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特殊民間警察 Calamity  作者: 仲村 リョウ
1章:Confrontment with the insanity
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第1話:民間警察

ある事がきっかけで仕事を辞めさせられてしまった拓也。ある民間の少女に「私達の民警に入ってください。」と頼まれる。悩む拓也だったが・・・・

今から約80年前。人類が優位つ住める星"デルタ"に巨大隕石が降り注いだ。テクノロジーが発展した人類は長距離精密電磁波砲、レールガンを放ち隕石は粉砕し巨大陸の国、イストリカ、エルネリアの二国に落下した。かなりの死傷者は出たものの被害は人類滅亡を回避できた。イストリカとエルネリアの経済は一度落胆仕掛けたものの周囲の援助の助けもあり国の崩壊は間逃れた。だが、それ以外にも問題は発生した。地球に落下した隕石を調べた研究者は一つの細胞がある事を発見した。通称"B.A.C"。人間の脳を活性化させる細胞だ。症状は脳のある部分に取り付き、空想しか存在しなかった超能力が現実でも使えると言うものだ。B.A.Cは地球に落下した時から地上にばら撒かれ人間の呼吸と共に感染していった。研究が進むにつれ適応できない者は何も変化は起こらないし、気付く事もない事が明かされこの細胞の存在は国民から一度消えつつあった。だが、時代とともに能力者が現れ、それを利用とする犯罪が増え、いつしかウィルスのような存在と認識されるようになる。イストリカでは能力者排除運動が高まり政府は能力者を庇う反政府組織に対抗し内戦へと発展しエルネリアも戦火へ巻き込まれる事になる。能力者を保護しようとする反政府組織を支持するエルネリアはイストリカ国と対立し戦争へと身を投じる事になった。



SC3522年 エルネリア東海岸地区 アルスガンド


ここアルスガンドはエルネリア東海岸でも最も活発している都市とも言えるだろう。経済で言えばここも中心の一つとも言える。人口は約970万人。昔、東人の移民も多かったせいか名前も東よりの人が多いのが特徴で文字も東文字が多く使われている。海も綺麗なため今や観光地としての人気はトップを誇る。しかし、治安はいい方とは言えない為、最近では警察の人員強化やサイボーグや無人機などの投入が行われている。それでも、人間の警察による年間の殉職率は高くなっているとのことだ。

俺がそんな都市にやってきたのは何ヶ月か前の事だ。かつては軍で働き除隊し、警察で働きこれも除隊。今は新しいビル建設の工事現場で働いている。決してアルバイトではない。決して正社員で働ける年でもないが・・・・何故か正社員として扱われている。政府の許可付きで。

「拓也!その鋼材をあそこまで運んでくれないか?」

「了解。」

俺は中年で強面の上司にそう言われ約12フィートくらいの長さがある鋼材を持ち上げ指定された場所まで運ぶ。

「重っ・・・・」

いや。これくらいはまだマシな方だ。軍や警察で働いていた時よりは。

「気をつけろよ坊主。それを落としたら俺ら全員が怒られんだから。」

「なら、あんたが受け止めてくれるか?」

「やだね。」

向かいから歩いてきた髭を生やした中年の職印にジョークを投げ返すと、愛想笑いをしながら去っていく。

「おい拓也!」

すると、次は俺と近い歳の青年が俺に焦りながら近づいてくるのがチラッと見えた。青年は息を切らし誰にも聞かれたくないのか囁きながら俺に話しかけてくる。

「あいつが帰ってくるぞ。」

「誰が?」

「誰って、プーラーだよ。」

何か聞き覚えのある名前だが・・・・覚えてないな。

「お前が病院送りにした奴だよ。」

「ああ。あのろくでなしか。」

青年に言われてやっと思い出した。彼は俺より図体がデカく誰も倒す事が出来なさそうな筋肉の持ち主でおまけにハゲだ。ここの現場を牛耳っており作業長の目を盗んでは下っ端に暴行や恐喝などを行ってたろくでなしでもある。俺がここで働いて間も無く奴は「痛い目見たくなかったら俺様に従うんだな。」と襟を掴まれ脅しをかけてきた。俺は相手にするのも面倒くさかったので適当に流したが奴は気に食わなかったのか暴行を仕掛けたが以下略、返り討ちにし病院送りにした。そのあと、社長には怒られたが作業長からは凄く感謝された。恐らく、作業長もプレッシャーをかけられていたのだろう。

そんなろくでなしが帰ってくるという事は俺に復讐をするという事なのだろう。

「あっ、やば・・・・」

すると青年の顔が青ざめ俺から遠ざかっていく。俺は鋼材を下ろし後ろを振り向いた。やはり、プーラーがいる。しかも、鬼のような形相でだ。あれは間違いなく俺を殺すつもりでいるんだろう。片手にはやたらでかいスパナが握っている。

「えらく早い退院だったな。」

「ああ!お前を殺したくてウズウズしてたよ!クソガキ!」

「そのクソガキにやられるなんて情けないよな!その図体のデカさは見た目だけか?」

俺はプーラーを挑発した。周りからは「殺されるぞ・・・・」なんてどよめきが起きるが関係ない。俺が挑発しなくたって奴は殺す気だ。わざわざそんな事をするために戻ってきたのかと少し呆れるというか。

「俺を殺すんだろタコ坊主。さっさとかかって来いよ。」

「この野郎!!!」

挑発に乗ったプーラーは殺気立てどでかいスパナを振り上げこちらへと突進してくる。

奴の気が短くて助かった。俺が挑発したのは奴の思考を減らすためだ。人間誰でも怒りを抱えれば我を忘れ先の事など見えないものだ。そのため、奴は俺を殺す事しか考えていない。つまり、また俺から返り討ちにあう事は考えていなということになる。哀れな奴だ。

「ぬぅんっ!!」

プーラーの握っていたどでかいスパナが俺にへと振りかざす。俺はそれを避ける。

スパナは先が重いためハンマーみたいに振りかざすため、次、振りかざすのに少々時間がかかる。それもデカイ程にな。だから、俺は最初の一撃を避けその時間に勝負を決めた。

まずは、足を思いっきり踏む。奴は退院したで安全靴ではなくブーツだ。それに対し俺は先に金属が入った安全靴。いくら、奴に肉があるからって金属には勝てない。特に指ならな。

