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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第16章

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帝都へ5

 ハリエットさんとの「子育て談義」は、思いのほか白熱した。

 彼女自身もドラゴニュートとしての誇りや、走竜に対する特別な感情があるのだろう。

 俺が語るクルルの賢さや、普段の生活ぶり――例えば、自発的に水汲みを手伝ってくれているとか、家族の言葉をほぼ完全に理解しているらしい行動をするとか――を聞くたびに、感嘆の声を漏らしていた。


「いやはや、本当に素晴らしい賢さです。やはり愛情を持って、のびのびと育てることが肝要なのですね」

「うちの家族もみんなクルルを可愛がっていますから、そうかも知れません。まあ、あの子自身の資質も大きいとは思いますが」


 そんなふうに会話が一段落すると、馬車の中には心地よい静寂が降りてきた。

 ガタゴトと車輪が街道を転がる音が、一定のリズムを刻んでいる。帝国の街道はよく整備されており、馬車の板バネがしっかりしていることも手伝って、乗り心地は決して悪くない。俺はふと窓の外へと視線を移した。


 先ほどの町を出てから、風景は少しずつ変化を見せ始めている。帝国に入ってからというもの、王国とはまた違った乾いた風や、木々の少ない荒涼とした岩山を遠くに見ることが多かった。

 しかし、帝都が近づくにつれて、人の手がしっかりと入った平野部が広がりを見せている。

 街道沿いには麦畑らしきものが目立ち始め、そこで作業をする農民たちの姿もチラホラと見えるようになってきたし、すれ違いや、追い抜きをする馬車の数も目に見えて増えてきた。

 商人たちの荷馬車や、身分の高い人物が乗っているのだろう装飾が施された馬車(こちらはみすぼらしくとも皇女殿下を乗せているのだが)など、帝都という中心へ向かって様々なものが流れ込んでいこうとしているのが素人目にもわかる。


「帝都に近づいてきたって感じがしますね」


 俺がそう呟くと、向かいに座るヴィクトリアさんが頷いた。


「はい。この街道は帝都へと続く大きなものの一つですから。ここから先は、より一層賑やかになっていきますよ」

「なるほど。これだけの人や物が動いているとなると、やはり帝国の中心という感じがします」


 王国も活気があったが、帝国はまた規模が違うというか、国家としての力強さを風景全体から感じる。

 ふと、俺は〝黒の森〟に残してきた家族たちのことを思い出した。


 今頃、リケは工房で鉄を打っているだろうか。俺がいない間も、彼女の腕なら立派に作業をこなしているに違いない。サーミャは森へ狩りに出かけて、立派な獲物を仕留めては得意げな顔をしているはずだ。ディアナやヘレン、アンネ、リディといった面々も、それぞれの役割を果たしながら、俺の帰りを待ってくれているだろう。

 ハヤテやマリベル、クルルやルーシーたちも、元気にしているだろうか。

 夕飯の仕度も、俺がいなければ誰かが(主にリケだが)代わりにやってくれているはずだ。少し寂しい気もするが、帰った時にはまた存分に腕を振るってやろう。

 俺が不在でも、あの家にはしっかりとした『いつも』の時間が流れている。そう思えることが、俺にとって何よりの安心材料だった。


「ご家族のことを、思い出しておいでですか?」


 不意に、ハリエットさんが俺の顔を見て僅かに口角を上げた。どうやら、俺はかなり分かりやすい表情をしていたらしい。


「ええ、まあ。俺がいなくても上手くやっているとは思うんですが、やはり少し気になりましてね」

「ふふ、エイゾウ殿は本当にご家族を愛しておられるのですね。先ほどの走竜のお話からも、それは十分に伝わってまいりました」


 ヴィクトリアさんも微笑ましくこちらを見ている。少し気恥ずかしくなって、俺はポリポリと頭を掻いた。


「まあ、親バカみたいなものです。家族がいるから、俺もこうして安心して出かけられるわけですし」


 そんな雑談を交わしながら、馬車は順調に街道を進んでいく。

 ヴィクトリアさんが出したどうも普通とは違うらしい通行証のおかげで、途中にある小さな関所なんかも、文字通りほぼ顔パスで通り抜けることができた。

 普通なら長蛇の列を作って待たされるところを、最優先で通してもらえるのだから、本当にありがたいことである。


 やがて太陽が傾き始め、周囲の景色が黄金色に染まり出す頃。

 街道の先、地平線と交わるあたりに、ひときわ大きな影が浮かび上がってきた。


「見えてきましたよ」


 ヴィクトリアさんが指さして言う。


「本日の目的地です。帝都の防衛も兼ねた、要衝となる都市の一つでもあります」


 彼女の言葉通り、近づくにつれてその威容が明らかになってきた。

 以前潜入した町よりもさらに高く、分厚い石造りの城壁が町全体をぐるりと囲み、いくつもの見張り塔が等間隔でそびえ立っている。城壁の石の積み方を見ても、防御を第一に考えた堅牢な造りであることが鍛冶屋の――あるいは物作りの端くれとしての――目でもよくわかる。門へと続く街道には、夕暮れ前に入城しようとする旅人や商人たちでごった返していた。


 俺たちの乗る馬車は、その混雑を横目に、特別な通行証を示すことで、多少の注目を浴びながらもスムーズに門へと進む。

 門を守る兵士たちの装備も、辺境のものに比べて質が高く、よく手入れされているのが見て取れた。さすがは帝都近くの要衝だ。

 重厚な門を抜けると、外の荒涼とした景色とは打って変わって、整然と区画された石畳の通りと、夕刻を前に一層の活気に満ちた喧騒が俺たちを出迎えてくれた。


 どうやら、無事に到着できたようだ。俺は内心胸をなで下ろし、馬車の揺れに身を任せた。

日森よしの先生によるコミカライズ版30話②が公開されております。

立て直しとエルフの宝剣の秘密のところになります! 宜しくお願いします!


https://comic-walker.com/detail/KC_002143_S/episodes/KC_0021430003800021_E?episodeType=first

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