廃妃
白熱する太陽に炙られた空は、薄藍の火焔となって燃え盛る。見渡す限りの孔雀青の海は抜き身の剣のように煌めき、島々におびただしく繁茂する緑の木下闇は墨を刷いたように暗い。
打ち棄てられた離宮を覆い包むように、甘橙の木立は瑞々しい枝葉を扇のように押し広げた。鈴なりの黄金色の実は、粒揃いの珠玉をふんだんに連ねた首飾りのようだ。蜜を含み、まろやかに膨らんで枝をたわませ、賞味する唇をせがむ。
だが、甲斐甲斐しくかしずく農夫もなく、餓え渇いた旅人も足を向けぬ禁域であり、実の大半はいたずらに熟れ朽ちるままにされた。
時を逸した酸い果肉を、裂け破れた果皮からこそげて喰らうのは、冠羽を逆立てた獣鳥や豹紋の大蜥蜴ばかり。古びて黒ずんだ果汁には、ぞわぞわと地を這う多肢の虫や椰子蟹、宿借りどもが群がり寄る。
恨みがましく萎び、虚しく砂にまみれた無数の落果のかたわらで、樹下に咲き匂う野百合と蘭、夾竹桃の香りが綯い交ぜられ、蛇の腹のような物思わしい湿りを帯びた。濃密な芳香は、岸辺に吹き寄せる潮風に乗り、軽やかな輿に担がれた貴婦人のように運ばれる。壊れた窓から離宮に忍び入り、風雨に晒されひびわれた柱廊を過ぎて、宮の奥深くに幽閉された廃妃の髪をくすぐった。
罪人となり王の側室を降ろされた女には、簪はおろか、髷を結うことすら許されない。梳きおろした豊かな黒髪は、蕉紗の簡素な白装束をまとった肩を滑り、滝のように腰に流れ落ちて、膝裏へ届き、床にまで及んでとぐろを巻く。
財物を没収され、後宮の座所を追われた廃妃は、草木に埋もれた王都の外れに身柄を移されるに至った。老いた驢馬の背に乗せられて荒城の牢獄へ連行される間際、ただ一つだけ、使いなじんだ織機を伴うことを望み、聞き入れられた。
髪を振り乱しながら一心に機を織っていた女は、風の呼び声を聞きとり、束の間、筬を操る手を休めた。
「あら、こんな場所にも客人が」
虚空に向かって呟き、寂しくほほ笑みかける。




