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2-3下 跳躍――顔面土下座

表現微修正……2019/01/08


「もうじき、皆が猫人て呼ぶ子らがおるとこやけぇ、先に行って知らせてくるけぇなぁ」


 勢い良く、『ユニサス』の頭部を超えて、縦回転の大跳躍を見せたライは、その勢いのまま滑らかに巻貝に変わり、転がりながら駆けてゆく。

 さして泥も跳ねさせずに、音も静かに転がってゆく。


「運動性能も、黒いのとは比べ物にならんほど優秀だにゃ」


「捨てないで……」


 過敏な反応を見せる。


「……白いのは、そこにイモがあると言っておったが、土産も無しに大丈夫かにゃ?」


 一応、道すがらの事前会議では、交渉の場を得た後について、方策を練ってきたものの、挨拶の品は考慮に入れていなかった。


「黒くて薄い生物愛護法に引っかか……ん? なに?」


 愛護せずとも、地球上でトップクラスにしぶとい生物を連想させる。


「演算機はモノでしかないから、生物に対する法的な権利も義務も無いのにゃ」


 その話を膨らませている暇は、無いはずだが。


「でも、黒くて薄い愛護団体が黙ってないよ……それで、なんの話だっけ?」


 必要性の無い反論もしぶとい。

 だが、この描写の必要性も全くない。


「……猫人は、鼠人らの逃げ出す原因だったはずにゃ」


 逃げ出すに値するだけの、何かしらの過剰さを持った種族であれば、鼠人を守っていたライに対して思うところがある可能性は、無視できないのであろう。


「ん……そっか。ちょっと急いで追いかけよっか」


 基本、楽天的な気質ではあるが、やや真面目な顔で、薄く焦りを見せる。

 既に、ライに対して完全な信頼を寄せているが、むしろだからこそ、厄介事を押し付けておくわけにはいかないのであろう。


「壺漬けウナギを結合で嵩増しして、大盤振る舞いしたらイケるかも」


 相変わらずの安直さだが、シンプルな思考である事は、決断の早さも伴う。

 ただ早ければ良いというわけではないが、急を要するなら手遅れよりマシ、というのが通説であろうか。


「いや、ウナギ狩りに秀でておると聞いたからにゃ。ウナギ料理は要らんかもにゃ」


「あー……流石、猫さんだね」


 猫が身近に居る日本人に対して、猫人という意訳変換は、過剰な先入観を持たれやすいのであろう。

 とはいえ、おおよそ間違ってはいないのかもしれないが。


「まぁ、ここまでウナギを見なかったからにゃ。どこも、似たような状況かもしれんがにゃ」


 この地域の土質が、本来の湿潤度に満たない事や、チンアナゴの群れと極太ウナギの関係について、何か見通したのかもしれない。


「ん……とりあえず、急いで追いかけよう」


 『ユニサス』のソフトウェアギアを切り換える。

 チンアナゴ騒動の後に、蹄部分のパーツを、反りのある『かんじき型』に変えている。

 そのため、いくらか蹴り脚がスムーズになっており、粘土沼でも多少は加速しやすい。


 常歩から速歩に変えて進むと、しばらくして、壺付きドーム家屋が遠目に見えてきた。

 ここまでの疎らに生えた雑草と比べると、圧倒的に葉の大きな植物の群生地が、点々と広範囲に広がっており、鼠人の土地と比べると、やはり随分と肥沃に見える。


「ふむ……見たところ、この集落も良く分からん状況みたいだにゃ」


 まだ、随分と離れているが、ニャマコのセンサー類の感知距離、及び感知情報の分析力は、それなりに高いのであろう。


「ちょっとしか見えなーい。どんな感じー?」


 最近、見た目も中身も、さらに幼くなってきた黒い神だが、かつては乱視の付いた老眼のような状態であった。

 老眼は、良く遠視と間違えられる事があるが、遠くは見える遠視とは異なり、遠くが見えるとは限らない、調節機能そのものの低下である。

 しかし、管理者になってから、ここのところはいくらか好調であった。

