身支度2
翌朝、いつも通りの朝食を頬張りながら俺は言った。
「昨日、役割と持って行くものは決めたが、実際に重い荷を背負って坑道を歩けば、頭で考えた通りにはいかないと思うんだよな。今日はその辺の確認をする日にしたい」
リケが頷き、リディは静かにスープを一口置いてから顔を上げた。ヘレンはパンを咀嚼しながら軽く頷いている。
「坑内に入る4人で、そんなに離れてないところまで行ってみよう」
俺が言うと、パンを呑み込んだヘレンが手を挙げた。
「前に邪鬼を倒しに行った洞窟は? 洞窟だし、ちょうど良さそうじゃないか?」
「良いかも知れないが、微妙に距離があるからなぁ。あそこまで行かないとマズそうか?」
「いや、雰囲気を掴むだけならなんとかなると思う」
朝食を終え、神棚には手短に拝礼だけ済ませた。今日は炉に火を入れない。荷を背負い、俺、リケ、リディ、ヘレンの4人で森へ入った。
先頭はヘレンだ。(元)傭兵として警戒を任せる。
「リディ、アタイに続いてくれ。足元が緩い」
「分かりました」
リディがその後ろ、リケ、俺の順で続く。俺が殿なのは戦闘力の問題である。リディならなんとか、ではあるのだが、接近戦となれば俺の方が強い……らしいからな。
木々の密集した足場の悪い一角を、坑道に見立てて進む。
「エイゾウさん、少し足を止めますね」
リディが立ち止まり、目を閉じて集中する間、俺たちも静止する。
だが実際に動くと、斜面を降りる際、荷の重みで制動が遅れ、前との間隔が詰まった。
「……詰まりすぎだな」
俺がボソリと呟くと、目の前のリケが声を上げる。
「親方、すみません。この位置だと、腰の小槌が太ももに当たって、枝にも引っかかります。少し前にずらしますね」
リケはベルトの小槌を数センチ前へ移す。
「これなら邪魔になりません。……いけます」
紙の上で並べただけでは見えなかった不都合が、動いて初めて出てくる。
次に撤退合図を試す。
「合図だ。手を三回叩くぞ」
パン、パン、パン。四人は無言で向きを変え、先頭だったヘレンが最後尾へ、一番後ろにいた俺が前へ回る。荷を背負ったままの入れ替えは狭い場所を想定すると窮屈で、肩がぶつかり足並みが乱れた。
最初はぶつかりあっていたが、繰り返すうち、動きが滑らかになっていく。
うん、これは洞窟でやってたら怪我していたかもしれない。訓練というか練習というかなのだし、広いところでいざと言うときは多少逃げ道があるところでやっておいてよかったな。行く前に大怪我をしたのでは目も当てられない。
俺がそうヘレンに言うと、彼女も頷いた。
「だな。こうして訓練できて良かったよ」
「これくらい動ければ十分か?」
「上を言えばいくらでもあるけど、これくらいで大丈夫だろ」
と、ヘレンが請け合ってくれたので、
「じゃ、昼飯にして帰るか」
俺たちは一度切りをつけ、木陰で干し肉と水だけの軽い昼食をとった。汗を拭いながら、リディが荷の紐の締め直しを手伝ってくれる。
工房へ戻ると、サーミャたちが迎えてくれた。
「おかえり。どうだった」
「良い確認ができた。留守の間、頼めるか」
「任せろ」
サーミャは腰のナイフに触れながら言う。
「アタシは毎日、庭の外周を大きく回って、足跡や臭いを確かめるよ」
「不測の事態は私が預かるわ」
ディアナが続ける。
「エイゾウ、心配せずに行ってきなさい。ここは私たちで守るから」
「私も、帰ってきたら一番に温かいものを用意しておくわね、エイゾウ」
アンネが穏やかに笑う。
「ボク、おかえりって言うの、いっぱいがんばる」
マリベルがはしゃぎ、クルルとルーシー、ハヤテが俺の膝に頭を擦り寄せてきた。
日が傾き始める前に、俺は手紙を一通書いた。カミロへ宛て、北部廃鉱山方面へ向かう行商馬車への相乗り可否と日程、費用だけを尋ねる内容にする。遺物のことは伏せた。
筒に入れ、止まり木のハヤテの脚へ固定する。
「アラシのところへ届けてくれ。頼んだぞ」
「キュイッ」
ハヤテは短く鳴くと、空へ舞い上がった。返事がいつ来るかは分からないが、カミロの事だ、そう遅くはならないだろう。
ハヤテが帰ってきたら、いよいよだ。俺はそう思って、もう一度ハヤテの飛んでいった先を眺めた。
日森よしの先生によるコミック版第32話①が公開されております!
https://comic-walker.com/detail/KC_002143_S/episodes/KC_0021430004000011_E?episodeType=first
フレデリカ嬢が可愛い回ですね。どうぞご覧ください!!