「がっ!?」

これで、奴の足の指の何本かは骨折した。怯んだ隙に俺は奴のスパナを奪い右膝めがけて振りかざした。自分でやっておきながらこれは痛い。

「あばぁっ!!??」

これで、奴の右膝は骨折。そして、俺はスパナを後ろに投げ捨てプーラーの顎にトドメの一撃を浴びせた。

プーラーは仰向きに倒れ白目をむき身体を痙攣させている。これでも後遺症は残らない程度にやったつもりだ。

「す、すげーな・・・・拓也。」

(・・・・やっちまった。)

俺は今自分がやった行為をまた後悔することになった。



「全く!!お前という奴は!!何故、また問題を起こすんだ!!」

「何度も正当防衛だって言ってるだろうが!!この石頭野郎が!!」

「上司に向かって何だその言い方は!」

「そのままの事を言ったんだよ!このクソ上司!!」

事務所に呼ばれた俺は何故かおっさん上司と言い合いになっていた。理由は一方的に俺が悪いという事になっているからだ。

「ク、クソ上司だと!?お前はもうクビだ!!」

「上等だ!!」

俺は机の上に置いてあった自分のヘルメットを地面へ投げ捨てた。

だけど、そんな時だった・・・・

「はいはい。お話中失礼しますね〜」

突然ドアを開け部屋に入ってきたのは青く綺麗にデザインされた学院服の女子生徒だ。肩まで届く薄い紫色の髪に左側のサイドテール。目の色はグリーンで一見ゆるい表情を見せているが俺には何故か油断出来ない奴と見抜けた。

「な、なんだね?君は!部外者は立ち入り禁止のはずだ!」

「はず・・・・なんですよね?実は私、警察なんです。」

「け・・・・はあ!?」

声には出さなかったが俺も驚いた。何故、学生が警察にいるのか・・・・って、俺も同じような歳だよな。人の事は言えないか。

「警察といっても、民間警察なんですけどね。」

「民警だと?」

「ええ。ですけど、ほぼ警察と変わらないのでお気になさらず。」

(Private POLICE(民間警察)か・・・・)

民間警察・・・・民間で経営出来る警察組織だ。警察組織事態の殉職率が高いアルスガンドでは人員を補うため民間による警察組織を作る事を許可している。略は民警。民警は警察と同じ権利が得られる為、武器の所持、警察車両への改良、現行犯での逮捕などが認められている。いろいろ問題はあるが、治安を保つ為なら何でもやるって事だろう。勿論、学生での設立も法律違反にはならない・・・・多分。

「民警が何の用だね?」

「メガネに話があるんですけどぉ・・・実はですね〜、この会社にある疑惑が出てるんですよ。確かイジメって言うんですかね?」

「メガっ!?んんっ・・・・イ、イジメ?なら、丁度良かった。この男が犯人だ。さっさと連行してくれ。」

(このクソジジイ・・・・)

なんて奴だ。いくら俺が邪魔だからってここまでするのか。正直、素にショックを受けるよ。

「あれ?可笑しいですね。私の方にはハゲで身体がごっつ〜い奴って聞いてるんですけどぉ?」

「それこそ可笑しいですね。その者は私の会社にはいませんよ。」

彼女は恐らくプーラーの事を言ってるのだろう。ちなみに奴はすでに病院へと運ばれたばかりだ。

てか、それより本当にこの上司はクソだな。

「嘘はよくないですね〜・・・・本場の警察の人が忙しくて私が代わりに来てるんですから正直に話した方が自分のためですよ?ちなみに嘘の懲役はひどいですよ?」

(もう有罪きまってるんだ・・・・)

「嘘ですって?証拠はあるんですか?証拠は?」

おいメガネ。それを言うのはフラグが立ってるんだが。

「証拠ですか?証拠がなければここに来ないんですけどね?」

民警の女子生徒は上司へにっこりと笑いを見せた。それを見た上司は少し動揺する。

「仕方ないですね。証拠その1。ここの会社員の密告ですね。相当怖がってましたよ?よほど勇気を振り絞ったんでしょうねー。」

「なっ・・・・」

「それに私達も捜査したところこんな写真も撮れました。」


民警の女子生徒はデバイスを取り出し、空間に写真のホログラムを出した。その写真には俺も驚くようなものが写っている。

「あなたと病院に運ばれた方・・・・密かに手を組んでますよね?」

その写真にはプーラーがこの上司に金を渡しているところだ。恐らくこの金は部下から巻き上げた物だろう。

「これだけでは不十分なんで更に捜査しましたよ?先ほどのハゲが部下から金を強制的に取ったり、暴行を行ったり・・・・と、いろいろな事を犯した目撃証言や写真もあります。そして、あなたは見て見ぬ振りしてると思ったら共犯だったとはね。」

「ふ、ふん!それは彼が勝手にやった事です。」

「でもあなたは部下の声に聞こえないふりをしていた。それでも立派な犯罪ですよね?それに今、この人の存在を認めましたよね?」

「うっ・・・・」

民警とはいえ凄い事情聴取というか尋問というか・・・・かなり手慣れたものだ。

「で、ですが!その写真では私が彼と共犯している証拠にはなりませんよ!?彼が善意で渡してきた物かもしれませんよ!?」

「はぁ、まだ足掻くんですか・・・・その善意自体怪しいんですが、まあいいです。その時の音声データがあるので何なりと見苦しい言い訳をしてください。」

民警の女子生徒は笑いながらデバイスから音声を流し始める。その内容は、プーラーが部下から巻き上げた金の事を罵ったり、この上司がそれに関わる内容の事を話しているものだった。まさに、決定的証拠だった。

「どうします?出頭なされますか?」

「し、しかし、君たちの調査は法律に反してますよ!?つまりこれは・・・・!」

「いい加減にしてくれませんかねぇ?民警でも密告されれば充分に動けますし法にはギリギリのラインで調査出来るんですよ。ましてや、今に証拠もあるんですよ・・・・」

(自分でギリギリとか言うのかよ。)

「まだ自首の方が罪は軽いですよ?」

「・・・・・」

「なんて甘い事はいいません♪嘘もつきましたし現行犯で逮捕させていただきますね♪」

「なっ!?」

満面の笑みで凄い事を言ってるぞこの女。正しいのは正しいけど・・・・えげつない。

「こ、この男はどうなるのかね!?こいつも暴行罪だぞ!?」

「それはないですね。先ほどの出来事を見た限り彼の言うとおり正当防衛が適応されます。確かにやりすぎですけど・・・・私的には許せる範囲内ですね♪」

(いつから見てたんだ?)

