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~亜世界転移~  弱虫クソ雑魚鈍才な勇者(一秒のみ)    作者: 赤木野 百十一茄太郎
俺たちの戦いだ
73/89

猟奇なまでに純情 純情なまでに純悪

今回は菜野と利知の強さを書きました。


菜野はガリガリ自分の右人差し指を噛んでいた。

「うぎぎぎぎぎぎぎぎ」

ギリギリと口に力を入れて「アガッ!」皮膚を噛みちぎる。

苦痛が、ひっきりなしに目から涙を流させるがそれでも皮膚を噛みちぎっていくのを辞めない。


涙にぼやけながら自分の骨が見えて、ひきつりながら菜野は無理矢理笑った。

彼女は狂人のようにふるまって、自分を奮い立たせていた。

「あははははあはははあははははあははははははあはあはあはは」

涙ぐみながら、笑う。

脱出するための下準備をしているのだが、想像以上の辛さである。


そして、どうにか人差し指の肉を全て剥ぎ骨だけになったのを

落ちていた小石で削っていく。


やっていることが狂人の行いだと菜野は自分でも怖くなった、しかし。

菜野の中での熱い、熱をもった心が、行為を続けさせる。


そして、菜野は「終わった……!」地獄のような作業の中笑った。

牢屋の鍵のような形に菜野の骨は小石で削られて変形していた。

「んぎっ、うぐ」

鉄格子の隙間から腕を伸ばし、鍵穴に指を差し込む。

そしてその骨でつくったカギが、牢屋を……開けた。


――――――――――――――――――――――――――――


一方その頃。

利知は、ここにたどり着いた。

ミノリがこの屋敷に大穴を開けて出て行った場所にたどり着いてへなへなとその場にへたり込む。


道中、豪華絢爛なここには場違いな下品な服装をした男や偏屈そうな女がいたが全て無視して進んだ。

何でいるのか?なんていうのは利知は何となくわかっていた。

彼らはフォバルナエタ会、何の意味もなくとんでもないことをする奴ら。

ここにいるのもきっと大した意味なんてない。

そんな利知の、敵。


ミノリの開けた大穴を

見ていると吐き気と虚しさがこみ上げてきて。

どうしようもないほど息苦しくなってしまう。

何でここに来たんだ、利知は自分でもそう思った。


とっとと帰ろう、そう思って立ち上がった利知に

「利知」アカネが優しく声をかける。

「後ろ、敵がいる」優しいが、冷たい声だった。


利知はギリギリと歯ぎしりをした。

ミノリの死を強く思い出してその死を生みだした奴らを丁度殺してやりたいと感じていたところの彼は

勢いよく振り向く、どんな奴だろうとぶん殴ってやると決めて。


「え」

だが、その決意は後ろにいた男の顔を見て驚愕した。

上松だった。


「おまっ、お前えええ‼‼‼‼殺すッ‼‼‼殺してやるツ‼‼‼‼」

フォバルナエタの会長、上松を見て利知の中で人としての何かがプツッ、と切れたような気がした。

走り、上松の胸を殴る。

顔は身長が足りずに届かなかったが、それでも気にせず全力で殴りつけた。


利知の中で、罪悪感が生まれる。

とにかく必死で拳を叩きこむたび、自分を殴っているような気分になった。

これまで傷つき続けて、人を傷つけることの恐ろしさを知っているから。

それでも利知はこいつだけは生かしていちゃいけないと思った。

全ての元凶だから。


上松は必死に攻撃を続ける利知を見下ろした後。

「質問だけどさ、なんでお前、赤い化け物の力を使わないんだ?」

「ウがあッ」上松は利知をサッカーボールのように蹴り飛ばし、聞いた。


転げながら、利知は上松をにらむ。

「お前ッ、げほ、げほ」咳込みながらにらんで、驚愕した。


上松の目が厨二病チックに赤く染まり。

現実感のない、全体的に赤黒い触手の先に薄い赤色の刃のついたものが何本も彼の右腕を突き破って伸びていた。

「なんだ、こんなモン赤い化け物の力と適合できたら誰でも使えるだろ?適合した日から使えたぞ」


上松は、赤い化け物の体を体内に利知のように取り込み『モノにした』ようだったが。

「いや、何を呆けてるんだよ?」上松は明らかに利知異常に力を使いこなしていた。

「まさか、これ使えないのか?」利知をあざける様に上松は言う。

「鈍才、だな」流れるように言う言葉は、利知に向けられたものだった。


その言葉でアカネは逡巡する

――もしかして、本来赤い化け物の力を与えられた利知は上松のように触手を出せたり

もっと強い力を持つはずだったの?―――


アカネはこれまでのことと上松の言葉から考えた。

