんの腹を満たせればそれで良かろう。
馬の世話を終えたフランツさんが火の傍へ加わる。
「すみません、助かります」
「大したものじゃないですけどね」
「いえいえ、我々は行く道の途中でこういうものはあまり食べられませんから」
フランツさんは椀を受け取り、静かに汁を口へ運んだ。
食後、火が小さく安定したところで、ヘレンが立ったまま俺たちを見回した。
「夜番を決めるぞ。フランツは明日も御者だから寝てもらう。馬を動かすのは、ここから先もフランツの仕事だ」
「助かります」
「リケも同じだ。明日の坑道じゃ、灯りと採取を頼む。睡眠優先だ」
「うん、分かった」
「深夜まではアタイが見る。明け方前をリディ。エイゾウは出発前に起きて、火の始末と馬の様子見を頼む」
「俺でいいのか」
「アタイが一番長く起きてる。リディには周りを確かめてもらうのもある。エイゾウは火を扱えるし、朝の準備も慣れてるだろ」
「なるほど。分かった」
均等な時間割ではないが、ヘレンが役割と消耗を考えた分担であるということか。
こうして夜の番も決まった後、リケが火を見つめながら言った。
「実家の工房で聞いた話ですが、水が出る坑道では、足元が急に崩れることがあります。濡れた地面は見た目より滑りますし、灯りも濡らさないよう、火口の扱いは気をつけないといけませんね」
「灯りは俺も気にしておく」
「はい、親方。採取のときも、まず足場を先に見ます」
焚き火がぱちりと鳴る。
その火を眺めていると、〝黒の森〟に残してきた皆の顔が浮かんだ。ディアナ、アンネ、サーミャ。そしてクルル、ルーシー、ハヤテ、マリベル。
今頃は、いつもの家で夕食を終えている頃だろう。
フランツさんとリケは馬車の幌のそばで休息に入り、見張りの一番手であるヘレンが火の傍に立った。
夜の気配を感じながら、これからの番が控えている俺は眠りについた。