道連れにしようとするとは最後までなんて奴だ。確かに否定できないのは痛いが、民警の女子生徒はお咎めなし、とまではいかないだろうが一応見逃してくれるようだ。

「と言うわけで、16時29分。平野 毅 共犯の容疑で現行犯逮捕しまーす。五十嵐!」

民警の女子生徒は誰かの名前を呼ぶとドアから姿を現したのは、プーラーが帰ってくると教えてくれたあの青年だった。

「き、貴様!何故・・・・」

「潜入捜査ってヤツですよ。一応、法的には問題ないっしょ。」

「と言うわけだから・・・・」

「そ、そんなぁ・・・・」

いい大人が情けない。上司は魂が抜けたかのように地面に膝をつけた。まるで昔の刑事ドラマを見ているようだ。

「ほら、とっとと行くぞ。」

民警だった青年は上司に手錠をかけ強制的に引っ張っていく。これでプーラー共々この会社からはおさらばってとこかな。

「さて・・・・次はあなたですかね。大城戸 拓也さん?」

・・・・だよな。俺も暴行をしたわけだし。

「ほら、現行犯ならあいつと一緒に連れて行け。」


「あれ?人の話を聞いてなかったんですか?別に私はあなたを逮捕したいわけではないんですよ。」

「だったら何だ?」

「あのメガネとハゲはついでってだけです。私の目的はあなたなんですよ。」

・・・・つまり、どういう事だ?

「とりあえず、車まで来てください。詳しいお話はそこでしましょう。」

民警の女子生徒はくるりと180度ターンをし、ドアの方へ歩いていく。

「何ボケーってしてるんですか?どの道あなたはクビなんでしょ?」

「うっ・・・・」

確かにそうだな。あの上司が捕まったとはいえ二度目の問題を起こした俺はクビにされるだろう。

・・・・また、仕事を見つけないといけないのか。



民警の女子生徒の後をついて行き、建設現場付近の道路へとやってくる。そこには一台の古い乗用車が停まってあった。

「あいつらは?」

「先に警察署へと連行しました。警察からパトカーを借りてきていたので。」

「それっていいのかよ・・・・」

本来この国での法律ではパトカーは個人が所有するものだ。コンビニやファーストフード店で駐車しているパトカーを見かけるのも珍しくはない。そんな個人車両を借りるとはどう言ったらいいものか。

「早く乗ってください。」

俺は彼女の言うことに黙って従い、助手席のドアを開け車内へと乗った。

「お前が運転するのか?」

「ええ。一応、免許は持ってるので。」

民警の女子生徒は車のキーを回しエンジンをかける。

・・・・今のご時世にガソリン車とは珍しい。

「くそっ、やっぱりポンコツはダメだな。」

エンジンが中々かからないのか少しイライラした様子でキーを回し続ける。

(・・・・大丈夫かよ)

さっきの誘導尋問といいぶっきらぼうな口ぶりから一転し少し言動が悪くなったのは少し驚いた。ギャップの違いと言うのか。

そう思っていると、段々と車全体が振動しやっとエンジンが始動する。

「大丈夫なのか?この車・・・・」

「多分、大丈夫です。最悪エンストを起こすくらいですから。」

(なんてアバウトな!)

「仕方ないんです。うちらお金がないんで。」

「それは大変そうだな・・・・」

「ごもっともです。」

彼女はそう言うとアクセルを踏み車が進み出す。後ろに・・・・

「おい、後ろに下がってるぞ!」

「分かってますよ。」

(本当に分かってるのかよ!)

彼女は焦った表情も見せず冷静にチェンジレバーをドライブへと切り替える。そして車は前進する。心の中で閉まっておく事にするがペーパードライバーではないよな?

「そ、それで、話ってなんだ?」

「担当直入に言います。私達の民警に入ってください。」

「・・・・はぁ?」

「入ってください。」

(二回言ったよこの人・・・・)

運転に集中してるのか無表情で真意が見えない。

「何で。」

「入って欲しいからです。」

どうやら真意なんてなさそうだ。

「理由はあるだろ。」

「入ったら教えます。」

「普通逆だろ。」

「そうですかね?」

「そうだよ。」

「細かい事でうるさい人ですね・・・・」

(何で俺がそこまで言われなきゃならないんだよ。)

普通の取り引きだったら要求する側から誠意を見せるものだ。それに比べ彼女は「入ったら教えます。」と言っている。よく考えるとおかしい事だ。

「詳しい話をするって言ったのお前だろ。それが、民警に入ってくれって言うだけか?」

「はいはい。すみません。私が悪かったです。」

(くそっ・・・・なんかムカつくな。)

あの尋問の上手さが実感して分かった気がする。彼女は人の感情を揺さぶるのが得意って事だ。

「それで・・・・理由はあるんだろ?」

「はい。あまり詳しい事まで言われてませんが、政府の方から頼まれただけです。」

「・・・・それだけか?」

「ええ。本当にそれだけです。何か不満ですか?」

不満はない。ただ、分からないことはある。何故、政府は民警を通してきたかが分からない。大抵、政府から頼む時は向こうから誰かが密かにやって教えてくれるはずだ。

「質問はしないでください。私達も政府からは何も聞かされてませんから。」

「そうかい。」

彼女に問いかけようと思ったが事前に却下されてしまう。相変わらず無表情で心が読めないが嘘は言ってないようだ。

俺は1度彼女から視線を外し窓の外の景色を見ることにした。中央区に入る手前のため、辺りはビルで覆われている。ホログラムで宣伝する店などが目立ち、文明の発達さが窺える。

「・・・・私個人としてはあなたの経歴を見て入って欲しいと思っています。」

突然、彼女は藪から棒にそう言った。

「私と変わらない年齢で軍に入り、そして警察に入った。評価もかなり高く警察の最終所属は特殊部隊の"特殊強襲制圧隊"。こんな経歴の持ち主を私は見逃したくありません。」

やはり政府からの頼みってのは本当のようだ。確かに俺は軍を抜けた後、警察の特殊部隊に所属していた。これは、自分自身と警察署内の一部の人と政府の人しか知らないことだ。外部の人間に情報が漏れるなど多分あり得ないからな。