まず、赤い化け物のは暴走する自分を殺してもらうために利知に力を与えた

しかしそれは明らかに赤い化け物の殺せるくらい強い力じゃない、ただ怪我が常人より治りやすい「だけ」

そう、赤い化け物は元々利知にもっと凄い力を分け与えるつもりだったが失敗した。

本来もっと強い力を利知は得るはずだった。


そんなこと今更気づいてもどうしようもない、とかぶりを振って

アカネは思考を目の前の出来事に引き戻し利知に指示を出す。

「利知、右左後ろジャンプしゃがむ」と言うのと同時に上松が触手を利知に襲わせてくる。

「えっ!?えっそんな無茶な」アカネの言う通り、利知は動くが

ジャンプをするところで足をもつれさせ

「あぐッ!」

斬られた。

右足首を斬られ利知は転倒した。


「このクソ……!」利知は上松を転げたままにらみつける。

上松は無感動に利知を見下ろす。

「じゃあ。そろそろ殺すか、確か脳みそを95%くらい潰せばもういいんだったけか」

利知は必死で立ち上がろうとした、しかし斬られた部分はかなり深く立ち上がれない。

一応いつものように怪我はどんどん治っていっているが、十分程度治癒にかかりそうだった。

つまりは、治る前に殺されてしまう。


「利知ッ、早く、どうにか……どうにかしな、しな、しないと」

アカネが利知が殺されそうになって焦るが、いいアイデアが浮かばず混乱していた。


利知は、上松が自分を殺そうと生えた触手を不気味にうねらせているのを見ながら

もう死んでもいいか、そんな気になった。

――もう、疲れた――――

そう感じると一瞬で力が抜ける。

利知は生きる気力を無くしていた。


「じゃあな」ドスリ、と利知の目に触手の先の刃が突き刺さる。

「アガッ!?うぎっ?う、があああ」「おっと、外したか」

上松はたまたま普段の疲れから狙いを外した。

結果、一瞬で死ぬはずだった利知は苦痛を受け、その痛苦が本能に死の恐怖を与えるとともに、利知を無理やり「生きる」現実に首根っこを捕まえて引き戻す。


ぞわぞわと這い登ってくる死の恐怖を再び感じながら。

利知はもがく、次の攻撃が来る前に立ち上がろうとしたがまだ怪我が治っていない。

足はまともに使えないし、目もしばらく治らない。

詰んでいる、だがしかし死にたくないと思ってしまったらあきらめられない。


――――だったら―――――

「上松!」殴り合いをしたりするからダメなのだ。

今は利知に戦って勝つ力は無い。

だからフィジカルの関係ないやり方をしないといけない。


「お前、やること全てに突き詰めれば意味ないって言ってたろ!?」

そう、かっこ悪く言えば命乞いを、かっこ良く言えば説得をすることに利知は決めた。


「だったら、俺を殺すのも無意味……やらなくていいことだろ……!」

「そうだな、でもお前を生かすのも結局は無意味だからやらなくていいんだよな」

上松にそう言われても利知はあきらめない。

「別にお前が殺さなくても、俺は……」

一瞬利知は続く言葉の絶望的意味に口を閉ざしそうになったが。

「……俺は、もうすぐ死ぬ!今お前が手間をかけて殺す必要は無いんだッ!」

続けて一息で言った、言ったら、心の中にズキリと棘が刺さるのがわかった。


絶望的この状況ですら利用してまで利知は生きようとしていた。

『ミノリを殺しておいて、沢山の人を救えないで、自分だけ死ぬ』のは卑怯だと感じた。


「上松ッ!無意味なら俺の頼みくらい聞いたっていいじゃないか!」

上松は頭をポリポリと掻きながら

「でも、世界を滅ぼしたいんだよなあ俺は、だから世界を滅ぼせる赤い化け物を殺せるお前は邪魔なんだ」

利知はギリ、と歯ぎしりして。

そして、だから俺を殺そうとしたのかと納得して。

「俺に……赤い化け物が殺せると思うのか?」

聞いた。


上松は目を何かに気づいたように一瞬大きく見開いてすぐ

「それもそうだな、お前じゃ無理だ、じゃあ通れよ」言った。

触手がずるずると腕に戻っていく。

そして利知に微笑む。


「……本当に彼に攻撃の意思はないみたい」アカネがそう言う。

彼女の観察眼はかなり研ぎ澄まされたものだから、利知は彼女の言葉を信じた。


上松の横をすり抜けて、走る。

ボソリと上松がつぶやいた。

「どうせ、お前は殺されるしな」


利知はその言葉を無視した。

もうちょっと屋敷の中での話が続くんです。

後、前回も言った通り後二週間程度更新頻度落ちます。

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