一路北へ
俺たちは静かに森を行く。先頭はヘレンだ。もうすっかり勝手知ったる〝黒の森〟とはなったが、警戒は必要だしな。
一応森の入り口までは他の皆もついていこうかと言ってくれた(特にサーミャには大きなアドバンテージがあるし)のだが、これも予習みたいなものだから、と断ったのである。
ヘレンの後ろにはリディ、リケが続き、俺が殿を務める。
各自が背負った最小限の荷が、規則正しい音を立てていた。
〝黒の森〟の中は平和そのもので、こうやってみるとピクニックに適している、のどかな良いところですよ、と言われても信じてしまいそうだ。
だが、実際には危険な場所であることには変わりない。この森の獣たちは賢いがゆえ、強い相手――俺もらしいが、今は主にヘレンだ――には手を出してこないだけである。
何事もなく、カミロからの手紙にあった合流地点である〝黒の森〟の入り口近くまで来たところで、全員足を止める。
その先へは俺が1人で様子を窺いに出た。
茂みから顔だけを出し、キョロキョロと見回す。
幸いにも街道には誰もいなかったが、もし目撃していたら相当変人に見えていたことだろう。
何事もリスクと引き換えだ。
少しの間、街道の様子を見ていると、荷を高く積み上げた荷馬車がやって来た。
御者台には1人の男の姿がある。その姿に俺は見覚えがあったので、茂みから出て手を振った。
「フランツさん!」
御者台にいたのは、かつて帝国に行ったときに御者として同行していたフランツさんだった。
フランツさんは俺に気がつくと、一瞬周囲を見回してから大きく手を振り返してくれた。
「エイゾウさーん!」
馬車はすぐに俺の近くまで来て、止まった。その間にヘレンやリケ、リディも近くに来ている。
馬車から降りたフランツさんと、俺は握手を交わした。
「そう言えば、カミロは見分け方を何も言ってこなかったですね」
「ええまぁ、私が行くから分かるだろう、ということでした。」
カミロなりのサプライズということらしい。マリウスの悪癖がうつってるんじゃないのか?
「ヘレンさんも、お久しぶりです」
「おう」
フランツさんに言われて、ヘレンは軽く片手を挙げた。帝国からの脱出は彼女にとってはあまり良い思い出ではない。素っ気なさにもそれがあらわれている気がする。
だが、カミロなりに気を使ってくれたらしい。フランツさんならヘレンも顔見知りだしな。
それはヘレンも分かっているようで、彼女もフランツさんと握手を交わしている。
「お二方は初めまして」
「初めまして! 親方の弟子のリケと言います!」
「エイゾウさんのところでご厄介になっております。リディです」
そう言って2人もフランツさんと握手を交わす。
「それでは、早速参りましょうか」
「はい。お願いします」
そうして、俺たちはいそいそと荷馬車に乗り込み、一路北を目指して進み始めた。