「本当なら入ってから話したかったのですが、いいです。今、この街では警察だけでは手に負えない事が起きています。」

「警察だけでは手に負えないこと・・・・」

「"B.A.C感染者"を知ってますよね?」

「ああ。」

B.A.C感染者は"B.A.C"と呼ばれる細胞に感染した人間のことを言う。"B.A.C"に感染した人間は脳が活性化し超能力が使えてしまうといった症状を引き起こすと言われている。病気と認識する人もいるが、これは時代の流れによって見方が変わってきたのだろう。

「B.A.Cは微粒子で肉眼では見えず最新の顕微鏡でもやっと見える程度です。巨大隕石が落下してから80年経った今でも感染者は増えてます。」

「お前が言いたいのは、能力者の犯罪が増えてきたって事なのか?」

「確かにそれもあります。しかし、それより厄介なのが最近の科学で分かってきたんですよ。」

俺は"厄介"という単語に違和感を覚えた。つかさず俺は彼女に問いかける。

「その"厄介"なのって何だ?」

「・・・・これは他の人には絶対に話さないでください。政府が圧力をかけてますので。」

「あ、ああ・・・・」

政府が圧力をかけてるという事は国民や世界の人にはまだ発表していない事になるのだろう。多分、痛烈な批判にパニックを避けるためだろうな。

「B.A.Cは人間を選びます。適合出来れば能力者へと目覚めますが、もし適合できなければ脳の一部が破壊され精神異常が起こるんです。つまり、サイコパス、シリアルキラーが出てくるんですよ。」

俺は思わず彼女の言葉に一瞬言葉を失った。それくらい衝撃的な事を言われたのだ。

「その・・・・適合出来ない確率っていうのは高いものなのか?」

「いえ、政府からはほんのごく稀に出るだけって聞いてます。軽度で済む者は専門家のリハビリで回復できますからね・・・・それに私は先ほど"この街"って言いましたけど、あなたから何か思う事はありませんか?」

赤信号になり停止線の手前で車は停まり、彼女は苦笑いを浮かべ俺を見つめながらそう問いかけてきた。

「・・・・アルスガンドだけ頻繁に発生してるって事か?」

「正解です。何故ここだけ集中的に発生しているのか・・・・いろいろ考えられますが、私は自然で発生してるとは思っていません。」

「誰かが悪意持ってやってるって事なのか?」

「少なくとも私はそう考えてます。」

自然発生ではなく誰かが故意的に起こしている。彼女に反論する気はないが、何故ここだけ多く感染者が増え、誰が何の目的で起こしているのか・・・・他の推定も考えられるけど彼女は誰かが引き起こしていると考えている。そう思える根拠は分からないが彼女なりに何か証拠を持っているのだろう。

「・・・・俺は引退した身だ。何故、俺なんだ?優秀な奴なら他にもいるだろ。」

「引退って、まだ私と同じ年齢のくせに何言ってるんですか。さっきも言いましたけど、優秀な人は見逃したくないんです。特に同年齢な方で警察にいたってのはあなただけですからね。それに今のあなたは学校も行かず無職。生活には困るんじゃないんですか?」

「うっ・・・・確かにそうだけど。」

そうだが・・・無職ってわけではないというのはまだ口に出さない方がいいだろうな・・・

「心配しなくても給料はちゃんと出しますよ。結果さえ良ければですが。」

後の一言は言わなくてもいいだろうが、それが警察としての仕事のため何とも言えない。

「あなたが躊躇っている理由は分からなくもないですが、民警は悪魔でも公務員ではなく民間組織。国のためではなく善良な人達の為と思ってればいいんじゃないんですか?」

「・・・・・」

「一緒にされたくはないと思いますが、私も以前あなたと似たような立場にいましたから。」

彼女は意味深な事を言うと前を向き車をゆっくり発進させた。信号が青になったのだろう。

「そうか・・・・」

似たような立場か。あまりこう言うのは何も言わない方がいいだろう。

だけど、不思議と彼女が言うことに納得出来る気がする。エルネリア軍に入るまでは色々複雑だったが、少なくとも俺はこの国の為に戦った。戦争が終わり軍を退役した俺は警察に入り特殊部隊の一員として生きてきた。そして、人を殺す事もあったこの仕事に精神的な疲れを見せた俺は仕事を辞め、たった一人の家族である妹をら養う為、普通の仕事に就いた。それがさっきの件でパーとなったが・・・・

多分、彼女は肩の荷を下ろしてみたら?と言ったのだろう。

「・・・・悪いけど少し考えさせてくれ。」

「お願いします。」

「ところで今更なんだが何処に行く気なんだ?」

「民警署です。簡単に言えば私達の拠点ですね。」

「・・・・くどいけど、俺を連行してるわけじゃないんだよな?」

「本当にくどいですね。心配しなくても職場見学みたいなものだと思っていてください。」

静かな笑みを見せながら彼女は俺にそう言った。本当に信用していいのだろうか?

「本当なら入ってくれるまで拘束してるつもりでしたが、一応私も警察の仲間ですからね。流石にそこまで鬼畜な事はしませんよ。」

「しれっと何言ってんのお前!結局、逮捕するつもりだったんだろ!」

「佳奈さんに指摘されるまではやるつもりでした。勿論、正当防衛でなければ出来たんですけど。残念♪」

(やっぱり信用できねぇ!)

何て恐ろしい女だ。本当に彼女は民警なのかと疑ってしまう。いや、最近の民警がこんな感じなのか?ともあれ、誰かは知らないが佳那という人には感謝しとかないとな。

「はぁ・・・・お前と話してると何か疲れる。」

「よく言われます。」

「自覚あんのかよ。」

「ええ、性格ですから仕方のない事です。」

こんな民警に入って大丈夫なのかと行先不安になる。いや、まだ入ると決まったわけではないが。

「どうです?入る気になりました?」

「どこでそんな要素があったんだよ。逆に入る気無くしたわ。」

「まあまあ、もう少しで着きますから。」

もしかして、からかわれてるのではないだろうか?

