3-31 白い神の役割――興奮するマリモ
ありがとうございます。
「ん……お母さんがニーテストになるのはイイけど……なんの話だっけ?」
「神殿騎士は、ちぃと良くねぇっちゅう話やけぇ」
「あ、はい。ですが、こちらの容れ物を使って、表側だけ使用すれば問題ありません」
「ん、カードケースだね」
チーズさんが差し出した金属製のケースに、各々、カードをはめ込む。
「――あとはあちらの判定機で、役割を選んで頂いたら完成です」
チーズさんが、部屋の隅に置かれた四角い箱を指し示す。
「んだば、役割は一つなんかなぁ?」
「はい。役割は表側に一つだけ表記されます」
つまり職業と役割は、それぞれに異なる意味を持つ、という事か。
「ふむ、役割の候補一覧が、その機械で判定されるのかにゃ?」
「はい。役割は色々とあるので、先に判定機の方で候補の一覧を確認して下さい。触れるだけで大丈夫です」
「ん……白姐の役割、キニナルかも」
皆が視線を交わし合うと、最終的に白い神に視線が集まる。
「うん。一番気になるねぇ」
「女神だね」
「それは無いにゃ」
「……んだば、ウチから行くけぇ――」
白い神が、四角い箱に手を乗せる。
「なんや……文字がたくさんやけぇ」
どうやらプリンター方式のようで、大量の黒い文字が印字された薄褐色の紙が、箱の手前側に吐き出されてゆく。
「ふむ……?」
延々と、吐き出されてゆく。
「これは……」
チーズさんの体表が、大きく波打つ。
羽ばたきが乱れ、ふらつき始める。
「ん? チーズさん――」
「驚きました!」
差し出された黒い神の手を跳ね除けるように、激しく揺れ始める。
「チーズさ――」
「凄いです! ぱねぇです! インクレディブル! オゥサム! ホゥリィシット! バッダァ……ス――」
なにやら叫び始めたかと思えば、急停止。
「うぇへ!――」
むせるように咳き込み、床に落ち、広がるように伸びる。
「……イィ……イィィ……」
「大丈夫けぇ?」
白い神が手を添えると、ビクリと震え、転がり出し、跳ね上がる。
「ヤッ! ハー! ブゥーヤァー! ヒィーハァー!……うぇへ!」
再び落ちて、床に広がる。
「……また発作かにゃ?」
「うん。でも、感触は気持ち良さそうだねぇ」
「ふむ……」
判定機は、タガが外れたように紙を吐き出し続けている。が、チーズさんのタガも外れてしまったのか、何かをかなぐり捨てながら、フィーバーしている。
「――オゥサム! ユゥッキルディッ! コオォングラチュ……うぇへ! うぇぇ……」
マリモの毛のような部分が伸び上がり、グッタリと床に沈み込む。
「…………」
静寂。
白い神が再び触れるものの、反応が無い。
何かの不具合に見える。が、私が知る範囲で該当する不具合は無い。
とりあえず、詳細に分析する必要がある。
「ふむ……先生」
「今、調べてる」
グソクさん達と相談しつつ、分析する。
観測機にアクセスし、得られたデータをマリモ種の構造、機能、不具合に関するデータと照らし合わせる。
なるほど。
おおよそ確信が得られたところで、チーズさんが浮かび上がる。
「……失礼しました。すみません。大丈夫です……とても気持ち良くて……少し、力が抜けてしまいました……」
「そっか……」
興奮すればするほど、眠気が強くなる。
調べた結果、これは不具合ではなく、過剰な興奮を鎮めるために意識レベルを低下させる、正常な機能であった。
「不具合は見当たらない。むしろ、極めて健康な状態」
と思われる。
「すみません……」
「構わない」
「……ふむ。それで、この役割の一覧から、好きなものを選ぶのかにゃ?」
「あ、はい……」
黒い神が、床に折り重なった紙束を、分解で切り揃えながら並べてゆく。
並べ終えると、一箇所、妙に際立つ文字列。その装飾的な太字の単語らしきモノを指し示す。
「コレ、この一番大きなのはなんて読むの?」
「……それです……先ほどは、それに驚いたのです」
再び、チーズさんの全身が総毛立つ。
といっても、恐怖や寒さに対する身体反応ではなく、興奮によるもの。
「ふむ、『最上位の悪を倒す』と書いてあるにゃ」
「はい。つまりシロ様は……魔王を倒す『勇者様』です! おめでとうございます!」
一拍の静寂。
「……いぇあー。白姐、おめでとー」
「いぇあー……やけぇが、なんや、良う分からねぇで……」
「うん。たぶん、知らないけど、シロちゃんは凄いって事だよ」
「ん、私も知らないけど……きっと凄い事なんだよ。はい……Kudos to 白姐ー!」
困惑の微笑で、黒い神に腕を持ち上げられる白い神。
私もなんとなく、拍手を送る。
チーズさんは、リズミカルに羽ばたきながら、再び震え出す。
「イェアー! フゥー! コングラッツ! ハッハァー!……」
静寂。
「……うぇへ……」
「ん、チーズさん。盛り上げてくれるのは嬉しいけど……あんまり、無理しないでね?」
「……すみません」
興奮が、心地良いのであろう。




