3-30 身分証――立ち位置が不明瞭な神々
ありがとうございます。
「――こちらが、身分証になります」
「ん、ありがと……この模様は?」
チーズさんが差し出した白いカードには、筆記体の小文字のエルのような模様を一枚の花弁とした、花のような図柄が描かれている。
「そちらの模様が、レベルゲージになります。線の部分が身体能力、内側が魔法能力のレベルになります」
「あ、数字じゃなくて、色がつくのかな?」
「はい。八つの模様に見えるので、一つも埋まっていない場合は1レベル、一つ埋まると2レベル、というように数えたりします。あ、ちなみに、これはこの星限定で、星によって表記の仕方は変わるようです。能力や体の部位によって細かく表記される星もありますね」
チーズさんの声には落ち着きを感じるものの、カードを触手で示す動作が妙に力強い。
まだ、興奮は継続しているようだ。
「ふむ、この星では最大9レベルで、それ以上は変わらんのかにゃ?」
「はい。ですが……そこまで行き着いた人は、見た事無いですね」
「ん、過去最高レベルはいくつなの?」
「噂では、初めて8レベルに到達した人の記録が、冒険者ギルドに残っていると聞きましたが……」
冒険者ギルドとは、おそらく日本的ファンタジーフィクションにおける、モンスター退治を請け負う傭兵組合のような組織であろう。
「……つまり、6から7レベル辺りに、物騒な奴が多いのかにゃ?」
「いえ、少しおかしな人達は、4から5レベル辺りですね。それ以上はなんと言いますか……趣味で頑張る人ですね」
「うん。地球の言葉だと、酔狂とか、フリークっていう表現が近いのかもねぇ」
戦闘狂のようなニュアンスであろうか。
あるいは、赤い神の言う『ちょっとおかしな人』に含まれるのかもしれない。
チーズさんの全身が、僅かに波打つ。
「酔狂……フリークですか。なんとなく、惹かれる響きですね」
「んだば、『チーズさんは地球フリーク』っちゅう使い方であっちょるけぇ?」
「地球フリーク……はい、私は地球フリークですね。特に、日本の言葉が大好きです。喧嘩上等、天上天下、唯我独尊です」
聞いた事はあるが、意味は良く分からない。
意訳変換で共通言語に意訳してみたところ、『全てを受け止める、尊い使命』のようなニュアンスであった。
何かの決意表明であろうか。
「あ、チーズさん。そこに『鬼ゾリ鬼ハン三段シート』ってつけるとイイかも」
これも意味は不明だが、どことなく勢いを感じる。決意表明を強める修飾語か。
「はい! 覚えておきます!」
「ん、ところで、4レベル以上の人ってどれくらい居るの?」
「どうでしょう……一つの街に数人くらいでしょうか。仕事で毎日モンスターと戦う人達でも、3レベル前後ですからね」
街の規模は不明ながら、戦闘を生業とする者でそれという事は、高いレベル帯の特異性を感じる。
「そっか。結構少ないんだね」
「ええ。ですが、その少ない人達がとても……」
「荒ぶってるいらっしゃる?」
「あ、はい。とても、荒ぶっていらっしゃるので、結構噂になるような事件が多いのです」
「ふむ……」
「や、それくらいなら平気だよ」
「ん、今気にしてもしょうがないよね。それよりニャマコ、この文字はなんて読むの?」
身分証のカードの右下には、下線付きの文字らしきモノ。
「これは、役割、担当、係のような意味の単語だにゃ」
「職業欄かな?」
職業であれば、社会的な役割、のような意味になるが。
「あ、いえ。少し意味が違います。裏側を見てもらえますか?」
黒い神が、カードを上に掲げて覗き込むように見る。
白い神は、裏返して見る。
「光っちょるけぇ」
私も自分の物を調べてみたが、どうやら手に持った状態で半回転させると、しばらく光を放つ仕組みになっているようだ。
「こっちにもレベルゲージがあるね」
「はい。先ほどの表側が『冒険者』、裏側が『神殿騎士』、この二つが職業になりますので、役割には別の意味があります」
「ん、冒険者は分かるけど……神殿騎士はどんな身分なの?」
「……すみません。位の高い皆様には大変失礼なのですが……ヤバ様直属の部下という身分になります」
おそらくチーズさんから見れば、ヤバちゃんという雲の上の存在が居て、その同じ領域の多少上に私達が居るイメージなのであろう。
「ん? 全然失礼じゃないけど……ヤバちゃんは、この世界を創った神様だよね?」
「ええ、そうなのですが……ヤバ様は、この国では凄く……凄く……愛されています。ですが他の国では……少し……低く見られてしまうのです」
流暢に日本語を話すチーズさんが、言葉選びに苦戦する。
つまり、ヤバちゃんと神殿騎士はどちらも複雑な立ち位置にある、という事か。
「そっか……でも、ヤバちゃんの教会が無いと、復活できないよね?」
教会の復活処置を、ヤバちゃんが直接担当しているとは限らない。
「ええ。教会の補佐役様の仕事は分かりやすいのですが、ヤバ様は子供達に人気で……」
なるほど。補佐役とヤバちゃん、同じ管理者側の存在でも、管理対象との接し方、距離感が違うのであろう。
「ふむ、つまり……子供と遊んでばかりで、ニートに見えるという事かにゃ?」
「あ、はい。ニート……ニートですか。これもなかなか、惹かれる言葉ですね」
ニートという言葉に赤い神が反応し、笑顔を浮かべる。
「うん。ニートって、イイよねぇ。私もニャマゴロー達のおかげで、これからニートになるんだよ」
職務放棄を明言している。
「ん、ニーテストまで成長すると、無敵だからね」
『ニーテスト』とは、意訳変換では『規範を超越した存在』らしい。
であれば、赤い神は既に該当する。
「……待つのにゃ。今、赤いのの記録を調べたが……お主、ムー達に任せた後、完全に接続を切っておらんかにゃ?」
完全に、管理者の規範を超越している。
「…………」
「ふむ……」
ニャマコの前に、微粒子で構成された板状のインタフェースが現れる。
そこには、共通言語で書かれた赤い神の職務放棄発言と、白黒二人と私、それにニャマコ達補佐役を示すIDのようなモノが見られる。
これはつまり、不特定多数から代行管理者を募集する手続き――間接的な赤い神の排斥であろう。
「ん? ナニソレ?」
「こやつを、本物のニートにしてやるための手続きだにゃ」
「うん。待って。ごめん。ごめんなさい。すぐにちゃんと連絡します……」
「うむ。代行権限は細分化して、補佐役で分担させるのにゃ」
「はい……」
「あと、端末の設定はムー達に任せても構わんが、一部凍結するなら、必要な連絡は自分の端末でしっかり行うのにゃ」
「サー! イェス! サー!」
「いや、上司はお主だからにゃ?」
「サー! イェス! サー!」
「…………」
「サー!」
チーズさんも、隣で叫んでいる。