そんな事を思っていた時だった。

『こちら佳奈です。セントラル区120番通りで女の子が一人で泣いていると情報が入りました。可能であれば現場まで向かえれますか?。』

突然、無線から女の子の声が聞こえてきた。どうやら応援要請らしい。それを聞いた彼女はラジオボックスの中に入っているトランシーバーを取り出した。

「えらく古いトランシーバーだな・・・・」

「お金がないので。」

「分かったよ・・・・」

もう言わせんなと言わんばかりに俺を睨め付ける。まあ、色々と苦労してるんだなこの人は。てか、何処で買えるんだ?そのトランシーバー。今の時代、何処に行っても置いている気がしないんだけど。

「こちら穂花です。私達が対処しますので警察の方には連絡しといてください。」

『了解しました。』

通信が終わると彼女はトランシーバーをラジオボックスへと戻した。

「すみません、予定変更です。このまま現場に直行する事になりましたがいいですか?」

「別にいいが・・・・」

「まあ、丁度良かったです。あなたにも手伝ってもらいますから。」

「手伝ってもらうって・・・・」

「頼りにしてますよ?元警察官さん?」

(んな事言われてもなぁ・・・・)

確かに俺は警察にはいたが細かく言うなら元特殊部隊所属で仕事内容が違う!特殊部隊とは武器を持った相手に命をかけて戦う部隊だ。なので俺は戦いが専門であって、刑事みたいに地道に聞き込みなどを行う事などは専門外だ。

「後ろに防弾ベストと色々置いてありますから、それ付けといてくださいね。」

「防弾ベストって・・・・女の子の保護じゃないのか?」

「万が一の時の為ですよ。警察学校とかで教わらなかったんですかぁ?」

くそっ。そのドヤ顔がムカつく。いや、何より一番言われたくない相手かもしれない奴にそう言われのにイラっときたんだろう。

俺は渋々と後ろへ身を乗り出し"P・POLICE Calamity"と書かれたワッペンが貼られている防弾ベストを掴み、狭いスペースの中、何とか着た。後は警棒や銃が装着されているベルトがあり、それも手に取る。

「入ってくれればもっとマシな装備を渡せるんですが・・・・」

「いいよ、今はこれで。」

ホルスターに入っている銃らしき物を取り出す。これは恐らく、ワイヤー式のスタンガンだ。これも、まあ古い物だ。今の時代でこれは化石と言われるくらいだ。この防弾ベストだって役に立つかどうか分からないくらい古い。本当にこんなの何処で買ってるんだ?

「倉木 穂花。」

「えっ?」

「私の名前です。これから行動するのにお前やあんたでは少しやりづらいと思って。」

「・・・・分かった。えっと、倉木。」

「はい。少しの間、よろしくお願いしますね、拓也さん。」


-セントラル区 120番通り-

ここはこの街の中でも賑わいがある繁華街だ。特にこの辺りは若い人が多く、トラブルなんてしょっちゅうあるらしい。子供なんて迷子になるのも分からなくもない・・・・が、今は人が少なくなった時間。親とはぐれるのは考えれなくもないが、女の子一人で路上泣いているのは放っておけない。少しでも早く現場に到着して事情を聞かないと。


・・・ 数10分くらいで現場へ到着し、車が停まると俺はドアを開け外に出る。辺りにはまだ人がいる為、犯罪は起こりにくいと思うが。

「あそこです拓也さん。」

一角に人集りが出来てる場所があった。俺と倉木はそこに急いで走り出す。

「民警です!通してください!」

倉木が野次馬を無理やりどかしていき道を作る。俺より小柄な女の子が大の大人達を押しのけるというのは凄いものだ。

人混みから出ると目の前には座り込んで泣いている女の子。背中まで届いたクリアブルーの髪色に倉木より小柄な女な子だ。目の前には心配そうに座り、女の子に優しく話しかけている女性がいた。多分、通報者だ。

「民警です。唐突ですみませんが、何があったか話してください。」

「あっ、はい。ええと・・・・私は友達との待ち合わせで立っていたんですけど、前からこの子が歩いてきて・・・・そしたら、この子の後ろからいきなり男が走ってきて無理やり鞄を奪ったんです。」

(ひったくりか・・・・)

「この子、引っ張られた衝撃で転んでしまって・・・・」

女の子を見ると足が擦りむいて膝あたりから血が出てるのが見えた。

「女の子を狙うなんて酷い奴ですね・・・・そのひったくり犯は何処へ走って行きましたか?」

「そのまま北へ走って行ったと思いますけど・・・・」

「分かりました。私達は犯人を追いますので、あなたは応援が来るまでこの子のこと頼みます。」

「わ、分かりました!」

「行きますよ拓也さん。」

「あ、ああ!」

倉木は犯人が逃走したと思われる北方面へと走り出し、俺も後を追う。そして、彼女は携帯型デバイスを取り出し、耳へと当てる。

「もしもし倉木です。セントラル区 120番通りでひったくり事件が発生しました。至急来てください。被害者は女の子です・・・・・・ええ。ってか、今何やってるんですか?・・・・っ!?そんな事どうでもいいから早く来い!」

そう叫んだ倉木はデバイスを荒い気にしまう。

「どうしたんだ?」

「あのメガネを警察署まで送った奴です。」

「ああ・・・・そいつがどうかしたのか?」

「今まで、警察署の女の子と話をしてたみたいで。」

それは怒るわな。俺なら倉木と同じ立場なら回し蹴りをくらわしてたな。

「とりあえず来たら目を潰します。」

(俺よりえげつねーな!)

そんな事よりだ。

「どうする倉木。このまま走ってても犯人は見つけられないぞ。」

「そうですね。」

俺たちは一度止まり辺りにを見回す。

「何か証拠があればいいんですが・・・・」

この際まだ人が歩いているんだ。聞き込みをするのが妥当だろうが・・・・俺はある物に目をつけ倉木に話してみる。

「監視カメラはどうなんだ?」

俺が目につけたのは所々の柱の高所に取り付けられた監視カメラだ。よく見ると360℃回転するタイプなので目撃証言が合っていれば犯人は確実に映っているだろうな。

しかし、よく考えれば一つ重要な問題がある。

「くそ・・・・どうやって見るか・・・・」

この監視カメラの映像を保存している場所を突き止めている時間はない。

「心配いりません。」

すると倉木はまた携帯型デバイスを取り出し、耳に当てる。また何処かへ電話をかけるのだろう。

「もしもし、倉木です。120番通りから北に続く監視カメラ映像が見たいんですが・・・・ええ。隣にいる方が出した案なので見返りは彼に要求してください・・・・はい。お願いします。」

電話の相手に倉木はそう言い伝えるとデバイスをしまった。

「これでOKです。」

「いや、話の腰を折るようで悪いけど。見返りって俺の事を言ったのか?」

「他に誰が?」

そんなマジで不思議そうな顔をするなよ。確かに案を出したのは俺だから何も言えないけど。本当に見返りを用意しないといけないのか?

