豪華な夕食
そうして、いつもの納品物作りに精を出し、数日が過ぎたある日の夕暮れ時。
「ただいま! 今日はデカい猪を仕留めたぞ!」
森から帰ってきたサーミャが、誇らしげに声を上げた。
「おかえり」
「皆で結構頑張って引っ張ったから、かなりデカいやつだった」
「クルルがいてもか?」
「うん」
走竜のクルルはうちでは一番「力持ち」である。彼女の手助けでも多少なり苦労したとなると、本当にデカかったんだな。
「そりゃあデカいな」
「おう。明日は皆で引き上げに行こうぜ」
「わかった。そうしよう」
翌日、湖から引き上げた猪は確かにデカかった。
「しかし、こんな大物もいるんだなぁ」
引き上げた猪の大きさを見て、前の世界で見たアニメ映画を思い出す。
今のところ、ルーシーにその気配は全くないが、アレみたいに「黙れ小僧!」とか喋ったりするようになるんだろうか。
「ここまでのは滅多にいないけどな」
「こんなのにうじゃうじゃいられても困る」
サーミャに言われ、俺は苦笑する。
「ここまでだと、魔物化してるとかはないのか?」
俺がそう言ってリディを見ると、彼女は小首を傾げた。
「どうでしょう。サーミャさんとヘレンさんであっという間に仕留めてしまいましたから、凶暴になっていたかとかは分かりませんね」
「なるほど」
まあ、魔物化していたからと言っても味に影響はないらしいし、気にすることもないか。無事に仕留められたのなら、それを良しとしよう。
その大きな体躯に見合って、大量にとれた肉の一部は、その日の夕食にさっそく使われた。
朝に使った豆と根菜のあっさりとしたスープ。そこに、分厚く切り分けた猪の赤身と脂身、森で採れた香草を加え、じっくりと煮込んでいく。朝の澄んだスープが、夜には猪の力強い旨味が溶け出した、とろみのある濃厚なシチューのような一品に変わる。
パンをちぎり、その熱いスープにたっぷりと浸して口に運ぶ。
「今日の猪は脂が甘くて美味しいわね」
「そうねぇ。大きさで味が変わるのかしら」
ディアナの言葉に、アンネが応え、サーミャとヘレンが続いた。
「んー、特にそういうこともなかったと思うけどな」
「アタイも色々食べてきたけど、大きさはあまり関係なかった気がするな」
賑やかで、やかましいほどの食卓。未知の遺物の件で少しばかり頭を悩ませてはいるが、この地に足のついた温かい「いつも」の生活の土台があるからこそ、俺は落ち着いていられるのかもしれないな。俺はそんなことを思いながら、熱いスープを胃に流し込んだ。
そして、さらに数日が経ち、納品の日がやってきた。
完成した高級モデルのナイフや剣を木箱に収め、荷車に積み込む。
家族も全員荷車に乗った。ハヤテやマリベルもだが、ルーシーは最近お気に入りなのか、荷車には乗らず、クルルの横について一緒に歩く。
道中、森の気配に気を配りつつ進む。時折、木々の間を草兎が駆け抜けるササッという音が聞こえるだけだったし、街道でも巡回が行き渡ってるからか、これといった脅威に遭遇することもなく、無事に街の門をくぐった。
いつものようにカミロの店に荷車を引き入れ、丁稚くんに娘達をお願いした後、2階の商談室でカミロと向き合う。
「よう、今日は高級モデルのナイフが多めらしいな」
「ああ。少し入り用になりそうなんでな。カミロ、お前に探し物を頼みたいんだ」
「ほう。お前が俺に探し物を頼むってのは珍しいな。鉄石や炭以外でか?」
「そうだ。少し特殊な鉱石か、魔宝石の類を探してほしい」
俺は少し身を乗り出し、声を潜めた。遺物の詳細をここで語るわけにはいかないが、探してほしい物の条件は正確に伝えなければならない。
「強い魔力の負荷に耐えうる『高純度の古代の魔宝石』とか、特殊な魔宝石、あるいは魔力を流せる特殊な鉱石とか。とにかく、石でかなり特殊なものがないか、心当たりを探ってみてくれないか」
カミロは俺の目を見て、思案するように目を細めた。
「なるほどねぇ……。古代の魔宝石や特殊な鉱石となると、普通の市場に出回る代物じゃない。古い遺跡を潜る探索者か、ちょっと『特別な仕入れ先』を探る必要があるな。見つかる保証はできないし、見つかったとしても値は張るぜ」
「構わない。そのために今日は高級モデルを多めに持ってきたし、前金が必要ならそれで払う。多少時間はかかってもいい」
「わかった。お前の頼みだ、網を張っておこう。何か情報が引っかかったら、次回の納品の時にでも伝える」
「助かるよ」
必要な手は打った。あとはカミロからの知らせを待ちつつ、工房での日常に戻ってできることを続けるだけだ。
俺たちはそのまま塩や麦などの日用品を仕入れさせて貰ったあと、再びクルルの牽く荷車と共に、〝黒の森〟の静かな我が家へと帰路についた。