 永命種であれば、目の毛様体筋であっても、強度や運動力は鍛えた分だけ確実に増す。

 見た目の幼さが強化されているのも、この世界に来て、恒常性の維持機能が回復しつつある証拠であろう。


「痛っ……乗りっぱなしで、腰がキテるかも……とりあえず、状況教えて欲しいかも」


 回復しつつあるとはいえ、常に使う目や不随意筋などを除いて、肉体的な運動とは基本無縁。

 未だに、見た目以外の大部分は、それなりに弱ったままのようだ。


「お主の知識で言うなら、『ジャンピング土下座』というヤツだにゃ」


「すごい、この距離で良く見えるね……でも、状況は全然分からないかも」


「無抵抗の意思表示かにゃ? 膝裏に手を挟んでおるから、正しくは、ジャンピング『顔面』土下座かもにゃ」


 ジャンピングと顔面が併さると、精神的な謝意よりも、物理的な痛々しさが勝る。


「白いのには劣るが、猫人の跳躍も、結構な飛距離だにゃ」


 ライの飛距離は、先程の飛び込み回転で、だいたい300メートルほどである。

 それに迫るという事は、よほど軽い体なのであろうか。


 いや、観測データでは、肉体の形状も構成要素も、そこまで地球人と変わらない。

 しかし、地球人と比べて、筋繊維の強度やバネ、エネルギー源を変換する機能、臓器や脳の衝撃に対する耐性などが、ここまで違う理由が分からない。

 猫人そのものの観測データから読み取れない以上、この世界やこの星の構成要素などに、まだ私の知らない何かがあるのかもしれない。

 そうなると、今すぐには分析が難しい。


「……何か請い願っておるが、口の動きはバラバラだにゃ。協調性は怪しいのにゃ」


 ヒトというカテゴリーを圧倒的に凌駕する集団が、相争うように懇願して来る。

 そのような状況、地球人なら、もはやただの脅威であろう。

 ここに、一般的な地球人が異世界旅行にでも来たなら、吊り橋効果で異世界婚ブームが巻き起こるかもしれない。


「白姐が、女神様過ぎて爆アゲ?」


 慈愛溢れるライが大好きなのか、なにやら嬉しそうな、それでいて薄っすら嫉妬のようなモノを滲ませた表情で、褒めそやすような口ぶり。


「うむ。確実にお主より、神らしい崇拝を受けておるにゃ。ワシも、白いのに乗り換えたくなるにゃ」


 この時、黒い神が脳裏に浮かべたイメージを表すなら、無表情かつ無関心な雰囲気のニャマコが、呆然とした黒いのをホームの道端に放置、ライは普段閉じている目を伏し目がちに開き、哀しそうな表情のまま一度だけ振り返り、去って行く姿であった。

 ベタなシチュエーションだが、実にリアリティのある色彩を纏っていた。

 予知能力の可能性がある。


「……っ! うぇ……ズビッ!」


 だいぶ、空気中の浮遊微生物などが増えてきたため、永命種の適応機能で、目の防護液の分泌量が増えて、鼻涙管も緩んできたようだ。


「だが、遺憾な事に、お主との接続を切る手段が無いのにゃ。遺憾だがにゃ」


 大事なことは、二度重ねる。


「……マジで? おぉ……いえぁー……いえぁー……ズッ友! いえぁー!」


 重ねても、伝わらない想いはある。

 重ねる言葉や場合によっては、ウザさが増す事もある。


「遺憾にゃ」


 前方には、顔面土下座。

 馬上には、海老反りの叫び。


 日本語には、ギャップ萌えという言葉があるが、ギャップがあればなんでも萌えるというわけでは無い。


「まぁ、敵対的には見えないにゃ。とりあえず、向かってみるにゃ」


 ニャマコは、危険性の低い感情的な事柄に対しては、消極的に対応するようだ。

『跳躍』と言っても、ライの場合は肉体の大部分が微細に拡散しながら、肉体の形をしたモノが拡散浮遊物の中を飛んでゆくため、正確には『跳ねている』というよりは『流れてゆく』に近い。

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