「それで。誰に電話したんだ?」

「ハッキングの専門家です。」

「・・・・今なんて言った?」

「同じ事を言わせないでください。ハッカーですよ、ハッカー。」

いや、ハッキングって違法だろ。と言うより何処をハッキングするんだ?監視カメラが最後に行き着く所と言えば情報管理局だよな。

「ハッキングってお前、それ違法だろ!」

「正義のハッカーなんですが・・・・あれ?でも、ナビゲーターも務めてますからどうなんでしょう・・・・」

「誰の事を言ってるか知らないが、警察としてどうなんだよ。」

「正義のハッカーって言ってんでしょ?通称ホワイトハッカーって呼ばれてるの知らないんですか?」

「知らねーよ!」

ホワイトハッカーなんてあんまり聞いた事がない。いたとしても俺がまだ警察にいた時なんてあまり関わらなかっただろうし。

「佳奈さんですよ。彼女、電子系に強いんです。」

「そんな事、俺に言って大丈夫なのか?」

「何がです?」

「・・・・いや、いい。」

ハッカーの正体を知り合ったばかりの奴に教えていいのか?もし、俺が警察に言えばって事は考えないのか?倉木の表情を見る限り俺に教えたところで満更でもなさそうだが。

「おっ!きたきた。さっすが、仕事が早いですね。」

本当に早いな。まだ30秒も経ってないぞ。

・・・・まあ、ハッキングは置いといて元々の言い出しっぺは俺だからな。もう、食い下がらないでおこう。結果的に犯人には近づいているんだし。

「これは・・・・5分前の映像ですね。」

倉木はデバイスからホログラムを浮かべ防犯カメラの録画映像を流す。そこには一人慌てながら人を避けて走る男性がいた。

「ここは"ディリーフード"の前だな。」

「よく知ってますね。この辺には詳しいんですか?」

「まあ、一度ここで銃撃戦があったからな。」

「初耳ですが、凄い知り方ですね・・・・」

いけね。話すと長くなるから監視カメラの映像に集中しないと。

次の映像は商店街だ。この辺りは人がまだ多く店も沢山あるため場所は分かりやすかった。犯人は人をかき分けて人気のない路地に入るのが見えた。

「ここは"ディリーフード"から更に北へ200メートル行ったところにある場所だな。」

「また銃撃戦で覚えたんですか?」

「街の何処に行っても有戦的に戦えるようちゃんと地理を勉強したんだよ!そもそも、そう頻繁に銃撃戦があってたまるか!」

「分かりましたって・・・・ほんのジョークなのに。」

(今この状況にジョークはいらないんだけど。)

「おや?また佳奈さんからです。」

倉木は一度ホログラムを閉じまたデバイスを耳へと当てる。彼女の言葉からにしてまたあの正義のハッカーからかかってきたのだろう。

「どうしましたか?・・・・ふむふむ。先にそちらを言ってくればよかったんですけど・・・・分かりました。すぐに追いかけます。」

倉木はそう言い終えるとデバイスを耳から離し。

「先ほどラウンドアベニューで犯人が走っていくのを監視カメラが捉えたみたいです。」

「ラウンドアベニューってそんなに遠くないな。」

「はい、走ればまだ何とか捕まえれます。」

倉木はそう言うと急いで犯人の最終確認地点へと走り出す。民警とは言え警察の仕事なんて何処も大変なんだな。


-ラウンドアベニュー-

ここはセントラル区でも最も大きい大通りだ。車の交通量も多く信号も中々歩行者用に変わらないため歩道橋を利用する人も多い。

監視カメラで捉えた犯人の特徴は175cmくらいの青年男性。黒いパーカーを着てフードを被り黒っぽいジーンズを履いている。パッと見れば分かりやすい印象だ。

「何処にいるか分かりますか?」

「んな事言われても・・・・!?」

ラウンドアベニューに着くなり無茶苦茶な質問だと思ったがそうでもなかった。先の路地裏から顔を覗かせる黒いパーカーを着た男性が一瞬顔を覗かせる。

「いたぞ!」

「ちょっ!?拓也さん!」

俺は犯人だと確信し急いで追いかける。倉木も遅れて走り出し何とか着いてくる。

路地裏へ曲がると犯人は建物の壁を蹴りフェンスを越えた。相当運動ができる奴だ。


「っ!」

俺も建物の壁を蹴り、フェンスを乗り越える。意外と体が鈍ってないのが自分でも驚いた。

「どんな運動神経してるんですか!」

流石に倉木はフェンスを飛び越えるのは無理だったみたいだ。だが・・・・

「ふん!」

フェンスの左にあったフェンスゲートを蹴り破る。俺は飛び越えるよりもそっちの方が驚きだ。それよりも・・・・

「そこのお前!今すぐ止まれ!」

俺はスタンガンを取り出し静止を呼びかけるが相手は必死に逃げる。辺りにあるゴミ箱などを散らし俺たちを妨害しようとするが何とか避けていき追いかける。

「撃って止めてください!」

俺の後ろから追いかけてくる倉木はそう叫ぶが、俺にはまだ撃てない理由がある。

「スタンガンのワイヤーが届かないんだよ!」

このスタンガンは旧式の為ワイヤーの長さが最大で4mくらいだ。相手との距離は約5m。ギリギリ犯人には届かない。

「じゃあ、急いで捕まえてください!」

「今やってる!」

よくよく考えたらこの防弾ベストも重いんだよ!これも恐らく旧式の奴だな。どんだけ金がないんだよこの民警は!

