知らないところでおやすみを
荷物を部屋に放り込んで、すぐに部屋を出て鍵をかける。鍵は比較的簡単なものなので、貴重品は置いていかない。
下に降りると、女性陣が既にテーブルに陣取っていた。確か扉が閉まる音を聞かなかったような気がするが、これがプロの業前というやつだろうか。
「お待たせしました」
俺はそこに合流する。アネットさんとカテリナさんは微笑んで、小さく首を横に振った。
そこになみなみと液体のつがれた木製のジョッキが3つ運ばれてきた。
うちの家族なら、どれか一つは火酒なのだろうが、全てエールらしい。飲料として注文したらしく、乾杯などはなかった。
「今のところ順調に来てますね」
「はい。直接的ではない妨害もあるかも知れないと思っていましたが、それもなかったですね」
アネットさんとカテリナさん、2人の会話に俺は首を傾げて言った。
「直接的ではない妨害?」
「ああ、それはですね……」
カテリナさんがグビッとジョッキの中身を呷ってから続ける。
「ここは元々、往来する旅人たちが野宿するのに都合の良い場所だったんです。街からも1日くらいですし。それでできたのがこの町ですが、それでも衛兵はいましたよね?」
「ええ、チラッとこちらを見ただけでしたが」
「そうでしたね。とは言えです、エイゾウ様には失礼ながら、オジさん1人と女2人で御者が女というのは、これはもうとても目立つんですよね」
「そうですね」
俺は納得したように頷いたが、内心ではちょっと驚いていた。女性が自ら矢面に立つことも多いこの世界なら、男1女2の道行きや、女性が御者をしたりといったことも、そう不思議なことではないと思ったのだが、そうではなかったようだ。
「なので、何かケチをつけて足止めしてくるなら、この町が一番早くそのチャンスが来るはずなんです」
「でもそれをしなかった、ということは、この町で仕掛けてくることはないだろうと?」
「はい」
次に頷いたのは、アネットさんだ。
「出る時にもう一度衛兵の前を通りますが、通常入るときよりも出る時のほうが、検問は緩いものです。そこで急に厳しくしたら、そもそも町に入れたのはなぜ? ということにもなってしまいますからね」
「なるほど」
その後はカテリナさんが引き取った。
「なので、この町では安心していただいて大丈夫ですよ。何かあったらあったでなんとかしますので!」
そう言ってウインクをするカテリナさん。どことなし頼もしさがある。
アネットさんが小さく咳払いをして、俺とカテリナさんは居住まいを正す。
「さて、明日の予定ですが、基本的には今日と変わらず一日中移動だと思っていただければ。出立は夜明けすぐです。明日に距離を稼いでおいたほうが都合が良いので」
「わかりました」
「大丈夫ですか?」
「もちろん。仕事柄、朝は早いもので」
俺がそう言って頷くと、
「鍛冶屋さんってそうなんですね。私は朝弱いんですよねぇ……」
とカテリナさんが小さくぼやき、俺とアネットさんから笑い声がこぼれる。
まあ、うちにも1人、とんでもなく朝弱いのがいるのだが、帝国の機密事項だといけないので言わないでおくか。北方風に言えば、武士の情けとも言う。
その後、運ばれてきた食事を素早く平らげ、俺たちは翌日に備えて早めに床についたのだった。




