帝都へ3
恙なく馬車は街道を進んで行く。
道中はずっと山々を見ていられるので、退屈はしないし、もし帝国に逃げ込む場合は、あの方へ行けば良いというチェックも兼ねていると思えば、より一層見るのも楽しくなるものだ。
しかし、帝国に来てから森をほとんど見なくなった。木々が固まって生えているようなところであれば、たびたび見受けられるのだが、どこまでも広がっていそうな森はあまり見ない。
〝黒の森〟がこの世界でも有数の広大な、そして危険な森であることはさておき、半分くらいの広さの森でもあれば、かなり助けになるはずである。
だが、どういう気候のなせるものなのか、高山の麓には木々のものらしき緑が見えるが、それもあまり多くはないようで、「山に行けば木がある」という、元日本人としての感覚からは違和感を覚えるような風景だ。
「王国も森はあまりなかったですが、帝国も少ないんですねえ」
俺は山々を見ながら、何の気なしに、という風に言ってみた。ハリエットさんの声が返ってくる。
「はい。なぜか樹木の類は多くありません。鬱蒼とした広大な森、という風情の場所もなくはないのですが、もの凄く偏ってまして。その森も〝黒の森〟ほどは広くありません」
「ふーむ」
「帝国での滞在は森辺のほうがよろしかったでしょうか?」
そう言ったハリエットさんに俺は振り返る。
「いえいえ、単なる感想、というやつでして。森でなくては仕事が全くできない、などではありませんので、どうぞお気になさらず」
俺の言葉を聞いて、ハリエットさんの表情が僅かばかり緩んだ。ホッとしてくれたらしい。
危ない危ない。余計な気を回させるところだった。どうやらハリエットさんは俺の(表向きの)出自から、森が恋しくなったのかと思ったぽいな。
まあ、あの森が恋しくないかと言われれば、家族の待つ我が家であるからして恋しいに決まっているのだが、どれくらい森があるかを確認したいのは、それが理由ではないからなあ。
「もし必要であれば、いつでも仰ってください」
「はい。ありがとうございます」
ヴィクトリアさんの言葉に、俺は頷いた。
この日も何事もなく、次の町へと辿り着くことが出来た。この町は少しだけ因縁があるというか、革命騒ぎの時にヘレンが囚われていた、つまり、俺たちが潜入した町である。
その時はゆっくりと様子を窺うことができなかったが、王都とまで言わずとも、なかなかの規模を誇る威容が出迎えてくれている。
スムーズに町に入ると、あちこちに水路が巡っているのが分かった。あの時は建物にばかり注目していて、水路にまで気が回ってなかったな。
俺たちが来たほうにはなかったが、運河があるのだろうか。
「ここは流通の要ですから」
俺が水路に興味をしめたのを察したらしいヴィクトリアさんが少しだけ説明してくれた。
「なるほど、重いものも運べそうです」
「いつもどのように運搬を?」
「ああ、うちはですね、走竜を使ってまして……」
そう言うと、ハリエットさんがズイッと身を乗り出して言った。
「走竜を!?」
どうも詳しく聞きたそうなので、俺は宿に着くまでの間、我が家の長女について詳しく話すのだった。