そうイライラしながら犯人を追いかけていると、長い路地裏を出た。しかし、次は公園らしき場所が前に現れる。公園の前には入場ゲートがあり警備員もいる。

「どけっ!!」

犯人は警備員を押しのけゲートを通過した。

「民警です!」

俺は動揺している警備員にそれだけ言い残しゲートを通過する。

この時間は恐らく閉門手前の時間だ。辺りには人がおらず犯人を捕まえるならここしかない。

俺は一度スタンガンを戻し警棒を手に取る。そして、大きく振り回して犯人へと投げつけた。警棒はクルクルとブーメランのように回り犯人の方へと飛んでいく。

「いてっ!!」

見事足元へと命中。犯人は転び止めさせる事に成功する。

俺はつかさずスタンガンを抜き取り犯人へと向ける。

「大人しくしろ!もう逃げ場は・・・・」

「避けてください!!」

突然、倉木の叫び声。

すると犯人は右手を俺に向け何かが迫ってくる。

嫌な予感がした。迫ってくる何かに直撃したら無事ではすまないという気がしたからだ・・・・

俺は急いで右へと転げまわる。すると、俺がさっきいた位置には強烈な風圧を受け、さらに転げ回ってしまう。そして、木に背中を打ち付け一瞬意識が飛びそうになった。

「くそ。何が・・・・」

俺はふと後ろを見ると木の真ん中が木っ端微塵になりへし折れている。


「アビレーター(能力者)か・・・・」

初めて見た・・・・

俺が今まで相手にしてきたのは武装した普通の人間だ。そんな、強力な力を持った人間を見て俺は動揺を隠せなかった。

「くそっ!!近寄るな!!」

犯人は俺ではなく倉木に向かって何かを放つ。

「倉木!!」

「心配しないでください!私達はこういうのが専門なんで!!」

すると倉木は慣れた動きで犯人が放った何かを避ける。

「おそらく相手の能力は空気を最大限まで圧縮させて飛ばす、いわゆる空気砲ですよ!当たったら重傷どころではありません!」

「銃より危険じゃねーか!」

俺は起き上がり木の後ろへと隠れる。

「私が囮になります!!その隙に犯人にスタンガンを撃ってください!!」

「作戦を大声で言うな!!」

作戦をもろに声を出して言う奴があるかと思いながらも俺は木から身を乗り出し犯人へと走っていく。

流石に犯人も聞こえていたらしく犯人は俺に手を向け空気砲を放つ。たが、俺は事前に防弾ベストを脱ぎそれを空気砲が飛んでくる方へと投げ捨てる。

「なっ!?」

これは予想はしていなかった犯人は驚いていた。防弾ベストは空気砲に直撃し後ろへ飛ばされる。予想してた通り空気砲の威力が弱まるわけでもなかったため、俺はまた右へと飛び避ける。

「倉木!!」

「分かってますよっと。」

倉木は右の太ももに装着してあるホルスターから銃を取り出す。てか持ってたのかよ銃。

(俺よりいい奴持ってるし・・・・)

銃口を犯人へと向ける。まさか、実弾じゃないよな・・・・

「ひっ!?」

犯人は慌てて倉木へ手を向けるが遅かった。

「女の子を泣かした罪は大きいですよ!」

そして、倉木はトリガーを引き空間には銃声が鳴り響いた。撃たれた犯人は地面へと倒れる。

俺は起き上がり、急いで犯人の方へと走っていく。

「お前・・・・」

「殺してませんよ。よく見てください。」

ちょいっと倉木は人差し指を下に向ける。犯人は白目を向きながら痙攣している。

「気絶してる・・・・」

「これはSC301Aハンドガン用のパラライザー弾です。相手を生きて捕らえる為に使う銃弾で殺しはしません。まあ、銃の性能で実弾にも切り替えが可能で撃ち合いになった時にも便利ですよ?」

銃を見せながらそう説明する倉木。その銃を見てると俺に旧式のスタンガンを持たせた意味ってあったのかよ。

「殺す時は悪魔でも撃ち合いになった時か狂気で残忍な奴を撃つ時だけです。」

「つまり、判断は自分次第って事か?」

「そうも言えますね。でも、私はあまり殺さず捕まえる側なので安心してください。」

倉木はそう言い終えると手錠を取り出し犯人の両手を後ろにし拘束する。

「え〜・・・・名前は知らないですけど、17時50分。窃盗類の容疑で現行犯逮捕っと。」

・・・・あまり殺さずに・・・・か。

今まで人を殺すだけの仕事をしたきた俺にとっては・・・・まだいい方な仕事かもしれない。

そんな事をふと思ってしまっていた。

「何してんですか?早くこいつを運んでください。」

「えっ?さっきの現場までか?」

「当たり前ですよ。女の子に男を担げって言うんですか?」

「・・・・くそ、分かったよ!」

・・・・やはりもう少し考えた方が良さそうだ。



やっとの事で犯人を担いだまま120番通りまで戻って来た。そこはまだ野次馬が残っており警察も現場にいた。

「ちっ。何で警察がいるんだよ。」

「当たり前だろ。民警だけにこんな事任せるわけにはいかないだろうが。」

倉木は軽く舌打ちをし、男混ざりな一言を放つ。何かと倉木って言葉が悪いな。

俺は犯人を何とか起こし警察官へと歩かす。

「今日の手柄はカラミティーか?また、Law Line(法律線)をギリギリ渡るような事をしでかしたのか?」

「そう毎回しませんよ。」

ジョークトークが終わり、俺は犯人を警察官へと渡す。よって、これで俺のお手伝いはお終いだ。

「最後の仕事がありますよ。」

「ぐあっ!?」

腹に何か直撃した。微妙に痛い。倉木が何かを渡したのだろう。

「鞄?」

「あの女の子のですよ。」

「お前の役目だろ。」

「女の子を慰めるのは男の役目です。」

「・・・・知らないけど、分かったよ。」

何故か押し負ける。本当に何でなんだろう。

俺は渋々ベンチに座っている女の子方へと歩いていく。

「えっと・・・・少しいいかな?」

女の子は俺を見上げ軽くコクっと頷いた。俺は女の子の隣へ座る。

「犯人は捕まえたよ。」

「・・・・・うん。」

「あと、これも取り返した。」

俺は女の子の膝に鞄をそっと置いた。

「私の鞄・・・・」

女の子は微笑み涙目を浮かべながら鞄を持ちギュっと抱きしめた。

「大事な物なの?」

「うん。お父さんから貰ったの。」

「それは大事な物だな。」

「うん。」

俺に微笑みながら頷く女の子。それを見てると何故か胸が暖かくなった。なんというか・・・・達成感と言うのだろうか?

「エミ!!」

すると、何処からか中年くらいの男性の叫ぶ声がした。女の子はそれに反応してベンチからおりる。

「お父さん!」

「ああ、無事で良かったよエミ。」

どうやら女の子の父親のようだ。俺も立ち上がりその方を見つめていた。

「こういうのいいっしょ?」

「・・・・まあ、悪くはないな。」

「入ります?」

「今ので台無しだな。」

くどいセールスマンの被害にあっている人達の気持ちがよく分かる気がする。

「ありがとうございます。何とお礼をしたらいい・・・・」

「いいえ。お礼なんてねぇ?」

「ああ。俺はまだ民警じゃ・・・・ぶっ!?」

何故か倉木の肘突きを横腹に受けてしまう。何か間違った事を言ったのか俺?

