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0-5 ドロ遊び――枝道

内容圧縮 2019/02/03


「――で、なんにゃ。それは?」


「ん、言われた通り、収納の防具活用法……」


 どうやら収納と呼ぶこの素材は、身を守る物に加工するには適しているらしい。


「ふむ……ただのドロ遊びだにゃ」


 分解で、一部を切断した収納に、裏から頭を差し入れて棒立ち。


「…………」


「……代わりに、加工してやるのにゃ。収納と、一枚だけローブを貸すのにゃ」


「ん、少し、疲れたかも……」


 アウター側のローブごと脱ぎ捨てると、ニャマコを枕に横になる。


「…………」


 ーーどうしたら正解なのか、なんとなく分かるけど。


 モチベーションが低下している。

 緊張が解けた事により、かえって疲労感と身体的苦痛、現在の状況を再認識してしまったようだ。


 ――忘れられてたって……別にいいよね。


 生まれ変わった、というか死んでからこちらに生えてきたのか、なんなのか。良く分からない状態の主に、昔の記憶など期待できない、という事か。


 ――記憶なんか無くてもイイけど、出来れば雰囲気だけでも……少しでも感じたりできたら、それでもう十分。


 期待しながらも、現実的な気持ちの落とし所を探っているのか。


 ――なんか、お腹も空かないし。


「……起きるのにゃ。加工できたのにゃ」


「ん?」


「もう長い講釈は省く――なるべく省くから、とりあえず着てみるのにゃ」


「見た目は変わってないけど……ナニコレ?」


 手が、ローブにめり込む。

 しかし、反対側が盛り上がるわけでも、手が貫通するわけでもない。


「極限まで薄く伸ばした収納を、エッジを消して纏わせたからにゃ。ある程度勢いを持った物が中に入れば、そのまま逆側へ突き抜ける構造にしたのにゃ」


「ん、良く分かんないけど……ありがと」


「ちなみに、光を含めて、電磁波も適度に遮るはずにゃ。つまり、感触センサーから、過度な信号を受けずに済むはずにゃ」


「……スゴイ」


「頭は無防備だが……」


 大きく跳ね、広がり、飛びつく。

 頭を抱え込むように、覆い被さったニャマコ。


「痛っ……くない?」


 勢いよく転倒するが、ダメージは見られない。


 ローブを着た胴と脚は、一部が地面をすり抜けたかに見えた。だが実際は、足と頭部が引っかかるように地面に転がり、腰の帯も含めて柔らかく地面に沈み込むと、緩やかに浮き上がっていた。


 過剰な衝撃や圧迫のみを逃すような、何かしらの処置が施されているようだ。


 頭部全体には、ほぼ完全に透明な膜。

 頭頂部の左右に小さく薄くネコミミが見られる。


「……腰もなんか、ふんわりだったよ」


「ワシの一部を使った防護膜だにゃ」


「ナマコの匂い……」


「無臭だにゃ。それに、ナマコどころか水棲生物でもないのにゃ」


 演算機を自称していたが、見た目は薄青く着色した、ネコミミ以外に棘の無いアクリル製のナマコ。


「ん、機械っていうのは聞いたよ」


「究極の演算機らしいにゃ」


「らしい?」


「あやつが、元はそういう型式名だと言っておったのにゃ。由来は、何かの競技名らしいにゃ」


「ん、見た目の由来は?」


「……陸上哺乳類が進化するであろう、その先を予測した、擬似的な生物進化の終着点だにゃ」


「哺乳類って……骨と生殖器は?」


「骨など、飾りにもならんにゃ」


「名言……」


「生殖器官もゆらぎを使って進化する必要が無ければ不要だにゃ」


「哺乳類なのに?」


「分類名は、地球の分類に当てはめただけだからにゃ……まぁ、哺乳はできずとも、子は育めるのにゃ」


「あ、はい……はい?」


「愛というモノは、身体機能に依存しないのにゃ」


 スペックの説明かと思いきや、なにやら語り始めるニャマコ。


「えっと……」


「愛とは、優先順位を超えた先の裏にある、熱い仁の心だからにゃ」


「…………」


「…………」


 緩やかに揺れるニャマコ。


「……なんの話だっけ?」


「……愛、だにゃ」


 ローブ製作に愛を込めた、と言いたいのであろうか。それとも、彼女の思考を乱す事で、何か狙いがあるのか。


「ふふっ……」


 弱りきって固まった顔筋が、いくらか解れたようだ。


「ローブの着心地はどうかにゃ?」


「ん、落ち着くかも」


「では、外に向かうとするかにゃ」


「……行ってらっしゃい」


「……いや、お主が行かねばワシはただのしゃべる化け物だにゃ。追い掛け回され逃げ回り、切り刻まれてもすぐ戻り、火にでもかけられて燃えない姿に恐怖を与える……かもしれんにゃ」


「うわぁ……」


「……まぁ、やりようによっては、ワシだけでも目標は達成できるがにゃ」


「そうなの?」


「ただ、ワシは知っておる事しかできんからにゃ……目標の先にある可能性は限定されてしまうのにゃ」


「私でも、途中までは変わらないかも?」


「いや、お主には進化の途上の生物が持つ、不確定に変わる力があるからにゃ。半端である事が重要なのにゃ」


「……ほどほどがちょうど良い、みたいな?」


「うむ。お主が自由に、かつ不完全に手を加える事で、良くも悪くも、ワシの知るモノとは大きく変わるはずにゃ」


 説明というよりは、説得に近い口調。


「なんか、難しいね」


「まぁ、ただの戯言だにゃ。お主はお主の求めるアルジとやらを探しながら、のんびりと思いつきを試していったら良いのにゃ」


「ん、ノリでなんか作るのは好きだよ」


「ふむ……この道から、今、初めて枝道が生まれたのにゃ。そこへ足を踏み出せば、そこは外の世界にゃ」


「あ、ホントだ」


 街道の先には、乾いた灰色の枝道が見える。


「一度取りやめて、まだ他にも準備してからまた出ようとすれば、この枝は消え、また別の枝が生まれるはずにゃ」


「そっか」


「タイミングはお主次第だにゃ」


「ん、大丈夫。もう行けるよ」


 動きに硬さは見られない。

 いくらか、老成ぶりが薄らいだように感じられる。


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