同行者
ノックの音に導かれて食堂へと向かった俺たちは、帝都での2度目の夕食をとった。
テーブルに並べられたのは、昼間に立ち寄った大衆食堂の素朴な料理とはまた違い、贅をこらしたものだ。
些か肩は凝るが、これはこれでもてなしを最大限に表したものである。空腹も手伝って、俺たちはどれも美味しくいただいた。
食後、早々に自室へと戻った俺は、ベッドに潜り込むとあっという間に深い眠りに落ちた。
翌朝。
窓から差し込む朝日を浴びて、俺は気持ちよく目を覚ました。ベッドから抜け出し、手早く服を着替え、身支度を整えた。
部屋を出て食堂へ向かうと、すでにカテリナさんとアネットさんも起きてきていた。3人で手早く朝食を手早くとり、出発の準備を済ませる。
一息ついたところで、昨日から世話をしてくれている文官さんが部屋へとやってきた。
「エイゾウ様、お二方。ご準備が整いましたら、中庭へお願いいたします」
「わかりました」
文官の案内に従い、金剛宮を出て城の中庭のような広々とした場所へと出る。
そこには、すでに出立の準備を整えた馬車が数台、隊列を組むようにして停まっていた。護衛らしき兵士たちの姿もあり、どこか物々しい雰囲気が漂っている。
「皆様には、こちらの馬車をご用意しております。どうぞご乗車ください」
文官が丁寧に指し示したのは、装飾こそ控えめだが、いかにも頑丈そうな厚い木材と鉄で補強された馬車だった。サスペンションらしきものはない。今回のやり取りで導入されていくようだから当たり前だが。
一応、懸架式――チェーンなどで客室を吊り下げる方式――なのが救いか。
俺たちは促されるままに、その馬車へと乗り込んだ。
車内は十分な広さがあり、向かい合って座れるようになっている。俺とカテリナさん、アネットさんが席に着き、出発の時を待っていると、不意に馬車の扉が開かれた。
「失礼します」
凛とした声と共に乗り込んできたのは、見知らぬ女性だった。
長く伸ばした黒髪に、浅黒い肌。引き締まった体躯には無駄のない洗練された装備を纏い、腰には長剣を佩いている。その眼差しからは、かなりの鋭さが感じられた。
彼女は俺の向かいの席に腰を下ろすと、背筋をピンと伸ばし、表情一つ変えずに口を開いた。
「私は帝国近衛騎士団の副将を務めております、ルシア・フェルナンデスと申します。ヴィクトリア様たちは、しばらく帝都での任務から離れられないため、本日からは私が皆様の護衛を仰せつかりました。道中、よろしくお願いいたします」
淡々と、抑揚の少ない声での自己紹介だった。
俺は彼女の言葉を聞きながら、これまで道中を共にしてきた帝国側の2人を思い浮かべていた。
案内役を務めてくれたヴィクトリアさんは、可愛らしさの中にも皇女らしい確かな気品を持っていた。そしてもう一人の護衛だったハリエットさんは、一見すると冷たく無愛想な印象を受けるが、表に出ないだけで実際にはそれなりに感情豊かな、人間味のある人物だった。
だが、目の前に座るこのルシア・フェルナンデスという近衛騎士団副将からは、そういった柔らかさが微塵も感じられない。
軍人としての己の職務を全うすることだけを考え、それ以外の不要な感情を削ぎ落としたような、真にしゃちほこばった、堅苦しいイメージを受ける。近衛隊の副将という地位にいるのだから、実力は確かなのだろうが、道中の会話はあまり弾みそうにないなと、俺は内心で少しばかり苦笑した。
「俺はエイゾウです。こちらは同行している、王国のカテリナさんと、アネットさん。今日からよろしくお願いします」
俺が代表して名乗り、挨拶のために手を差し出すと、ルシアさんは小さく頷き、その手を握り返してきた。
ひんやりとした浅黒い手は、剣の柄を握り込んできた証である分厚いタコがあり、確かな力強さが宿っていた。
互いに手を離し、再び居住まいを正したちょうどその時。
「出発!」
外から、よく通る声で号令がかかった。
それを合図に馬の嘶きが響き、俺たちを乗せた馬車は、未知の鉱物が眠る鉱山へ向けてゆっくりと進み始めたのだった。