そんな俺に女の子は近寄ると。

「あ、あの、お兄さん。よ、よかったらなんですが・・・・私のお店に来てください。」

「えっ?」

「お、お礼に何か・・・・」

女の子は恥ずかしそうに赤面し俺にそう言った。

「そうですね。お礼に私が経営しているカフェで何かご馳走しましょう。」

「いえ、でも・・・・」

「民警にはお世話になりましたから是非お礼をさせてください。」

「いや、頭を下げないでください。」

そもそも、俺は民警じゃない。

「わ、分かりました。近いうちに寄らせて頂きます。」

何で俺がこんな事言わないといけないんだ?本来は倉木の手柄だろ。

「ありがとうございます。」

「ありがとう、お兄さん。」

(ああ・・・・もう。別にそれでいいですよ。)

俺は女の子の父親が経営するカフェの住所が書かれた紙を貰い、女の子と父親と別れを告げた。

「これが狙いか?」

「あなたがロリコンだったら上手くいってたと思ったんですけど。」

「お前。俺を何だと思ってるんだ?」

「逆にあなたは私をどう思いましたか?」

質問を質問で返されてしまった。

「変な奴。」

「あはは!ストレートにそう言う人初めて見ました!」

「悪口言われてんのに笑うのかよ。」

本当に変な奴だ。

「・・・・悪い。本当は凄いと思ってるよ。」

「何がです?」

「あんな人間以上の力を持った奴に対抗するなんてさ。」

「これが仕事ですから。」

あの慣れた動きは何回も能力者と戦ってきたんだろう。それに比べ俺は不覚にも一瞬だけ動揺してしまった。多分それは仕方がない事だ。俺は初めて能力者の力を見て驚きを隠せずにいたのだから・・・・

あの時投げた防弾ベストを見てみたら見事にプレート部が大きくへこんでおり、もし、あれをもろに受けていたら死んでいたかもしれない。良くて、障害が残るくらいの大怪我か。

「おーい!倉木!!」

ふと何処からか男が叫ぶ声が聞こえた。野次馬を掻き分けそこに現れたのは1時間位前にメガネ上司を運んでいった青年だ。

「遅くなってわる・・・・ぎゃあああああっ!!??」

彼は倉木に近寄るなり何故か悲鳴をあげる。まあ、無理もない。倉木はさっき言った通りの行動を本気で行ったんだから。

(目潰しえげつねー・・・・)

「遅いわっ!もう解決したっつーの!」

「目が!目がぁぁぁぁ!!」

青年は目を押さえかなり痛そうに床を転げ回る。それを見ていた警察官も青ざめ同情しながらも彼を見つめていた。

「で?どうしますか?」

「何が?」

「入るか入らないかって話です。」

またそれか・・・・・と言いたかったところだが。

「・・・・分かったよ。入ってやる。今更俺に見合った仕事なんてこれくらいしかないみたいだし。」

「えっ?」

「いや、何でお前が驚いた顔をしてるんだ。」

「いえ・・・・てっきりまだ拒否するのかと思ってましたから・・・・」

倉木って人間はこれ以上拒否し続けても諦める気なさそうな奴だし、正直、素直に入るって言った方が丸く面倒な事が起こらずに済む。

「まあ、終わり良ければ全て良しと言いますからね。歓迎しますよ、大城戸 拓也さん?」

倉木は微笑みを浮かべながら俺に手を差し伸べた。俺はゆっくりと彼女の手を握り握手を交わした。さっきの目潰しの光景が浮かんで少し恐ろしかったが。

「とりあえず今日は帰っていいか?妹に夕飯を作らないといけないんだか・・・・」

「ええ。構いません。また後日、詳しい案内を致しますのでよろしくお願いします。」

倉木は無表情なままそう言うと頭を軽く下げた。俺も軽く頷く程度に頭を下げ、彼女と反対の方向へと歩き出す。すると、ズボンのポケットにしまってあった携帯型デバイスが震えたのを感じそれを取り出す。デバイスの画面には"真奈 激おこ( *`ω´)"というメッセージが出ていた。

(怒ってんのか怒ってないのかどっちなんだよ。)

俺はふと苦笑いをしながらメッセージの内容を見る。


- 今日のお夕食はどうしますか?帰りが遅いようなら真奈が作っておきますけど(*`・з・´)


少し顔文字のチョイスが間違っているような気もするが・・・・どうでもいいか。


- いや、今すぐ帰るから今日は俺が作るよ〜


と妹の真奈へと返信した。すると、早くも俺に返信が届く。


- イエッサー!(>人(*`・з・´)


明らかこれは間違いに気づいて慌ててしまい、消しきれず履歴にある奴を押してしまったパターンの奴だな。


- イエッサー!(^O^)/


また送ってきやがった。しかも今度はちゃんと訂正して・・・・

「面白い妹さんですね。」

俺はふと立ち止まり後ろを見た。少し離れているが、そこには倉木が立っている。

今、彼女は何て言ったんだ?

「拓也さんは料理作れるんですね。」

「お前、何で・・・・」

「すみません。私としたことが重要な事を伝えるの忘れてました。」

「そんな重要な事は忘れるなよ!」

「私。以外とドジっ子なんで。」

絶対に嘘だ。あんな、あざといテヘッてポーズをとる奴なんて大体嘘ついている証だ。しかも、不気味に無表情だし。そのポーズをする意味あったのか?

「で?なんだよ?」

「そうですね・・・・・実は私・・・・"能力者"なんですよ。」

(・・・・・はぁ?)

「理解しました?」

「・・・・あのさ倉木。」

「はい?」

「それは先に言えよ!!」

ああ・・・・今日の疲れは多分、役じゃないツッコミに走ってしまったせいだ。

それに・・・・彼女の民警に入るって言ったのはまだ考えてからの方が良かったかもしれない。もしかして、俺って早とちりな事をしてしまったのか?

警察系が書きたかったとあり、いろいろ設定を考えて書いてみました。相変わらず文章が素人で分かりにくかったり、誤字が多かったりとしますが、少しでも読んで頂けたら幸いです。

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